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国際人権ひろば No.48(2003年03月発行号)

人権の潮流

障害者に対する欠格条項をなくすために -「違い」を包容する社会をめざして

臼井 久実子 (うすい くみこ) 障害者欠格条項をなくす会・事務局長

日本の障害者欠格条項


 「完全参加と平等」を掲げた1981年の国際障害者年以降も、日本では欠格条項に象徴されるように、法制度が障害者を社会参加から遠ざけ、差別や偏見を拡大してきた。
 01年、聴覚障害を理由に薬剤師免許を阻む欠格条項はなくなり、新たに資格を得る人、学ぶ人が出てきている。医師国家試験では、初めて視覚障害者に対応した検討を進めるようになった。"障害者には危険で不可能"とされてきた分野も、確かに変わり始めている。
 欠格条項とは、特定の地位や職業につくこと、社会的活動にかかわる資格要件を欠く事由(欠格事由)を定めて権利を制限する法令規定である。障害を理由にするもののほか「禁錮以上の刑に処せられて執行が終わっていない者」や「日本国籍を有しない者」などもある。
 ここでは障害者に対する欠格条項の例として、医師法・道路交通法・公営住宅法施行令をあげる。
 医師法には「未成年者、成年被後見人、被保佐人、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、免許を与えない」「精神病者には免許を与えないことがある」旨の条文があった。「免許を与えない」理由として、患者や関係職種とのコミュニケーションに支障があり、適正に業務を行うことが困難、ということがあげられてきた。
 道路交通法は「精神病者、知的障害者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者」には運転免許を与えないとし、「交通の危険を生じさせるおそれがあるから」としてきた。ただし運用上は、裁判や当事者による運動も背景となって、たとえば聴覚障害者は補聴器をつけ10m離れてクラクション相当の音が聞こえれば可とするなど、施行規則や通達等で緩和していた部分もあった。免許取得時や更新時に、病気にかかわる検査や診断書提出の義務付けはなかった。
 公営住宅法施行令では、「身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とする者」は、不適切とみなせば単身での入居資格を認めない旨の条文だった。さらに「介護が必要な人は申し込めません」と入居者募集のしおりに記載したり、「自活状況申し立て書」で「ひとりでトイレができるか」「食事ができるか」を提出させるなど、ほとんど入居不可能な制度運用が続いてきた。
 法令にならって、地方条例、法人の約款、受験資格、就業規則などにも多くの欠格規定がある。地方条例は、主に精神障害者を対象に「議会や委員会を傍聴できない」「図書館やプールの利用を禁止する」などの制限を今も残すものがある。公務員試験には「活字印刷文に対応できる(点字受験不可)」「自力で通勤し、単独で職務遂行できる」などを受験資格とするものが多い。欠格条項見直しが進む中で、試験・教育のあり方が改めて焦点となり、地方自治体でも受験資格と試験のあり方の検討がようやく始まっている。
 たとえば刑に処せられた人は、刑期を終えれば欠格事由に該当しなくなるが、障害者は障害があるというだけで、あらかじめ権利制限の対象となる。「危険とみなしてあらかじめ排除」し、「できないにきまっていると可能性を否定」する点が障害者に対する欠格条項の特徴である。上述の「目が見えない者、耳の聞こえない者...には運転免許を与えない」にもみられるように、障害者欠格条項はその人自身を見るのではなく、障害のみに着目して排除しようとするものだ。合理的な理由もなく権利を制限するならば、それは法令による差別にほかならず、障害者団体は、欠格条項を「差別法」「問答無用の門前払い」等と名づけてきた。

障害者団体の取り組み


 欠格条項ゆえに運転免許を剥奪された人の裁判など、欠格条項に阻まれた個人による、人生をかけた異義申し立ては、何度も行われてきた。民間賃貸住宅はほとんど入居拒否、介助者派遣制度などゼロの地点から出発した障害者の自立生活運動が30年の蓄積をもち、雇用支援の技術開発、実践も進んできた。「通いの介助者をコーディネートして、必要な機器も使って、地域社会で単身で生活できる」「適切な支援があれば、就労不可能と考えられていた人も能力を発揮でき、一般の職場で働ける」ことを実際に示し、現実に広げてきた。
 93年「障害者対策に関する新長期計画」は、除去を目指すべき障壁の一つに「資格制限等による制度的な障壁」を掲げたものの進展しなかったが、98年前後、政府にも取り組みの気運がみられた。この気運をチャンスに、と聴覚障害者団体等は、200万人を超える差別法撤廃署名や議会請願など集中した活動を展開した。きわめて狭い道をたどり試験に合格しても欠格条項ゆえに免許交付を拒否された人や、欠格条項のもとで「いるはずがない」「いてはならない」とされてきた、現職の障害がある医師等が声をあげたことが、この時期の大きな推進力となった。
 筆者が事務局をつとめる「障害者欠格条項をなくす会」も、継続的な、障害別をこえた活動をめざして99年発足し、体験や意見の募集、調査、情報提供、政策提言、各省庁との交渉などを行ってきた。99年8月には初の政府方針が決定され、見直し対象の「63制度」について各省庁が作業してきた。
 その結果、「63制度」のうち「免許を与えない」としていたものは、「免許を与えないことがある」に変わった。栄養士、調理師、製菓衛生士、検察審査会員は、障害者に関する欠格条項を全廃。薬剤師、義肢装具士、臨床検査技師は、聴覚障害者が免許取得する上での欠格条項を削除。
 医師法は、「心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として省令で定める者」とし、省令で「視覚、聴覚音声言語、精神の機能の障害」と規定したことで、従来の欠格条項を中途半端に残した。
 道交法については、原則として精神病者、てんかん病者に免許を与えないという主旨だった最初の試案は廃案にしたが、発作の可能性がある病気等を制限対象に加え、病状申告導入・臨時適性検査義務化など大幅に制限を強めた。公営住宅は、必要な介助を得られるなら入居を認める旨の条文となった。
 外国へのアンケート調査(注)から運転免許について見ると、回答した国々では、現在のコンディションおよび比較的近い過去の症状を聞き、運転できる症状であれば、年限付き、昼間だけの運転といった条件付きの形を含めて、最大限、その人が安全に運転でき生活ニーズを満たすよう考慮している。排除しないだけでなく、必要な配慮や支援をして初めて公正平等な扱いになるという考え方を、たとえば米国の障害者差別禁止法のように法制度で定着させてきた。
 一方、日本では現在も、障害や病気があれば「将来の危険のおそれがある」という漠然とした理由で、免許交付・更新そのものが左右される。将来の危険の確実な予測は、本来誰にもできないことだ。運転者個々人はセルフコントロールで安全につとめており、その尊重を原則に据えるべきである。安全に運転できる道路交通環境づくりに知恵を集め、地域社会であたりまえの生活を送りながら必要な時に安心して医療を受けられる環境をつくることが先決問題である。
 欠格条項をなくすとは、法制度を変えるだけでなく、社会の障害者に対する態度、枠組みを変えることである。劣等のレッテルを貼られず、分け隔てられず、様々に違ったニーズをもつ人々が、それぞれ必要な支援を得て学び働けるようにすることである。
 02年には、「アジア太平洋障害者の十年」最終年を記念し、各地で国際会議が開催された。共通してテーマになったのは、国連「障害者の権利条約」。世界の40か国以上が障害者にかかわる差別禁止法・人権法制を持つ中、ようやく日本でも差別禁止法を求める動きが始まっている。差別禁止法を制定し、そのもとで各分野の法制度再構築、差別法=欠格条項の一掃への確かな歩みを進めたい。

(注)『障害を理由とする欠格条項 諸外国の実情』
(アジア太平洋障害者の十年推進地域会議・2001年、 http://www.ne.jp/asahi/mori/ami/info01010402.htm )。この調査結果に基づき『Q&A 障害者の欠格条項』(編著 ・臼井久実子、企画・障害者欠格条項をなくす会 、明石書店発行・2002年)に「海外の欠格条項」(本文・佐藤久夫氏)および資料表がある。

※(「障害者欠格条項をなくす会」のホームページ http://saka-ue.cside.com/j/restrict/