日本企業が出資するペルーの大規模鉱山事業に関する人権上の懸念について、国連人権専門家ら(*)は、日本政府に対し共同書簡(2026年4月9日付)を送付し、情報提供を求めていました。これに対し、日本政府は2026年6月5日付で回答を送付しました。
対象となったのは、ペルーのアンカシュ州で操業する鉱山会社アンタミナの事業です。同社はペルー最大級の銅・亜鉛精鉱生産企業であり、主要な株主にはオーストラリア、スイス、カナダに本拠を置く企業のほか、日本の三菱商事(10%)も含まれています。同社はドイツの大手非鉄金属メーカーAurubis社のサプライヤーでもあります。
書簡では、鉱山開発の拡大に伴い、地域住民が暮らす農村で、水や土壌、大気への重金属汚染、住民の健康被害、漁業への影響などが報告されていることに加え、環境問題を訴える人権擁護者への脅迫や、土地をめぐる住民と企業との対立についても懸念が示されています。
一例として、アンカシュ州保健局が2019年~2023年の期間を対象に作成した報告書によると、アンカシュ州では、46箇所が重金属への曝露(ばくろ)のリスク地域として特定され、人体への蓄積については、カドミウム、鉛、ヒ素の3種類の重金属が検出された974件の事例が記録され、そのうち319件が許容基準値を超過していました。2024年には水銀を加えた4種の重金属について469件が許容基準値を超過していたとしています。また、その他の報告書等からも、主要な河川における環境基準を超える重金属の検出、クロツブ貝やタコなど海洋生物からの国際基準を上回る濃度のヒ素の検出が指摘されています。
国連専門家らは、これらの申立ての真偽についてあらかじめ判断を示すものではないとした上で、アンタミナ社の鉱山事業が、「清浄で健康的かつ持続可能な環境に対する権利」を含む人権に及ぼしている負の影響に深い懸念を表明し、日本政府に情報提供を求めました。
具体的には、日本政府に対し、
などについて情報提供を求めました。
なお同様の懸念を伝える書簡は、三菱商事を含む関係企業およびその本拠を置く各国政府に対しても送付されています。
日本政府は、アンタミナ鉱山をめぐる個別の事実関係や、この事案に対する具体的な対応についてはコメントせず、「ビジネスと人権」に関する国内の制度や取組について説明しました。
その中では、2020年に策定した「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」を2025年に改定したことを紹介するとともに、改定後のNAPでは、企業に対し、人権デュー・ディリジェンスの導入を推進することへの期待を示していると説明しています。
また、日本政府は、「ビジネスと人権に関する指導原則」の解説において「国家は、国際人権法の下では、その領域及び/または管轄内にある企業の域外活動を規制することを一般的には求められていない」ことに言及しながら、NAPにおいて、企業に対し、国際的に承認された人権及びILO「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」に掲げられた基本的権利原則を尊重し、「ビジネスと人権に関する指導原則」やその他の国際基準に基づく人権デュー・ディリジェンスを導入するとともに、サプライチェーンに含まれる者を含むステークホルダーとの対話を行うことを期待していると述べています。
2022年に策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」や、2023年から導入した公共調達における人権配慮の方針について説明したほか、企業向けセミナーやガイドブックの作成、JETROによる相談窓口の設置、海外の日本企業への普及啓発など、人権デュー・ディリジェンスの促進に向けた取組を紹介しました。一方、人権デュー・ディリジェンスを義務づける法制度の検討状況については、具体的な説明はありませんでした。
被害救済に関しては、日本司法支援センター(法テラス)による民事法律扶助、裁判外紛争解決手続(ADR)などの制度、外務省、厚生労働省及び経済産業省で構成されるOECDナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)などを紹介した上で、「企業と人権に関する事案についても、個別の事案の内容に応じて、これらの救済制度を利用できる可能性がある」と説明しています。
*以下、8名による連名
【出典】
(2026年07月24日 掲載)