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国際人権ひろば No.115(2014年05月発行号)

肌で感じたアジア・太平洋

「違いはあっても差別のない社会」をめざして - 韓国未婚母家族協会のオンマ(お母さん)たちの奮闘

朴 君愛(ぱく くね)
上席研究員 ヒューライツ大阪

 2014年3月28日から31日、神戸学院大学の神原文子教授が中心になり企画した「韓国のひとり親の現状と支援政策調査」でソウルを訪問する機会をえた。韓国は、日本と同様に家族の形態が多様化し社会の価値観も揺れている。韓国の政府統計によると、ひとり親家族が増えてきて、現在10世帯に1世帯の割合になっている。パートナーとの離婚や死別、婚姻せずに子どもを生み育てるなど、一人親で子育てする事情は様々であるが、実態調査から、ひとり親たちが経済的困難や一人で育てる精神的負担など様々な問題に直面していることがわかっている。政府も「ひとり親家族支援法」を制定し様々な支援策を講じているが、問題の解決にはより効果的な政策と社会の意識変革がなくてはならない。今回はひとり親の中でも、婚姻をせず子どもを生み育てている「未婚母」1の当事者団体「韓国未婚母家族協会」(以下、協会)でのインタビューを中心に報告する。
 

 偏見と差別の中で立ち上がる

 
 「外見や生活は21世紀型になり、韓国はIT大国だと言われるのに、思考は朝鮮時代後期のままです」と韓国社会を喝破する協会代表のモク・キョンファさんは、自身も未婚母であり小学3年の子どもを育てている。協会は2010年に結成された。現在の会員は約230名で、未婚母当事者が7割を占め、3割が研究者を含めた支援者である。次に協会ブログのメッセージから団体紹介をする。
 
 「違いはあっても差別はない社会」。私が選択したのは「子どもの命と子どもを育てること」。私たちは社会的弱者になることを選択したのではありません。「協会」は、未婚母に対する社会的偏見と認識を改善し、私たちの子どもたちとオンマ(お母さん)たちの権益をまもるために声をあげている団体です。
 
 設立の経緯をモクさんに尋ねると、まず未婚母の現況が説明された。婚姻をせずに妊娠した多くの人たちは、これまで福祉施設で子どもを産み養子に出した。自分で育てる人は少なく、そうした選択をした人を周囲はむしろ不思議がった。堕胎(おろ)したほうがいいのではないか、なぜ養子に出さないのかと。一般の人々は朝鮮王朝後期の価値観よろしく自分の娘が結婚をせずに出産することは面子が立たないと考えているのだ。もし子どもを産んだら社会からいじめられるのをわかっているから、自分の娘を家族の中にも入れない。そういう厳しい現状の中、モクさんたちは、2009年から未婚母の自助グループのメンバーとともに、準備を重ねた。協会は2010年に発足し、2012年には女性家族部(省)に非営利法人として認められた。
 韓国では現在まで未婚母に関する公式な統計はない。今回のソウル訪問で話を伺った淑明(スクミョン)女子大のキム・ヘヨン教授の推定では、18歳未満の子どもを育てている未婚母・未婚父は、2011年で2万8千~5万8千人の幅をみている。キム教授は、政府関係者に対し、実態把握ができる方策を提案しているが、国民感情を理由に実現していない。また2008年に女性政策研究院が行った未婚母に関する調査では、未婚母になった年齢は10代ばかりでなく、40代もいたし20代後半から30代前半が多くなっている。結婚を暗黙の前提にしてつきあって妊娠し、そのまま別れて未婚母になる人が増えているかららしい。モクさんは、未婚母になることは「事故に遭うこと」と同じだととらえている。
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未婚母家族協会の活動を説明するモク・キョンファさん(中央)

 最近の協会の主な活動から

 
 社会の認識改善のために、ヒューマン・ライブラリー(人間図書館)という活動を積極的に展開している。未婚母たちが本の代わりになって話をする中で、一般の人たちが未婚母に抱いているイメージと実際の彼女らの姿とのギャップを正そうとするものである。2013年には福祉専攻の大学やカトリックなどの宗教団体、地域コミュニティに出かけていってヒューマン・ライブラリーを13回行った。
 また、365日子どもと一緒にいる育児ストレスから解放されるために、「スィム(休むこと)」プログラムを行っている。未婚母が自分のために時間を使えるよう、子どもの世話や家事をする人を4時間または8時間派遣する活動だ。
 よき親になるための学習会も持っている。未婚母の先輩で、踏ん張ってきた人たちを招いて経験を話してもらう。子どもを難関大学に合格させた人もいるし、会社を興してばりばり働いている人もいる。そういう人とつながって、今は苦しいけれど未来があるという希望を持つための取り組みである。
 一時的な保護施設も運営している。国の制度では、未婚母のみを対象にした保護施設が3種類ある。妊娠して出産する前までの施設、子どもが2歳まで生活できる施設、満18歳未満の子どもと3年間生活できる施設である。それらは全国にばらばらに存在し、すぐに入所できるとは限らない。協会は、実家を出て行くところがない未婚母のために緊急避難的に場所を提供し、行く場所を探す道案内役をしている。
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海外養子から韓国に戻った人たちの交流スペース「プリエチプ(根の家)」を借りてインタビューを行った。瀟洒な建物は個人の寄付である。
 

 協会を支えてくれる海外養子の人たち

 
 協会立上げの時は、施設の関係者から時期早尚と反対された。また活動資金も十分ではない中で活動を続けている。そんな協会を一番支えているのは、韓国から海外に養子に出されて戻ってきた人たちである。朝鮮戦争(1950-53)での戦争孤児から始まり多くの子どもが養子となったが、2008年までの毎年、韓国内よりも国外への養子の方が多かった。保健福祉部(省)統計によると2012年に国内外の養子になった子どもは1,880人で、その9割が未婚母、未婚父の子どもであった。
 成人して韓国に戻った人たちが自助グループやネットワークを作っているが、協会の活動も物心ともに支えている。例えば「ヒョン(兄)プロジェクト」と呼ばれるボランティア活動で、小学生の男の子と銭湯に同行したり、母親が用事があるときに一時保育をしてくれたりする。今回のインタビューも土曜であったため、お母さんたちは子どもを連れてきた。インタビューの間、子どもたちは近所の公園でボランティアの「ヒョン(お兄さん)」に遊んでもらっていた。こうしたやりとりは、SNSのフェイスブックを介しているとのことだ。前述の一時保護施設の運営も、海外養子の人たちの募金で不足分をカバーしている。
 
 
 

 会員から人生の奮闘話を聴く

 
 代表のモクさんと2人の会員から、未婚母になった経緯や奮闘している話を聞かせていただいた。モクさんは職場でつきあった人との子どもを妊娠し、結婚しないまま相手は会社を辞めた。相手が辞めなければモクさんが辞めさせられたかもしれない。そしてモクさんはお父さんから妊娠を許してもらえずに家を出て出産した。出産休暇が終わってからは毎日片道2時間かけてお母さんが子どもの面倒を見にきてくれたのだ。その後、お母さんが離婚覚悟で頑張ってくれて、モクさんは実家に戻ることができた。今では一番反対していたお父さんが一番孫をかわいがっている。
 ギョンエ(仮名)さん、トジン(仮名)さんもそれぞれ6歳、9歳の子どもを育てながら働いている。ギョンエさんは、公務員試験の予備校で出会った学生との子どもを妊娠する。トジンさんは、個人で会社を経営していたが、同業者の友人を紹介され交際して妊娠をする。どちらも相手と家庭を築こうと努力したが、相手はその意思がなかったという。ギョンエさんは訴訟を起こして認知と養育費の支払いを得たという。トジンさんからは、相手の大きな借金を肩代わりした話も伺った。お母さんたちは、「協会」のブログにある「愉快で、はつらつとして、堂々とした未婚シングル・ママ」であった。
 「未婚母は中絶したり、養子に出したりして子どもに対する責任を取らないと評価されるが、社会が責任を取らせないようにしている」と指摘したモクさんの言葉は重く、日本でもそのまま通じる話であることを心に留めた。
 
 
 
 
(注)
1: 「未婚母」という言葉は日本語の「未婚の母」に近いが、協会名でもあるのでそのまま使った。モク代表は「シングルマザー」と言い換えても伴う差別感は同じだと言った。
2: 「未婚母家族協会」ブログ http://cafe.naver.com/missmammamia(韓国語)
 
参考: 交通放送ニュース(2014年1月20日付)(韓国語)


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