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国際人権ひろば No.94(2010年11月発行号)

肌で感じたアジア・太平洋

国連人権高等弁務官事務所 東南アジア地域事務所、インターンをつとめて

大城 尚子(おおしろ しょうこ)
大阪大学大学院 国際公共政策研究科

 2010年2月16日~7月31日までの5ヶ月半、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)東南アジア地域事務所(所在地:タイ・バンコク)にてインターンシップをおこなった。
 2000年より3回、OHCHR が会議運営を行っていた国連先住民族作業部会に琉球・沖縄人を先住民族という視点でとらえ、在沖米軍基地問題を訴えるために参加した。その頃より、OHCHR の仕事に興味があり、仕事内容および組織構成、さらに国連で働く為に必要な経験を知りたかったからである。
 また、私は沖縄出身で、軍事基地と人権に関する研究を行っており、将来国際機関で自身の専門性をいかせる仕事がしたくインターンを希望した。当初は、OHCHR 本部でのインターンを考えたが、無給であるインターン生活を考慮して、東南アジア地域事務所を選んだ。
 また、東アジアにおける人権機関構想に興味を持っており、アセアン(東南アジア諸国連合)に新設された「アセアン政府間人権委員会」(AICHR)をサポートする事務所であるということも選んだ理由の一つである。
 このインターンの経験は、想像以上に大変貴重な経験となった。
 また、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCA P)のビルに東南アジア地域事務所が入っており、ESCAP で開かれる国際会議や催し物への参加、そして他の国連機関の職員の方々とも話す機会にめぐまれ、とても充実した日々を過ごすことができた。
 今回はこの場をお借りし、インターンの仕事やその様子をお伝えしたい。

OHCHR 東南アジア地域事務所
 

  現在の東南アジア地域事務所は、9人の職員と時期にもよるが、4人のインターンで業務を行っている。管轄国は、アセアン諸国と東ティモールの11カ国である(カンボジア、東ティモールは国別事務所があるため、実際に担当する国は、その2カ国を抜いた9カ国である)。主な業務は、管轄国の人権促進・保護のための活動を行い、また、2009年9月に設立された AICHR への技術的なサポートも行っている。
 国連の人権理事会が任命した各課題の人権問題の特別報告者(SR)の補助業務(滞在場所の手配、各国政府への連絡、調整など)を行い、国連開発グループ(UNDG)という国連の複数の機関の共同プロジェクトで人権を基盤としたアプローチの手法を使った人権促進・保護活動を行っている。
 インターンの仕事は、
1. 管轄国の人権に関するニュースを毎日収集し、本部(HQ)へ送付。
2. ワークショップ及び国際会議の準備(資料作り、会場設営など)。
3. 参加した会議やワークショップの内容のレポート、議事録の作成。
4. 人権侵害に関する訴えをファイリング。
5. 東南アジア地域事務所代表に届く会議等の招待状への返信レターの作成。
6. 東南アジア地域事務所ウェブサイトの更新。
7. 管轄国の最終所見・勧告(各国が批准している条約において、報告書を提出し、その審査結果である)、普遍的・定期的レビュー(国連加盟国192ヶ国すべての国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして盛り込まれた制度=UPR)および特別手続(特定の国の状況やテーマ別の問題に対処するためのメカニズム=SP)のレポートを各人権侵害のカテゴリーに分けたデータベースの作成である(東南アジア地域事務所 ウェブサイト
 http://bangkok. ohchr.org /database/ で参照可)。
 私が主に担当したものは、4以外のもので、1は、各国のニュースを検索し、人身売買、貧困、表現・宗教の自由をはじめとする人権に関するニュースを集め、OHCHR 本部および国別担当者へ送る事であった。その中で、深刻な問題や大きく取り上げられている問題に関しては、東南アジア地域事務所の人権オフィサーにニュースから情報を抽出し、アップデートをしながら伝えていった(例えば、6月にフィリピンで起きた人権活動家が何者かに立て続けに殺害された事件など)。
 さらに、ニュースを毎月のレポートにまとめ、本部へ他の事務所の活動報告と一緒に送付した。基本的な作業ではあるが、改めて日々の情報収集の重要性を実感させられた。
 参加した国際会議や NGO との会議においては、OHCHR の組織の層の厚さを実感した。2010年4月21~23日に開催された、「第15回アジア・太平洋地域における人権促進および保護のための地域協力ワークショップ」は、OHCHR 本部が中心となり会議運営を行う予定であったが、アイスランドの火山の噴火により、本部のオフィサーたちの参加は難しくなり、急遽、会議開始前日に東南アジア地域事務所が中心となり会議運営を行うことが決定した。
 この会議は、約100名のアジア・太平洋地域の政府、国内人権機関の専門員および NGO が参加し、重要な会議の一つであるにもかかわらず、本部職員が不在でも、何事もなかったかのように会議を運営し、ワークショップの成果としてバンコクアクションポイントを作成するに至った。特に目立った問題も起こらず、どのような状況でも、会議を成功させるだけの人材が揃っていることがとても印象的であった。
 東南アジア地域事務所の仕事で、特に力を入れていたのが、人権データベース作成である。これは、東南アジア地域事務所管轄国の各人権条約の最終所見および勧告、普遍的・定期的レビュー、人権問題の特別報告者のレポートをカテゴリーに分け、その勧告を各国政府がどのように履行しているかを確認できるものである。このデータベースはとても画期的なものであり、政府はもとより NGO や市民団体が繰り返し勧告を出されている内容を確認でき、容易に検索できるシステムだからである。東南アジアを主に研究する人および NGO には、是非とも活用していただきたいものである。
 今回のインターンを通して、人権という普遍的な権利は、人が関わる全ての事に関係しており、広範囲な知識が必要である。私の専門である軍事基地/軍隊と人権は、多くのアジア諸国において深刻な問題の一つではあるが、それと並行して貧困問題など他にも多くの人権にかかわる出来事が起きている。
 そこで、自分の専門分野以外においても深く掘り下げたく、上司に専門的な仕事をしたいと申し出たところ、ワークショップで使用する資料の「適切な家に住む権利」「健康権」の要約を書く機会を頂いた。国連のインターンは、自身の積極性を見せることも重要であると経験者や国連職員の方々から聞いていたが、実際に自分の意見を聞き入れて頂き、様々なことに挑戦できる環境を有り難く感じた。部署にもよるが、インターンの仕事は雑務が主である。その中で自分の専門性を生かしながら事務所の業務に積極的に関われる環境を作り上げることが重要であり、その経験は有意義なものとなる。

OHCHRバンコクP10407392.jpg

インターシップの終了式&送別会のもよう。中央が筆者。

2ヶ月におよんだ、赤シャツ隊(反独裁民主統一戦線、UDD)デモ
 

 インターン中には、反独裁民主統一戦線(UDD、通称:赤シャツ)とタイ政府の衝突が起こった。その衝突に国連の介入を求める声もあったが、主権国家であるタイ政府より国連への正式要請はなく、また、「内政不干渉の原則(国連憲章2条7項)」に配慮し、目の前で起きている現実に何の手段も尽くすことが出来ない現実に苛立ちを感じた。
 一方で、東南アジア地域事務所は、武器を使用した闘争により、市民の人権が脅かされている事態を収めるため OHCHR 本部へ権限の移譲を要求した。高度な政治的問題が絡むため、本部から権限の移譲は認められなかったが、上司たちの行動を自分の目で確認でき、真剣に人権を守ろうとする彼らに感動した。
 5月の衝突後、私たちの事務所は、タイ政府に対し、今回の行動における説明を求めている。国連は政治的な制約に縛られて実質的な行動をとれないという批判があるが、一緒に働いた仲間の人権普及活動及び保護活動に触れたことにより、多くの可能性を国連は秘めていると感じた。