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国際人権ひろば No.115(2014年05月発行号)

特集 障害者の権利保障への地方の取組

障害者差別解消法と大阪府の取り組み- 不当な差別と合理的配慮 -

有澤 知子(ありさわ ともこ)
大阪学院大学教授

 障害者権利条約

 
 障害者の権利保障については、1970年に障害者基本法が制定されていたが、自立支援のための福祉法的なものであった。2004年6月4日になって、障害者基本法の、法律の目的、障害者の定義、基本理念などが大幅に改正され、障害者差別をなくすために、第3条3項として「差別の禁止」が追加された。
 障害者の権利及び尊厳を保護し、取組を促進する「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」は、2006年12月13日に国連総会でコンセンサス採択された。(条約は、2014年1月現在140カ国と1地域機関(EU)が締結している。)
 日本は2007年に条約に署名したが、国内法の整備が必要だったので批准まで時間がかかった。2011年8月5日に障害者基本法が改正され、障害者権利条約の考え方をふまえ、「合理的配慮」の概念を規定した。2012年6月に障害者総合支援法が成立し、2013年6月に障害者差別解消法が成立し、「差別を解消するための措置」が規定され、障害者雇用促進法が改正された。これらの法整備を受けて、2013年11月19日に衆議院本会議で、12月4日に参議院本会議において全会一致で条約の締結が承認された。そして2014年1月20日に日本は条約の締約国になった。
 

 障害者差別解消法

 

 障害者差別解消法は、障害者基本法(理念法)に対応した包括的な実定法であり、その枠組み自体が共生社会への架け橋となる画期的な意義を有している。
 第1条は、同法の目的を定め、第2条は定義規定であるが、第3条に国・地方公共団体の責務として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない」とし、第4条で国民の責務として「障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない」とする。第5条は行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境整備(施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修等)に努めなければならないとする。
 本法は、障害者基本法第4条の差別の禁止の基本原則を具体化し、共生社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的とする。
 障害者基本法第4条は、第1項で、障害を理由とする差別等の権利侵害行為の禁止、第2項で、社会的障壁の除去を怠ることによる権利侵害の防止、そして第3項で、国による啓発・知識の普及を図るための取り組みを規定する。
 そして、その具体化として差別を解消するための措置が定められている。
 基本法第4条1項に対応する措置としては、第7条第1項で、行政機関が、また第8条第1項で民間事業者が「障害を理由とした不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と規定する。(法的義務)
 また、第2項に対応する措置としては、解消法第7条第2項で、行政機関は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢および障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」とする(法的義務)。事業者については、第8条2項で「努めなければならない」(努力義務)と規定する。
 それらの具体的な対応としては、政府全体の方針として、差別の解消の推進に関する基本方針を策定(閣議決定)(第6条第1項)し、国の行政機関の長及び独立行政法人等は、基本方針に即して、第7条に規定する事項に関しそれぞれの職員が適切に対応するための必要な要領を定めるものとする(第9条第1項)(法的義務)。しかしながら、地方公共団体の機関等についてはその職員が適切に対応するために必要な要領を定めるよう「努めるものとする」(第10条)(努力義務)とされている。さらに主務大臣は、事業者に対しては、第8条に規定する事項に対し事業者が適切に対応するために必要な指針(ガイドライン)を定める(第11条)ものとする。
 さらに、実効性の確保として、主務大臣は民間事業者に対する、報告徴収、助言指導又は勧告ができる(第12条)。
 次に第3項に対応するものとして差別を解消するための支援措置が定められている。相談及び紛争の防止等のための体制の整備のため、既存の相談、紛争解決の制度の活用・充実が必要である(第14条)、必要な啓発活動を行う(第15条)、国内外の差別及び解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行う(第16条)、障害を理由とする差別に関する相談及び差別を解消するための取組を効果的に行うため、障害者差別解消支援地域協議会を組織できる(第17条)。
 なお、障害者差別解消法は、2016年4月から施行となる。 
 

 大阪府の取組

 
 (※大阪府においては「障がい」という言葉を用いている。)
 大阪府においては、「第4次大阪障がい者計画」(2012年3月策定)において、障がいを理由とする「差別の禁止」と「合理的配慮」を基本原則として掲げるとともに、府民の合理的配慮の実践や促進を図ることを目的に、様々な場面で実践されている障がい者の具体的な事例を幅広く募集してとりまとめ、公表した。(応募通数400通、事例件数は552件) 
 大阪府は、障がい者施策推進協議会に差別解消部会を設置し、議論を進めてきた。部会の構成員は学識経験者4人、障がい当事者・団体6人、関係機関・団体10人の計20人とオブザーバー1人である。
 大阪府は、府民の障がい理解の促進や差別の解消を図るため、何が差別にあたるのかについての共通の「物差し」となる「ガイドライン」の策定を目指している。検討対象分野は府民生活に深く関わる次の8分野とする。①公共交通機関・公共施設・サービス等、②情報・コミュニケーション、③福祉サービス、④商品・サービス、⑤住宅、⑥医療、⑦教育、⑧雇用
 「ガイドライン」を策定することによって、府民や事業者に対し広く啓発することができ、障がい者と事業者の間での事案の解決に向けた話し合いのテーブルで活用でき、相談機関の窓口で相談があったときは、ガイドラインに沿って対応することも可能となるのではないかと考えられる。
 差別の解消については、依然として差別事案の相談が寄せられていることや差別事案の多くが障がい又は障がい者にとっての無理解、偏見等により生じるとされることを踏まえ、何が差別にあたるのかをわかりやすく示すことが求められている。「不当な差別的取り扱い」も「合理的配慮の不提供」も両方とも差別であるが、前者は正当な理由があるとき、後者は過度の負担となるときとは何かが問題となる。例えば、車椅子だということでタクシーに乗車拒否された場合、折りたたみの車椅子ならば、不当な差別にあたるが、電動車椅子はトランクに入れられないので正当な理由にあたる。この例は合理的な配慮と過度の負担の事例にもなる。とにかく一つの事例をとってもいろいろな場合があり判断が難しいのでさらに議論が必要である。
 また、障がい者や家族その他の関係者からの障がいを理由とする差別に関する相談や、差別に関する紛争の防止や解決を図ることができるよう必要な体制整備をはかることが必要である。現状の相談体制を把握するとともに、専門的機関がないのではという意見や、障がい者のための第三者機関として障がい者差別解消支援協議会をおくかどうかについても議論がされてきた。
 今後は、9月頃まで、引き続き部会において議論され、9月頃部会による「提言」が取りまとめられ、大阪府障がい者施策推進協議会において「提言」が報告・協議され、10月以降に、部会の提言を基に、国から示される「基本方針」や「対応指針」等の内容も踏まえながら、府として「ガイドライン」を策定し、相談等体制整備を進めることになっている。