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国際人権ひろば No.63(2005年09月発行号)

現代国際人権考

戦後60年と憲法・教育基本法の危機

樋口 浩 (ひぐち ひろし) 教職員共済生活協同組合審査委員長・ヒューライツ大阪理事

  戦後60年をむかえた。
  概ね日本国憲法と教育基本法の下での60年である。旧の大日本帝国憲法(1889・明治22年制定)と教育勅語(1890・明治23年)が機能したのは、1945(昭和20)年までの56年及び55年間である。一方、我が平和憲法と教育基本法は1947(昭和22)年から58年間であり、すでに旧憲法・教育勅語時代よりも長くなっている。このことを誇りにしつつも「改正」の動きが気になる戦後60年である。

教育勅語と教育基本法


  教育勅語は、「父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ」といった徳目を14個並べた後「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」として、「皇運の扶翼」を第一義に、富国強兵・殖産興業に資する臣民の育成の為に、国家が国民を教化する、国家主義の立場を徹底していた。
  一方、教育基本法は、前文で「民主的で文化的な国家を建設し、世界の平和と人類の福祉に貢献」するとの日本国憲法の「理想の実現」の為にこの法を定めることを宣言する。そうして「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者」の育成を期す事を「教育の目的」(第1条)としている。徹底した個人尊重主義である。
  教育勅語が、とことんまでその精神を貫徹して、大半の青少年を「天皇の為に死ぬ」「靖国で逢おう」という方向に「教化」したのに比して、遺憾ながら、教育基本法は制定以来一貫して、実施責任者である首相・文相らによる「棚上げ」「改正」策に揺さぶられつづけたために、十全に機能したとは言えない。
  法制定2年後の吉田首相による「教育宣言」構想は、教育基本法の「棚上げ」策だった。1950(昭和25)年に朝鮮戦争勃発という東西対立の激化、対日占領政策の転換の中で、天野文相は吉田首相の構想を引き継いで、「国民実践要領」(1951年11月)を発表した。いずれも世論の批判のおかげで、事なきを得たのだが、基本法の尊重と徹底した実施にはほど遠いものであった。その後もほぼ10年に一回のペースで、大きな「改正」の動きだけでも六回を数えるのである。

教育基本法「改正」のねらいと現段階


  教育基本法制定以来の「改正」論の主要なポイントは、伝統文化の尊重、愛国心、道徳心などを導入すべきだとする、国家中心主義への回帰であった。
  今回の「改正」動向は、2000年教育改革国民会議報告、03年中央教育審議会(中教審)答申、更に与党の教育基本法改正協議会の中間報告(04年6月16日)を経て今日まで、既に5年以上の時間をかけて、正規の舞台での検討が大詰めを迎えており、いつ法案化されても不思議でないという所まで来ている。
  内容的には、愛国心など定番三項目に加えて、家庭教育・幼児教育・大学教育や、学校・家庭・地域の連携協力まで、幅広い「改正」意見を取り入れており、教育振興基本計画を定めることによって、教育予算の確保をめざすとの「言い訳」まで用意されている。
  教基法「改正」論は、個人の尊厳を無視・軽視し、国民が愛国心を持つようにし向ける国家の事業に、教育を変えようとしている。それは取りも直さず、教育勅語の教育観への逆戻りであり、憲法違反である。

改憲との連動


  改憲との連動について、二つの面がある。
  一つには、平和・人権・主権在民の憲法理念を実現するための教育基本法を変えることは、実質的には憲法の「改正」を意味する、という面がある。
  二つには、教基法「改正」によって「まともな教育を受けた国民を」を増やす事で「押し付け憲法」を改正するという改憲派のもくろみの側面である。
  右翼的な改憲団体が「終戦60年 まず教基法の改正を」と署名や集会・地方自治体決議・国会議員に対する要請行動等を夏前まで繰り返したが、結局、三位一体改革による義務教育費国庫負担制度の改廃、および愛国心をめぐる与党内部の対立、さらには、郵政民営化に向けた小泉首相の政冶手法をめぐる自民党の内紛等々によって、その野望は砕かれた。
  しかし、05年9.11総選挙の結果、憲法も教基法も新たな試練の時を迎えることになった。自民・公明の両党合わせて327議席という超大与党の動向を注意深く見守っていく必要がある。

世界人権宣言に合致する教育基本法


  最後に、「教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない」という世界人権宣言(第26条2項)の規定に、教育基本法が完全に合致していることを確認し、子どもの権利条約、女性差別撤廃条約の教育に関する規定も、同趣旨であることを確認して、むざむざと教育基本法の改悪を許さない力にしたい。