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国際人権ひろば No.33(2000年09月発行号)

国際化と人権

外国人研修・技能実習制度の実態と問題点

~武生コンフィクソン協同組合事件から~

早崎 直美(はやざき なおみ)
RINK [すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク]

 「恐ろしくて安心して働けない、もう中国に帰りたい」昨年の10月中旬、福井県武生市の市役所に駆け込んだ中国人女性実習生数人は口々に訴えた。彼女たちは数日前、不当な待遇の改善を求めて、受け入れ団体の「武生コンフィクソン協同組合」の理事長と話し合おうとした。しかし理事長は殴る、蹴るの暴力をふるって、彼女たちを追い返した。身体と心に深い傷を負った彼女たちは、日本の行政機関に助けを求めてきたのである。その後労働基準監督署も調査に入り、協同組合、企業に対して是正勧告を行った。この事件は、外国人研修生・実習生がおかれている過酷な実態を象徴する事件として、国会でもとりあげられた。

 では、「武生コンフィクソン協同組合」と加盟企業は、実習生に対してどのような不当待遇、人権侵害を行っていたのだろうか。
(1) 適正な研修を行っていなかった。 座学(技能や技術、語学)研修はほとんどなく、研修生に禁止されている残業を強制していた。
(2) 研修手当、賃金から毎月4万円を強制的に貯金し、本人には通帳も見せなかった。
(3) 本人から引いてはならない、送り出し機関に払う「管理費」2万3千円を、研修手当、賃金から控除していた。
(4) 実習生には労働法が適用されるが、全く守っていなかった。
(5) 残業手当は研修生が1時間300円、実習生が400円で、最低賃金法の法定額790円を下回っていた。
(6) パスポートの取り上げ、外出制限などの生活監視・拘束を行っていた。
(7) 仕事が遅い、待遇に文句を言った、病気が直らないなどの理由で、何人も途中帰国させた。
 これらの不正行為は、法務省が、昨年2月策定した外国人研修・技能実習制度に関する指針の中で特にとりあげ、禁止しているものばかりである。そしてこれは決して特殊な例ではない。

 外国人研修・技能実習制度の目的は、海外への技術移転とされている。来日した外国人青年は研修生として一定の研修終了後、実習生となり学んだ技術を現場労働を通じて磨いていく。トータルで最長3年在留できる。ところが1993年の制度創設以来、研修生・実習生への人権侵害事例が後を絶たず、法務省の指針もそのような現状を背景に策定された。とくに悪質なのは、中小企業が集まって協同組合をつくり研修生・実習生を受け入れる、武生のようなケースである。そして実は現在1万3千人いる実習生の大部分が、中小企業で受け入れられている。

 中小企業では研修ができないと決めつけるつもりはない。しかし中小企業の経営者が本音で必要としているのは、「研修生・実習生という名の外国人労働者」である。中には「研修生をひとり100万円で買った」と悪びれない経営者さえいる。当然、制度への理解もなく、人権や労働法を守ろうという意識もない経営者が多い。技能実習制度は明らかに、中小企業の人手不足を補う手段として悪用されているのである。

 研修生たちは日本政府の政策に応じて、正式の手続を経て入国する。まさか研修とは名ばかりの単純労働、労働にみあわない超低賃金が待っていようとは、想像だにできないにちがいない。不当な待遇を訴えたくても、外部と接触させないなど生活を監視・拘束され、途中帰国の脅しを受けたりする中で我慢せざるをえない。武生のように我慢できずに立ち上がり暴行される事例まで出たのである。少なくない実習生が来日前の夢を打ち砕かれ、失意のうちに帰国していく。国際貢献を謳い文句にした制度が、人権侵害の温床になっているのだ。

 技能実習制度には、制度全体を規制する明確な法律も、制度全体を掌握し、責任をもって対応する政府機関もない。これほど問題が明るみになりながら、何ら事態が改善されない原因はこの点にもある。企業の不正行為は止む事なく、不利益を被るのは研修生・実習生ばかりである。

 法務省は、最近発表した「第2次出入国管理基本計画」で、技能実習制度の拡大を謳っている。建前と実態があまりにもかけはなれた研修・技能実習制度。外国人労働者が必要なら、正面からビザを出して受け入れるべきである。技能実習制度を存続するなら、一日も早く不備な点を改善し、問題点を克服しなければならない。現状のままの拡大は外国人への人権侵害を増大するだけである。