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国際人権ひろば No.77(2008年01月発行号)

国際化と人権

日韓連続シンポジウムin Osaka -移住女性労働者の人権保障を求めて

  ヒューライツ大阪は、2007年10月27日に、「日韓連続シンポジウムin Osaka-移住女性労働者の人権保障を求めて」(共催:ヒューライツ大阪、大阪府立大学女性学研究センター、梨花女子大学アジア女性学センター、ソウル市女性家族財団)を、ドーンセンター(大阪府立女性総合センター)で開催した。
 日本と韓国は1980年代から1990年代に入り、移住女性の数が増えている。彼女たちは受入国の社会において、差別や排除、搾取などの問題に直面しているが、こうした現状と課題を共有し、解決のための方向性を議論するため、ソウルと大阪で連続シンポジウムを企画した。今回の大阪での「移住女性労働者の人権」をテーマにしたシンポジウムは、2007年8月3日に「国際結婚」をテーマにしたソウルでの開催に続くものである。
  討論者や会場から多くの質問、コメントが寄せられたが、本号では紙幅の関係で、各セッションでの報告の要旨を紹介する。

日韓連続シンポジウム 開会のあいさつ

開会のあいさつは、当センターの白石理所長からはじまり、共催団体である梨花女子大学アジア女性学センターのホ・ラグム所長、ソウル市女性家族財団のオ・ヘラン対外協力室長、大阪府立大学女性学研究センターの伊田久美子副主任のあいさつが続いた。

<セッション1 報告1>
「グローバリゼーションと移住女性労働者?日本社会における状況と課題」
  伊藤るり
(一橋大学教授)

 

「国際移動の女性化」とアジア、そして日本


 貧しい国から富める国へと移住労働が増加する中で、国際移動する女性の数が増えている。生産労働だけではなく、ケア労働や日常生活の再生産労働についても有償無償を含めて移住労働の女性化が進んでいる。後者にあたるのが、家事介護労働や国際結婚である。また性産業への流入は、日本の場合、興行ビザが大きな役割を果たしてきた。家事労働者の国際移動は新しいことではない。しかし現代の国際移動の女性化は、組織的な性格を持っている。つまり送出国と受入国双方の国家の政策があり、斡旋業者がばっこしているのだ。その点でかつてない状況が生まれているといえる。そして双方の国家の利害が一致し、移住労働者が定住できなかったり、就労先の移動が認められなかったりという還流的な移住労働が特にアジアで顕著である。さらに、これは2国間にとどまらずグローバル化している。特に家事・介護労働者は、受入国の高学歴共稼ぎ世帯の階層の再生産労働を補填する形になっている。また送出国への送金が家族の安定的な収入となるという大きな意味を持っている。
 日本は最近、外国人登録者数が200万人を越えた。20年間に大きな変化が起きている。
 一口に移住女性労働者といっても多様である。例えば、在日フィリピン人は、若い女性が多く、ブラジル人は男女比が均等である。ブラジル女性の就労率は日本人に比べ驚異的に高い。また同じフィリピン女性でも興行ビザ、日本人の配偶者、永住資格者など在留資格によって立場は違う。
 

日本の出入国管理政策と移住女性労働者


 外国人労働者導入の議論については、まず単純労働者対専門的・技術的労働者という区分が明示され、90年の入管法改正で、単純労働部門に多くの日系人が入ってきた。その頃研修生制度が生まれた。2000年には人口減少が言われ、生活水準維持のための労働力確保とグローバル市場での高度人材の確保が論争となった。最近の新聞社説に、外国人労働者ではなく、眠っている女性労働者を使うべきという興味深い意見が出ていた。
 日本の政策は、韓国のような統合のための支援ではなく、出入国管理に重点がある。いくつかの成果として、移住女性に関連するものでは、日本人の実子を養育している外国人女性は、非正規滞在でも定住者資格を得られるようになったり、04年のDV法改正によって外国人女性にも同法が適用されることになった。また市民運動として、移住女性のための駆け込み寺、相談活動が80年代後半からたくさんできている。最近では、移住女性自身による取り組みも生まれている。
 

日本社会にとっての課題


 ナショナルなレベルでは、出入国管理だけでなく、社会統合政策や片肺政策からの脱却が重要である。また韓国の在韓外国人処遇基本法のような法律や、人種差別禁止法、定住外国人の参政権の確保などが必要である。一番重要であるのは「移住労働者権利条約」を受け入れることであり、次は、あらゆる政策のジェンダー主流化である。
 自治体レベルでは、生活支援・就労支援が必要である。また未発効であるが日比経済連携協定で、フィリピンからの看護師・介護士を受入れることが決まっている。フィリピンでは、不利な条件を懸念し、この協定に対する反対声明も出ている。劣悪な処遇にならないよう日本の労働者と連携していくことが重要である。

<セッション1 報告2>
「韓国における移住労働者の人権保障のための課題」
チャン・ミョンソン
(梨花女子大学ジェンダー法学研究所研究員)
 

急速に多文化化する韓国社会と移住女性


 国際移住は、人種、ジェンダー、階級などの関係が複雑に絡み合ったグローバルな現象である。07年8月の韓国政府統計によると、在留外国人は100万人を超え、急速に多文化社会に変化している。国籍別では、中国、米国、ベトナム、フィリピン、タイ、日本、台湾の順になる。長期滞在外国人は約72万人で、産業研修生を含めた労働者が56%、国際結婚が14%、留学生が7%である。労働者の約9割が単純技能労働者であり、未登録(非正規滞在)労働者が約23万人いる。
 移住男性の大部分は、産業研修生や雇用許可制(ヤン・ヘウ報告参照)による労働者であるのに対し、移住女性は、産業研修生や雇用許可制、芸能興行ビザ、訪問就業者、国際結婚の4つのタイプがある。
 移住女性労働者は、人権侵害の面において男性とは違う形態の排除や差別があり、彼女らに対する人権保障の問題は違う次元の議論が必要である。
 

移住労働者の法的地位


 韓国の学界の通説では、外国人は、憲法に定める基本的人権の中で、権利の性質上一定の権利のみ保障されている。憲法裁判所は、平等権、労働の権利については、外国人にも認めているが、労働機会の提供を国家に要求する権利、参政権などは制限されると判断している。
 「国家人権委員会法」(01年)、「外国人雇用法」(03年)などいくつかの法律は移住労働者差別を禁止している。「在韓外国人処遇基本法」(07年)や国家人権政策基本計画などでは、移住労働者の人権保護が盛り込まれている。しかし法律と現実とは違い、移住労働者に対する人権侵害が発生している。
 

移住労働者の人権保障のための課題


 韓国は、少子高齢化によって、しだいに移住労働者の労働力への依存度は高くなっている。
 まず、移住労働者の人権保障のための政策は、人間尊重の論理で展開されなければならない。移住女性労働者の問題はまだ十分に議論されていないが、ジェンダー的な視点で関連の法制を分析し、すべての移住労働者が人種、性別に関係なく人間らしい生活を営めるよう進めなければならない。その柱として、移住労働者の基本的人権保障のための法制作りをはじめ、職業の自由ないし移動の自由の保障、母性保護を含めた移住女性労働者の人権保障、未登録移住労働者に対する人権保障が課題としてあげられる。

<セッション2 報告1>
「日本で研修生として働いた日々」
王瞳
(大阪産業大学大学院生)
 

研修に行くまで


 中国山東省から兵庫県内の自動車部品工場で研修生・技能研修生として2000年3月から3年間働いた体験と思いを話したい。中国では政府が担当するが、私が応募したのは、若い女性が対象で、研修内容は、主に部品製造の技術研修と日本語初歩の学習ということであった。仕事は、体力を使わず、安全であると聞かされていた。
 政府労働局に、仲介手数料と保証金計2万元(当時、約26万円)を支払ったが、契約締結時に自宅も担保にするよう求められた。保証金と併せて、研修期間中に法律違反や逃亡を防ぐ目的だといわれた。
 

実際の研修生活と契約との違い


・週1回の日本語学習は、最初の6ヶ月だけで、1年目の終わりの形式的な技能試験は全員が合格した。
・いろんな作業があったが、ほとんどが単純作業の繰り返しで、技術は習得できない。日本人がしない仕事をして、夜勤もあった。
・最初の1ヶ月は、毎日8時間労働だったが、その後、会社は残業を促した。研修規則では1年目は残業禁止だが、全員が残業をした。残業代は割り増しされたが、平日は残業が続き、休日残業もあった。軽作業と聞いていたのに、長時間労働で大変辛かった。
・1年目は、寮費と光熱費は会社負担で月給は6万5千円、2年目から月給は8万円に上がるが、生活費は全て自己負担になる。
・会社が借りた団地の3DKに7人で住んだ。3年目から夜勤があるので、バス通勤ではなく各自自転車で通勤した。
・日本に来てすぐ、全員のパスポートが取り上げられ、外出時も必ず報告しなければならず、自由がなかった。研修中は帰国できない。実習生に与えられる有給休暇も実際には取れなかった。
 

今後の研修生制度に望むこと


 まず社会の関心を呼び起こす必要がある。政府が、研修制度の本来の主旨を再認識すべきあり、関連の労働法規の整備が急がれる。市民団体の支援やマスメディアの監視と同時に、送出機関と受入機関が、社会的責任を自覚して履行することを願ってやまない。
 一日も早く改善され、研修生が、良い環境で研修生活を送るようになってほしい。

<セッション2 報告2>
「研修生・技能実習生支援の現場から移住女性労働者の受け入れを考える」
早崎直美
(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク<RINK>事務局長)
 

外国人研修・技能実習制度の現実と女性の増加の背景にあるもの


 王さんの報告した状況は続いており、研修生の数は増えている。しかも賃金等の条件が悪くなっている。それは制度に問題があるといわざるをえない。本来の研修生制度は、ある程度の規模の会社が、現地の合弁企業や取引企業の労働者を日本で研修するものであった。しかし団体監理型の制度によって小規模企業が協同組合を作れば、研修生を受け入れられることになった。また悪質ブローカーの暗躍の問題があるが、現状では規制出来ない。
 その結果、従業員10人以内の企業の研修生が増え、女性が男性よりも増えている。中国人が圧倒的に多く、業種は、繊維、食料品製造、農業分野が主である。
 女性が増えたのは、平均4万円の賃金格差の問題が大きい。また女性は従順で管理しやすいという考えがあることは否定できない。相談活動の中で、セクハラやパワハラに苦しむ女性の相談事例は多い。不満を言うと期限前に帰国を強制させられることもある。最近は子どものいる既婚女性が増えている。ひどい労働条件の下で逃げたいという人が出てくる中で、国に子どもがいるから我慢するのではないかという考えがあるようだ。
 

日本政府の移住労働者政策の今後


 政府も研修生・実習生の問題には気づいていて、その見直しも含め、移住労働者をどう受け入れていくか議論している。日系人の受入れを例外として単純労働分野に外国人労働者を入れないという建前は崩れているが、その建前の方針は貫きつつ別のやり方で単純労働を受け入れるようだ。現状では、研修生には労働法が適用されないため人権侵害が起きやすい。研修生については労働法が適用になるのではないか。研修生・実習生の権利を保護する方向になると思うが、制度自体の廃止はないとみている。
 受入れ分野の拡大については、特にケア労働の分野がある。この分野は、需要が多く人手不足が見込まれ、日本とフィリピン、インドネシア、タイとの経済連携協定の交渉で話が出ている。タイとの協定は07年11月から発効し、介護士の受入れを検討していくことになっている。その場合に研修生制度が使われる可能性がある。(編注)
 

支援の現場からの提言


 日本政府の外国人労働者政策において、在留管理の強化の話はあるが、人権保障はあまり語られていない。本人たちが声を上げられる条件整備が一番大事である。いい法律ができても、適用されない場合、相談できる所がなければ役には立たない。日本政府に欠けているのはNGOと連携することだ。
 政府は、外国人労働者をジェンダー別で調査したことがないが、研修生・実習生だけは国際研修協力機構がその統計を出しているので、それを通じて移住女性の状況がある程度つかめる。
 今後、考えるべき課題として、2点強調したい。1つは送出国での状況である。聞いた話と実情が違うのは詐欺だといえるし、厳密には人身売買になるのではないか。もう1点は、移住女性の労働条件の低さは、日本の女性の労働と関係があることだ。縫製で働く研修生が、残業時間にさせられる出来高払いの仕事がひどく安いので、不満をいうと、日本の内職の単価よりマシだと言われた。内職は労働であることには間違いない。また介護の分野でほとんどの女性がかなり安い給料で働いている。外国人の状況だけをみても問題は解決しないのだ。

<セッション2 報告3>
「雇用許可制-その現実をみる」
ヤン・ヘウ
(韓国移住労働者人権センター理事)
 

移住労働、法の「死角地帯」


 韓国は、80年代後半よりいわゆる「3K」(きつい、きたない、危険)といわれる生産部門が深刻な労働力不足になった。当時、労働界は、外国人労働者受入れを反対し、経営側は、労働力の安定供給と価格競争力において利益になると賛成した。
 このせめぎあいによって移住労働者に関する長期的な政策が樹立できず、労働市場には観光ビザで入国する未登録移住労働者が増加した。政府は、日本の研修生制度を真似て、産業研修制度を1994年に導入した。彼らは、労働者として認められず、搾取と人権侵害に抵抗できない半奴隷的な状態となり、社会的な問題になった。また未登録労働者も退去強制に恐れ、自分の法的権利を放棄した状態であった。
 

雇用許可制とは


 移住労働者の人権問題が浮きぼりになり、移住労働者も自らの権利を要求しはじめた。市民団体は、保護法成立に努力をしたが、中小企業などの反発により、産業研修制度と雇用許可制を並行する形の妥協案として、03年に「外国人雇用法」が通過した。最大の争点は、当時約30万人の未登録労働者の内、4年以下の滞在者約18万人のみ赦免される点であった。
 07年1月に産業研修制度が廃止され、雇用許可制に一元化された。07年現在、政府は、雇用許可制の了解覚書(MOU)を15カ国と結び、6カ国から来た約7万人が働いている。彼らは労働関連法の適用を受ける。併せて、政府は、送出国での不正根絶に向けて様々な施策を行っているが、入国詐欺被害が増加している。韓国が15カ国での出国不正を継続して監視するのは困難である。また当該国に依存した改革も不可能な状況にある。
 雇用許可制は、短期ローテーションである。移住労働者の定住化を認めないためだが、3年という短期労働は、未登録滞在を増やし、産業全般の低熟練化を招くおそれが高い。政府は法改正で1回更新できるようにしたが実効性はわからない。また事業所の移動が制限されているという問題がある。
 

在外同胞政策-訪問就業制


 91年の韓・中国交開始以来、中国の朝鮮族は、親族訪問で韓国に入国し大部分は未登録労働者として就業をしてきた。彼らは、韓国語を駆使できて、本国より高賃金であるため韓国で働きたいという高い期待がある。政府は朝鮮族の未登録労働者の解消を図ったが、解決に至らず、07年から訪問就業制を導入した。
 訪問許可制は、中国及び旧ソ連の朝鮮半島出身者に対する「抱擁政策」であり、訪問許可書を受けると、5年間のマルチビザ(数次査証)が発給され、最長3年の就業が可能で、政府斡旋の事業所に自由に就業できる。この政策は、今後の少子高齢社会での労働力不足、介護、年金枯渇などの問題を解消しようという意図もみえる。同胞への優遇政策は、他の外国人より韓国社会に同化しやすいという判断から出発したものであるが、同胞を優遇することには議論がある。これは、日本の日系人に対する政策を積極的に導入したものと思われる。
 

移住女性労働者の現状


 2006年の政府資料によれば、非専門職の移住女性労働者は約7万8千人であり、未登録者を含めると約13万人強と推定される。朝鮮族を含めた中国人女性がその半分以上をしめる。また未熟練移住労働者全体の35%にあたる。雇用許可制では、雇用主の意向を反映し、若い女性がたくさん入国している。彼女たちは、劣悪な労働環境という問題の他に、セクハラ、性暴力などの危険にさらされている。セクハラ被害者は事業所変更が可能であるが、事業主が被害事実を認める必要があるという問題点がある。また雇用許可制は契約が1年単位なので、妊娠女性などの母性保護の権利がひどく脅かされている。
 訪問就業制の労働者は、女性や中年層が多く、彼らの大部分は、サービス業、ケア労働の分野で働いている。職種でも性別分業の拡大と低賃金という国際労働分業の現象を表したものになっている。
 韓国は、2000年の外国人エンタテイナー活動の規制緩和があり、芸能興行ビザで2万人を超える女性が入国した。彼女たちは主にナイトクラブや米軍クラブでダンサーとして働いていた。しかし接客が強要され、監禁、暴行などの人権侵害が頻繁に発生した。
 これに対し、政府は、入国条件などを厳格に規制したため、外国人エンタテイナーが激減した。しかし彼女たちは依然、労働基本権もろくに保障されずにいると思われる。
 最近は、新手の性売買産業に外国人女性が流入している傾向がある。しかし問題になって報道されない限り実態把握が難しい。
 

人間中心の労働政策を


 今、雇用許可制が導入されて3年を越えたが、期待していた問題解決はできずにいる。
 しかし韓国社会は、どの時代よりも移住政策に関心を寄せて、政府も多くの予算を使っている。その一方、労働政策はあまりにも閉鎖的で管理的である。多文化社会を叫びながら、定住化しやすい労働力は排除するという二律背反的な様子を見せている。現行の雇用許可制における労働者の居住移転や職業の自由の制限などの「毒素条項」を全面的に改正して人間中心の労働政策を確立しなければならない。

(編注) 法務省入国管理局は07年12月、近年の不適正な研修・技能実習事案の増加などの事態を改善する目的で、旅券や外国人登録証明書を預かったり,宿舎からの外出を禁止したりするような「不正行為」による研修生・技能実習生の管理をしてはならないこと、研修手当や賃金を確実に支払うことなどを明記した改訂「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」をまとめた。今後、商工会や中小企業団体などの受け入れ機関に通知し、実態の改善を促していくとともに、不正行為と認められた場合、研修生らの受け入れを3年間禁止するとしている。

(構成:朴君愛・ヒューライツ大阪)