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国際人権ひろば No.48(2003年03月発行号)

国際化と人権

アジア地域におけるITと市民の人権 -世界情報社会サミットの課題

小倉 利丸 (おぐら としまる) JCA-NET理事

日常の必需品となったインターネット


 インターネットが机の上のパソコンを使って、キーボードやマウスを駆使してメッセージをやりとりするコンピュータ通信を意味した時代は終わりつつある。いま、多くの人たちがインターネットにアクセスする手段に利用しているのは、携帯電話のメール機能やウエッブ機能である。日本の場合、携帯が市民生活の必需品となることによって、情報化が生活に密着しはじめた。常に肌身はなさず携帯を持ち歩き、メールをチェックする生活はまだはじまったばかりではあるが、現在の大人たちの世代にとって電話が物心ついたときにはすでに必需品であったのと同様に、今の小中学生にとっては、携帯とインターネットは生まれながらにしてすでに存在している環境となっている。
 インターネットに端的に示される劇的な情報環境の変化は、人々の個人生活環境ばかりでなく、政府の情報化(電子政府や電子自治体)、企業のグローバル化(オフィスや工場の遠距離ネットワーク化)、金融システムのコンピュータ化(金融市場のコンピュータ・プログラムによる取引)など現代の政治、経済、社会に大きな変化をもたらしている。

世界情報社会サミット東京会合


 こうした劇的な変化をふまえて、国連は「世界情報社会サミット」(World Summit on the Information Society=WSIS)を開催することを2001年の国連総会で決定した(A/RES/56/183)。国連は政府間の組織だが、この総会で、WSISは各国政府、政府間組織、地域組織、NGO、市民社会、民間セクターを政府間会合の準備過程に積極的に参加させることを決議した。03年12月にその第一回会合がジュネーブで開催されることになっており、第二回の会合が05年に予定されている。
 そして、この二つの会合と連動して、各地域会合が持たれることが決まっている。すでに、欧州、ラテンアメリカなど各地域会合が開かれ、アジア地域会合がアジア諸国の政府代表、企業、NGOが参加して03年1月12日から15日まで東京で日本政府主催により開催された。
 東京会合では、第一日目にシンポジウムが開催された。国連開発計画、ユネスコなど国連関係機関主催のものからNGO主催のものまでいくつかのシンポジウムが行われ、二日目には、各国の大臣やNGOによるステートメント、そして三日目に東京宣言の採択が行われた。
 国連総会をふまえて、東京会議はアジアからの参加者を得て、多様なアジアの声を十分に反映し、情報化が社会に与える様々な問題を直視し、市民社会やNGOなどと政府、民間企業との間にある意見の違いを直視し、争点となっている諸問題を率直に議論する場となることが期待された。しかし、この点は十分には果たされなかった。それは、この会合で論じられた内容以前に、この会合の運営そのものに反映された。

東京会合で露呈したいくつかの問題


 WSISは、情報化社会が、すべての人々の自由なコミュニケーションを保障する社会環境整備を重要な課題としていたにもかかわらず、東京会合では、こうした議論にそもそも参加できない国がいくつも存在した。主催国である日本政府は、東ティモールを招待し忘れ、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と呼ぶ)を国内の世論に配慮して招待しなかった。両国とも正式の国連加盟国であるにもかかわらずである。
 東ティモールについて、わたしたちNGOが02年12月段階でこの点を指摘し、政府部内で追加招待が検討された。しかし、総務省は外務省とも協議した結果、招待しないことにした。まったく理解に苦しむ結論である。
 世界の情報化がどのようであるべきかという問題を議論するそもそもの場に登場することすらできない国が存在したのである。さらに、日本政府は、国連未加盟を口実に、実際には、中国に配慮して台湾政府を招待しなかった。こうしてコミュニケーションという市民一人ひとりの権利に関わる重要な議論が、大国の思惑に支配されて行われるという状況が準備段階から露呈してしまった。
 こうした会議の運営そのものに関わる問題は会議開催中にも続いた。それは、台湾から参加していたNGOに対して、中国が排除を要求したことに端を発して、会合へのNGO参加の是非が各国政府間で議論され、その結果として、国連総会決議でNGOをWSISの公式の参加者(とはいえ、議決権をもたないオブザーバーであるが)とする決定に反して、NGOのオブザーバー資格を変更し、「インフォーマル」(非公式)扱いすることになった。
 これはインド政府が提案し、すべての政府が賛成した。国際会議へのNGOの関与を抑制したいというアジア諸国政府の本音が現れた瞬間だった。こうして、NGOが自由に利用していたチラシ配布用のテーブルが撤去され、会議後半の東京宣言についての討議(ラップアップ・セッション)では、予定と違ってNGO や民間からの参加者は発言できないことになった。
 台湾NGO問題を持ち出した中国政府の強硬なクレームを奇貨として、人権、検閲の廃止、表現の自由を主張するNGOを脇に追いやることにどの政府も本音のところでは異論はなかったのだと言う以外にない。事実、東京宣言の草案討議に際しても、表現の自由を保障する文言に関しては、トルコ政府がことごとく反対しほとんどどの政府も反論しないなど、強硬な姿勢が強くみられた。
 これに対して、NGOグループは、台湾NGOの排除に反対する声明や北朝鮮を招待しなかった日本政府への抗議声明もまた出され、精力的に対抗的なスタンスを作りだす努力を重ねた。

情報社会に幻想をもつことなく、地域の平和を生みだすために


 この会合の最後に採択された東京宣言では、文化や地域の多様性を尊重しつつ情報社会の利益をすべての人々が享有できる環境を構築することの必要性が参加政府、NGOによって確認されたと述べられているが、NGO、NPOや人権団体などが果たすべき役割と意義に関しては殆んど言及されていない。また、現在大きな問題になっている経済のグローバル化に伴う貧困、環境破壊、武力紛争などに情報通信が果たしているネガティブな役割を反省するという点についても殆んど言及がなく、わたしや多くの参加したNGOにとってはまったく満足のいく内容とはならなかった。
 この東京会合に連動して、正式会合に先立つ1月10日と11日、NGOが独自にジェンダーやコミュニケーションの権利などをテーマに会議をもった。JCA-NETはコミュニケーションの権利をテーマに、移住労働者、野宿者など、IT化する社会から排除される人々と彼らを支援する運動体にとってのITの問題、コンテンツの検閲や監視問題などを語ってもらった。情報社会は、現在ある社会のなかの様々な問題や矛盾をそのまま反映する。所得格差は情報格差に、性や民族の差別は差別表現に、政治的な不自由は検閲やジャーナリスト、インターネットの発信者への摘発にそのまま連動している。情報化がバラ色に描かれる裏側で、コミュニケーションの権利が置き去りにされる現状があることを忘れてはならないということが改めて多くの参加者、発言者から指摘された。
 東アジアの状況をみても、北朝鮮問題に関するコミュニケーション環境は深刻な事態にあるといえる。インターネットの普及した現在でも私たちはコミュニケーションの分野で、中国、台湾、韓国、北朝鮮、日本に住む人々が政府の思惑を越えて自由にコミュニケーションをとり、共通した理解を生みだす環境すら作り出すことができていない。このこと自体が、地域内部の民衆を分断し、民衆の安全を脅かす結果となっている。北朝鮮をめぐる情勢が緊迫するなかで、通信NGOもふくめて、地域の平和を希求する人々にとってコミュニケーションの分断を克服するためになすべき課題は大きい。
 WSIS東京会合に参加した経験をふまえて、今後このような地域の連携をどのように作り出すかが課題となっている。

※1:JCA-NETとは、インターネットを活用する市民運動をサポートする通信NGO。進歩的コミュニケーション協会(APC)という国際NGOへの日本の加盟団体(http://www.jca.apc.org/)。

※2:世界情報社会サミットのウエブ http://www.wais.org/、東京会合のウエブ http://www.wsis-japan.jp/

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