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シネマと人権27 :反戦を口にできない空気が教室に-「プーチンの愛国教室」

小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト

戦争が始まると教室が変わる
 戦争は社会のあり方を変えてしまう。
 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻はロシアの教育現場を「愛国教室」に変えてしまった。いや、そうする準備はその前から進められていたのだろう。
 映画の舞台は、ロシアのウラル山脈近く、小学校と中学校が一緒になったような学校で、学校の行事などを撮影する仕事をしている教員、タランキンが撮影し、語る。彼は、このドキュメンタリー映画の監督でもある。タランキンは生徒に人気があるようで、彼の部屋には生徒たちがだべりに来て屈託のない顔でタランキンと語り合っている。
 ところがロシアとウクライナの戦争が始まると(プーチンは戦争とは言わず「特別軍事作戦」と呼ぶのだが)、学校は戦争を支持するための教育現場に変えられてしまう。国旗が掲げられ、生徒は国歌や祖国を愛する詩などを吟じて廊下を軍隊風に行進する。教室では体制派の教師が児童にウクライナ侵攻の正当性を教え、祖国への裏切り者を批判する。

軍人が教室で銃の扱いを教える
 驚くのは軍人が教室に来て、生徒に地雷や銃の扱い方などを教える授業だ。手榴弾投げを生徒に競わせる。
 卒業生たちは軍に志願したり、徴兵にとられたりしていく。タランキンは戦争に反対なのだが、同僚たちは「上が言っているから仕方がない」と抵抗には消極的だ。
 彼は自分の信条と仕事との矛盾に悩む。学校行事が戦争遂行のための儀式になっている現状では、行事の撮影は戦争への加担行為になってしまう。彼は仕事を辞める決意をし、上司に告げる。
 しかし彼は考えを変える。ヨーロッパのジャーナリストと知り合い、一緒に映画を作ることにする。そして辞表を撤回する。つまり、ロシアの愛国教育の実態を映像で記録することを決意するのだ。しかしこの行為は命がけだ。プーチンは法律を変え、国への反逆罪を無期懲役に拡大した。あるジャーナリストは軍を侮辱したとして25年の懲役を宣言される。

NOと言えない空気
 映画はさまざまな人の表情を捉える。タランキンにやや批判的な彼の母親、兄弟が戦死した女子生徒、あいまいな同僚、戦争に「NO」と言えない世間の空気がひしひしと伝わる。
 生徒たちも空気を感じてか、彼の部屋に来ることが少なくなり、警察の車が彼を見張るようになる。結局、彼は映像を持って国を出ることにする。
 通常、ドキュメンタリーを撮影する場合、作品の趣旨などを話し、対象者の了解を得て撮影するが、この映画ではそれは不可能だ。その意味では、この撮影はルール違反だが、やむをえまい。ただ、出演者のうち、本人の他は、誰も口では戦争や政府を批判していない。登場者の身を守るための配慮だろう。登場者の誰もが迫害されていないことを願う。
 ひるがえって日本ではどうか、ロシアほどではないが、「君が代」を本当に歌っているかどうかを確かめるため行政が唇の動きをチェックしたり、「国旗損壊罪」が新設されたり、「愛国教室」の準備が着々と進められているように見える。杞憂であればいいが。


サブ1.jpg©2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.

「プーチンの愛国教室」
監督: デヴィッド・ボレンスタイン、パヴェル・タランキン
撮影:パヴェル・タランキン
2025年 / デンマーク、チェコ / ロシア語 / 90 分 / 原題:Mr. Nobody Against Putin
配給:トランスフォーマー
2026 年アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞 受賞
公式サイト:https://transformer.co.jp/movie/mrnobody

2026年10月3 (土)シアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開
10/3(土)
 大阪 テアトル梅田
 兵庫 シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき
 奈良 ユナイテッド・シネマ橿原
10/9(金) : 京都 京都シネマ
10/24(金) : 大阪 シアターセブン


(2026年09月08日 掲載)