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国際人権ひろば No.81(2008年09月発行号)

人権の潮流

国内人権機関の「独立性」とNGOとの「ROCKY」な関係 -アジア・太平洋国内人権機関フォーラム(APF) 第13回年次会議に参加して見えたもの

山下 梓(やました あずさ) 人権市民会議事務局

 2008年8月7日、マレーシアのthe Sun紙に、「人権は十分に守られていない(Human rights not adequately protected)」という題名の投稿が載った。筆者は地元の人権NGO「Empower」のHoney Tan Lay Ean弁護士。書かれていたことをごく短くすると、以下に書く「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム(Asia Pacific Forum of National Human Rights Institutions、以下APF)」の第13回年次会議でのマレーシア政府の姿勢に失望させられたというのだ。投稿は、「政府は、マレーシアの人権について『成果』を強調するものの、悪化する人権状況など現状を正しく認識できずにいる」と指摘した。
 APF会議にオブザーバー参加したNGOの人間なら、概ね、Honey Tan Lay Ean弁護士の主張に同調するだろう。

  2008年7月28 日~31日の4日間、マレーシア・クアラルンプールで、APF年次会議が開かれた。APFとは、アジア・太平洋地域における人権の保護と促進を目的として、同地域の国内人権機関が互いの経験を共有し、活動を強化し合おうと、各国の国内人権機関が集まって1996年に設立された組織。現在、「正会員」1と「準会員」2を合わせて17の国と地域の人権機関が参加している。4日間の会議には、この17の国と地域の他、香港とイランの国内人権機関、9カ国3と1政府間フォーラム4の政府代表、そして、オブザーバーとして、100人を超える人権NGO関係者が出席した。
 会議では、各国内人権機関の活動や相互連携について話し合われた他、国連人権理事会の下に新設された「普遍的定期審査(Universal Periodic Review、UPR)」制度や、この12月に60周年を迎える世界人権宣言の29条(2)[人権制限の限界]、企業の社会的責任、先住民族や民族的マイノリティの権利について議論が行われた。また、ビルマで続いている人権侵害や、イランにおける人権状況と、同国の人権活動家が直面する困難について、懸念が示された。
  以下、第13回APF年次会議に参加して見えたものを、オブザーバー参加した一人としてお伝えしたい。なお、同会議の会場となったホテルで7月27日?29日、NGOは、自分たちの声をAPF年次会議の議論や成果に反映させようと、NGO会議を開催した。そのことにもふれたいと思う。

「独立性」をめぐるSUHAKAMの「逆ギレ」 ? 国内人権機関の「独立性」とNGOとの「ROCKY」な関係


 国内人権機関が実効的に機能するための重要な要素のひとつに、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」5に沿った、法律・運営・政策・財政における政府からの「独立性」がある。国内人権機関の独立性が十分でなければ、人権の促進と保障における実効性は低下し、市民社会からの信頼を失う。信頼を失った国内人権機関は、「現場」をよく知る人権NGOから協働を拒まれ、人権の促進と保護において、市民社会に寄り添った実効的な役割を果たせない。
 このように重要な「独立性」だが、アジア地域において国内人権機関が政府から独立している例を見つけるのは難しい6
 APF会議3日目の30日のこと。発言を許されたマレーシアのNGOが、同国の人権委員会(SUHAKAM)の独立性がないことにふれた。SUHAKAMは2000年、マレーシア人権委員会法に基礎を置く、外務省管轄下の組織として設立。しかし2004年、首相府が直轄下に置き、同組織の独立性は著しく侵害されることになった。
 「『独立性』の定義は?SUHAKAMとNGOの関係が『ROCKY』になったのは、SUARAM7をはじめとする、あなたたちNGOのせいではありませんか?」? NGOの発言に対し、SUHAKAMの委員は「逆ギレ」した。
 「ROCKY」(不安定)という単語は、『ANNI 2008 アジアにおける国内人権機関の実行と設立に関する報告書』8に、アジアにおける国内人権機関とNGOとの一般的関係を表した言葉として登場するが、このSUHAKAMの委員は、マレーシアにおいて国内人権機関とNGOの関係が「建設的で生産的ではない」のは、国内人権機関に協力的でないNGOに責任があると言い放った。NGOが会合にSUHAKAMの委員を招待しても出席率は10%を切り、限られた問題以外については国内人権機関寄りのNGOばかりと協働し、SUHAKAMに批判的なNGOはSUHAKAM主催の会議に招待しないのに、責任はNGOにある?
 APF会議では、フィリピンや韓国など、国内人権機関の独立性が十分ではない現状や、独立性を保つのが非常に難しいということを認めた国内人権機関もあったが、「政府寄り」あるいは「政府の代弁者」となってしまっているアジアの国内人権機関の現状が、SUHAKAMの委員の「逆ギレ」発言には表れていたように思う。

「で、日本ではいつ?」


 APF会議最終日の31日、チュラロンコン大学(タイ)教授でヒューライツ大阪・国際諮問委員でもあるヴィティット・ムンタボーン先生とランチの席で一緒になった。ムンタボーン先生とは1月に行われたタイでの会議でお会いしていたので、先生は「やあ、また会ったね。元気?」と話しかけてくださった。そして、私がそれに答えようとすると、その間も与えずに、「で、日本ではいつ?」と質問された。「『何』が『いつ?』なのか?」と一瞬思ったが、何のことかと聞き返す前に、ムンタボーン先生の質問が理解できた。「で、日本ではいつ(国内人権機関ができるの)?」だった。
 実は、APF会議とNGO会議の開催中、私はムンタボーン先生だけではなく、複数の人から「日本に国内人権機関ができるのはいつか?」と聞かれた。
 APFによると、現在、パキスタン、パプアニューギニア、サモアの3政府が、国内人権機関の設置を検討している。APF会議に参加した北京大学博士課程の学生によると、中国でも国内人権機関の設置の可能性を探る動きがあるという。
 「で、日本ではいつ?」? これを読んでくださっているみなさんは、何と答えられるだろうか?

「人権は十分に守られていない」-国内人権機関の必要性、議論する理由


 Honey Tan Lay Ean弁護士がthe Sun紙に書いた「人権は十分に守られていない」というフレーズ。同弁護士はマレーシア国内のことについてそのように指摘したのだったが、APF会議に参加した私たちNGOは、この言葉を、命をかけてマレーシアまでやって来たイランの人権活動家4人から痛感させられた。
 NGO会議2日目の28日、イランの人権活動家のひとりがマイクの前に立ち、ゆっくりとフランス語で話し始めた。フランス語の分からない私には、この紳士が何を言っているのか分からなかったが、彼の沈痛な表情から、何かよくないニュースを伝えようとしていることは分かった。
 通訳を待つと、彼が、「昨日、イランでは、29人が公開処刑されました」と言ったことが分かった。会場の空気が一瞬止まった。
 イランでは1979年以来、さまざまな理由で多くの市民 ?女性、子ども、民族的・宗教的マイノリティ、同性愛者など? が、絞首刑や投石による公開処刑にされていることは知っていた。以前、イランの小さな街での公開絞首刑前後の写真を見せられて衝撃を受けたことがあったが、イランで活動する人権活動家の口から直接聞いた最新のニュースに、言葉が出るはずもなく、ただ戸惑った。
 イランでの処刑のニュースは、本当に衝撃的だった。しかし、アジア・太平洋地域をはじめとする世界中で日々起きている人権侵害の一例に過ぎない。日本にも、人間としての尊厳を傷付けられて声を上げられなかったり、社会や制度に訴えても救済されないケースが山ほどある。
 国内人権機関が必要とされる理由や、私たちが国内人権機関を議論する理由は、このような状況を少しでも改善するためではないだろうか?すでに侵害されてしまった人権を救済し、これから起こるかもしれない人権侵害を予防するための措置を講じる。4日間にわたったAPF会議と、それに並行して行われたNGO会議に参加し、私が改めて確認したことは、当たり前と思われるようなことだった。

1 アフガニスタン、オーストラリア、インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、フィリピン、韓国、スリランカ、タイ、東ティモールの国内人権機関とヨルダンの人権センター。

2 パレスチナ自治区、カタール、モルディヴの国内人権機関。

3 オーストラリア、バーレーン、マレーシア、ニュージーランド、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、サモア、韓国。

4 太平洋諸島フォーラム。

5 国連総会決議48/134(1993年12月20日)。ヒューライツ大阪ホームページに邦訳が掲載されている。
https://www.hurights.or.jp/database/J/HRI/pariprinciple.htm

6 「国内人権機関に関するアジアNGOネットワーク(Asian NGOs Network on National Human Rights Institutions(ANNI))」による「ANNI 2008 アジアにおける国内人権機関の実行と設立に関する報告書(Report on the Performance and Establishment of National Human Rights Institutions in Asia)」によると、アジアでは、韓国の国家人権委員会とインドネシアの国内人権委員会(Komnas HAM)が高い独立性を有する。しかし、韓国国家人権委員会については今年1月、大統領府の管轄下に置こうとする動きが見られ、独立性の維持が危機にさらされた。Komnas HAMについては、独立性が「高すぎる」ため、政府との関係性が建設的ではないと指摘されている。
http://www.forum-asia.org/in_the_news/pdfs/ANNI2008.pdf

7 マレーシアの代表的人権NGOのひとつ。

8 脚注6参照。

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