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国際人権ひろば No.81(2008年09月発行号)

インターン報告

「日本と性的マイノリティ」

サム・シューシ(Sam Shoushi) 
ヨルダン出身でアメリカのミドルベリー大学に在籍、 5月から8月末までヒューライツ大阪でインターン

 日本の性的マイノリティ1の置かれる立場を表す言葉の一つに「ひかげ」がある。他の国と比較して日本は、性的マイノリティをより受容している国ではあるが、それはけして性的マイノリティたちが何の問題も抱えていないということを意味するのではない。「ひかげ」という言葉に表されるように、日本の性的マイノリティたちには、社会の本流からだけでなく、時に性的マイノリティ自身によってさえ無視されてきたという問題がある。

 日本のレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)のコミュニティは成長を続けている。新宿2丁目や大阪の堂山などに代表される「ゲイ・エリア」は国内のあちこちにあり、OCCURやMASHなどの「ゲイ・グループ」の活動や、プライドパレードやフィルムフェスティバルなどの性的マイノリティを主な対象としたイベントも各地で行われている。
 このようなイベントへの参加者や性的マイノリティの人々にインタビュー2した際には、性的マイノリティが抱えている深刻な問題を聞くことはできなかった。多くは、現在の生活に多かれ少なかれ満足しており「日本でゲイとして生きることについてさして深刻な問題はない」という人もいた。しかしそれは、すべての性的マイノリティの声を代弁するものではない。
 日本で「普通」の生活というときは、結婚して身を固め子どもをもつことを意味する。一般に、性的マイノリティはこのライフスタイルに従わない(あるいは従えない)。つまり彼らの多くは異性愛関係を持つことができないにもかかわらず、同性間での結婚は認められていないために、同性のカップルたちは子どもを持つことができない。「普通」でない生活は、社会の主流派からは「普通じゃない」とみなされ、性的マイノリティに対しては「おかま」、「気持ち悪い」、「性同一性障害」といった言葉が使われる。
 LGBTの中には「普通」の生活を選ぶ人もいるが、最終的には二つの「ライフスタイル」を同時に生きることになる。事実、日本の多くのLGBTたちは「異性愛」結婚をするが、結婚後も「ゲイ・エリア」に通ったり、結婚とは別に同性のパートナーとの関係を続けたりしている。「普通」のライフスタイルが当然とされている社会において、LGBTたちは差別を受けるのを避けるために、目立たないように「ひかげ」に身を潜めながら二重の生活を続けなければならない。
 社会で「普通じゃない」とされた人は差別の対象となる。普通じゃない存在としてのLGBTは無知で軽蔑的な言動を受けてきた。さまざまな日本のテレビ番組は性的マイノリティを描写してきたが、殆どの場合、LGBTを皮肉や嘲笑の対象となるような服装倒錯者として描写するなど間違ったものが多い。
 学校や職場での差別も存在する。今回インタビューした人々から、学校でのいじめや職場での葛藤などの話を聴くことができた。しかしそれ以上に問題なのは、差別されることを恐れたり、あるいは単に私生活を明らかにするつもりがないという理由で、多くのLGBTの人びとは学校や職場で「カミング・アウト」をしていないことである。このような「クローゼットの中に閉じこもる」という決断や性的なアイデンティティを明らかにしないという決断は、在日朝鮮・韓国人や被差別部落出身者の間にもみられるように、日本のマイノリティの中では、マジョリティのメンバーとして生きるための共通の経験として映し出される。
 日本の性的マイノリティにとって、宿泊施設もまた問題となる。もちろん、LGBTの人々の宿泊に対して差別的な法律があるわけではないが、府中青年の家の事例で有名になったように施設管理者などが差別することはある。この事例は1990年に同性愛者団体「動くゲイとレズビアンの会(OCCUR)が、府中青年の家で合宿を行った際に、同性愛者団体であることを公表した後に、他の利用団体から差別的な扱いを受けたことについて施設側に対処を求めたにもかかわらず対応がなかった。さらに管轄する東京都教育委員会によって、同性愛者が同施設を利用することは「青少年の健全育成」を推進するという目的に抵触するとして、同性愛者の同施設利用拒絶が決定された。その決定を不服としてOCCURは提訴し第1審、2審においてもOCCURが勝訴している。府中青年の家の事例は、同性愛者が対象となった初めての判決であり、LGBTに対する差別的な風潮の変化を示す事例としてよく持ち出されるが、1997年の判決後も宿泊施設における性的マイノリティへの差別禁止が、日本各地に広がっているとはいえない。
 遺産の相続もまた、同性カップルにとって重要な問題となる。日本では同性婚が法律で認められていないため、異性間での結婚では当然に認められる相続の権利が保障されていない。そのためにLGBTの中では成年養子縁組によって相続の問題に対処する人もいる。この方法で同性カップルの間でも遺産相続は可能となるが、性的マイノリティに対する法的な差別が解消するわけではない。

 LGBTコミュニティの中においても問題が生じる。例えば、コミュニティで誰が代表となるのか?コミュニティの権利や義務とは何か?どのような活動をするべきか?またはするべきでないか?などコミュニティのあり方を定義しようとした時である。さまざまな議論の中で特定のグループや個人の意見がマジョリティとなれば必然的にマイノリティが生まれる。そしてもう一つの「ひかげ」が、コミュニティの中で無視され周縁化されたマイノリティの存在を覆い隠してしまう。
 LGBTとして生きることに前向きな人たちは、異性愛を当然とする社会秩序に対抗でき、生活を楽しむこともできる。彼らにはコミュニティのメンバーが集まる場所があり、ともに活動することができる。グループで集まり、イベントに参加し、情報を集めたりするための経済的な手段にも困らない。このような表層だけをみていると、経済的な手段に乏しくLGBTとしての生活を楽しむための社会的なつながりを持たない性的マイノリティの存在を見落としてしまう。特に目に触れる機会の多い性的マイノリティのメンバーが、日本でゲイとして生きることになんら困難はないといった見解を示すときには、そのようなマイノリティの中で周縁化されたマイノリティの存在を見落としている。
 例えば日本では、ゲイの集まる場所やグループ、活動などはコミュニティの男性メンバーの要求を満たしてきた一方で、一般的に男性より経済的に不利な女性メンバーを周縁化させてきた。さらには男性グループはHIVのリサーチや健康診断などのサービスで国から補助金や支援を受けているにもかかわらず、女性たちはHIVなどの主要な被害者ではないとみなされるため、補助金などをうけていない。
 バイセクシャルとトランスジェンダーも周縁化されたマイノリティである。日本でゲイの運動が大きくなり、性的マイノリティの権利や認識が促進されてきた一方で、バイセクシャルやトランスジェンダーの人々を除外してきたことはしばしば批判されている。例えば「東京レズビアン・ゲイパレード」というタイトルは、レズビアンでもゲイでもない性的マイノリティを除外していると批判され、2007年に「東京プライドパレード」にタイトルを変更している。
 また、性的マイノリティの権利のために活動する活動家たちもまた、性的マイノリティのコミュニティではマイノリティだ。全てのLGBTの人たちが活動家たちの努力を評価しているわけではない。事実、性的マイノリティの権利のための活動に対する反論の殆どは、コミュニティ内部から出てくる。例えば大阪で開かれた関西レインボーパレードでは、パレードという形で社会に問題提起することは攻撃的で魅力的でないといった批判が寄せられたそうだ。くわえて、コミュニティのなかの多数、特に性的マイノリティとしての生活に困難を感じていない人々は、性的マイノリティの権利を訴える活動は不必要なだけでなくむしろ害となり、コミュニティに対する差別を助長すると思っている人もいる。

 差別を禁止する憲法や法律などの規定では、性的指向についてはいまだ明確に規定していない。また、政府の差別に対する教育は殆ど真剣には取り組まれていないし、特に教育界の保守的な制度の中では、性的マイノリティの権利についての議論はなされてこなかった。さらに日本政府は、性差別、異性愛主義、ジェンダー二項対立システムなどの問題に殆ど向き合ってこなかった。これらの問題は性的マイノリティだけに影響するのではなく、事実婚や子どもを産まないという「オルタナティブ」な生活を選択した人(特に女性)にとっても重要だ。この報告で指摘したような日本の性的マイノリティが抱えている問題は、性的マイノリティだけの問題として限定するのではなく、「オルタナティブな生活」をする人も含めた日本社会全体の問題として考えていくべきだ。
(翻訳 野澤萌子)

1 この報告では性的マイノリティをレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)を含むものとする。
2筆者は2008年3月25日、16名の人々にインタービューをした。そのうち8名の人が性的マイノリティのメンバーと自認していた。