1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.76(2007年11月発行号)
  5. 「第15章 犯罪・人権侵害被害者の保護および救済(前半の犯罪被害者部分)」について

 
Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.76(2007年11月発行号)

『裁判官検察官弁護士のための国連人権マニュアル-司法運営における人権-』を読む11

「第15章 犯罪・人権侵害被害者の保護および救済(前半の犯罪被害者部分)」について

番 敦子 (ばん あつこ) 弁護士

■はじめに


   欧米諸国では、1970年代以降、犯罪被害者の状況の認識が進み、保障制度の創設、刑事司法制度の見直し及び民間支援団体への公的助成等、犯罪被害者の保護及び救済が勧められた。本章の記載も、そのような欧米における制度及び研究成果が基となっている。
 一方、日本では、犯罪被害者に関する問題に焦点があてられたのは、つい最近のことである。1980年に犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)が制定されたが、見舞金であって、犯罪被害者に対する補償制度とよべるレベルには達していなかった。そして、この後しばらく、被害者の保護及び救済制度の検討はされなかったが、ようやく、1995年、警察庁によって被害者対策要綱が策定され、同じ頃から民間においては精神的支援が開始し、2000年以降、犯罪被害者保護二法の制定等の法的整備等も進められた。
 2004年12月犯罪被害者等基本法(基本法)が成立し、犯罪被害者の権利が謳われ、被害者の支援が国の責務であることが示され、多様な支援の必要性が明確に規定された。基本法では「第2章 基本的施策」として、被害者に関するほぼすべての支援・施策について規定されており、本章における論点もあげられている。しかし、基本法は具体的な施策を述べているわけではなく、基本法の趣旨に則った犯罪被害者等基本計画が2005年12月に策定されたことによって、具体的施策が実施されあるいは検討されている。

■犯罪被害者と刑事司法手続および法曹の役割


 本章は、まず、犯罪被害者に対しては、さまざまな形態の特別な保護および援助が必要であり、そのニーズを知らなければいけないことを述べている。そして、第一に、「司法運営における被害者の取扱い」という論点をあげている。
 犯罪被害者は、自らが被害を被った事件に関する刑事司法手続に強い関心を有している。「国内司法制度がしばしば加害者および加害者と国との関係ばかり焦点を当て、被害者の権利、ニーズおよび利益を排除してきたことが認められる」とし、「刑事司法制度で働くすべての者は、犯罪被害者がこれ以上失望しないようにするために、被害者の関心、ニーズおよび利益に尊重の念と理解を示さなければならない」と述べ、被害者の観点から、刑事司法制度を見直す必要を示唆している。日本の犯罪被害者からも、刑事司法から疎外されているという不満が出され、刑事公判手続に被害者の参加を求める声が被害者参加人制度の創設をもたらした。
 本章において述べているように、司法制度そのものは国によって異なるが、少なくとも、被害者に対する理解、配慮の下、刑事司法についての適切な情報提供がなされることは重要である。また、被害者と早期に接する警察の役割を重視するとともに同様の対応を検察に求めているが、日本でも警察が犯罪被害者支援についてはリードしてきたという事実がある。検察庁による通知制度も整備されてきた。
 上記論点は、基本法18条(刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等)および基本法19条(保護、捜査、公判等の過程における配慮)と関連する。

■私生活および安全の保護


 犯罪被害者は情報を受けるとともに、報復等の危険から守られ、安全を確保される権利を有する。基本法16条(安全の確保)と関連する論点である。再被害の防止のためにさまざまな措置を講じる必要があり、出所情報という被害者に対する情報提供もそのひとつではあるが、被害者自身の情報を守るという制度等も重要である。本章では、刑事司法手続きに関する権限ある機関の留意点として、犯罪被害者のプライバシーを保護することがあげられており、「被害者の身元の公表は控えられるべきである」とし、「原則として、被害者の氏名をマスメディアに開示する前に被害者の同意を得ることが常に望ましい」としている。犯罪被害者等基本計画では、警察が被害者の氏名の公表につき実名か匿名か判断するとされており、被害者の意思という観点が欠落していると思われる。
 犯罪被害者の自己情報の秘匿については、最高裁判所は、民事損害賠償請求事件の訴状等における被害者の仮住所記載を柔軟に認めるという対応を示している。

■賠償,保障等


 犯罪被害者の被った経済的被害の回復の必要性は言うまでもない。加害者による賠償は当然であるが、加害者や保険等による賠償あるいは補償が十分に得られない場合、国が被害者および被扶養者に合理的補償を行うべきであるとする。日本では、2001年に犯給法が改正され、「犯罪被害者等給付金の交付等に関する法律」となり、支給対象が拡大され、支給金額も増額となったが、依然として見舞金的性格を有しており、十分とは言えない。
 基本法12条(損害賠償の請求の援助等)のほか、基本法13条(給付金の支給に係る制度の充実)によって、経済的回復をさらに推進することが規定された。

■援助


 犯罪被害者はさまざまなニーズを有していることが指摘され、法曹を含むあらゆる関連の専門職集団が被害者の多様なニーズに応えることができるよう要請されている。
 犯罪被害者に接する専門職集団が、ときに被害者にさらなる精神的苦痛を与えたり(二次被害)、適切な援助のための専門的知識が欠如していたりすることのないよう、訓練、研修等を積極的に行うことが必要である。また、本章では十分に述べられていないが、異なる専門職間(例えば、弁護士と医師)の連携も重要である。さまざまなニーズに応えるためには、援助の連携は欠かせない。
 基本法11条(相談及び情報の提供)では、「犯罪被害者等の援助に精通している者を紹介する」とし、医療面等の援助については、基本法14条(保険医療サービス及び福祉サービス)において規定され、援助者の連携の中心に位置するべき民間支援団体に対する財政援助について、基本法22条(民間の団体に対する援助)において規定されている。

To the page top