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外国人排斥(ゼノフォビア Xenophobia)の世界的な高まりを受け、人種差別撤廃委員会(CERD)と移住労働者権利委員会(CMW)は、外国人排斥を根絶するためのガイドラインを共同で策定しました[1]。 ガイドラインは、「一般的ガイドライン」と「テーマ別ガイドライン」の2種の独立した文書として策定され、前者はCERD一般的勧告38/CMW一般的意見7(以下、GC38/GC7)として、後者はCERD一般的勧告39/CMW一般的意見8(以下、GC39/GC8)として同時に採択されています。2種のガイドラインは、相互に補完するものとして設計されており、あわせて読まれ、解釈され、かつ実施されるべきと位置づけられています。 |
この記事では、テーマ別ガイドラインであるGC39/GC8について、その概要を紹介します。
*一般ガイドライン(GC38/GC7)の概要はこちらを参照ください。
(作成)ヒューライツ大阪
テーマ別ガイドラインでは随所にわたって、すべての移民、特に非正規の状態に置かれている人々を犯罪と結びつける外国人排斥的な言説に対して警鐘をならしています。
特定の国籍と犯罪を結びつけるような言説や、「犯罪者である」、「仕事を奪っている」、「税金を払わない」などの表現を用いることを控えるべきとし(パラ4)、非正規の状態にある移民に対して「不法」という用語を使用しないよう強く要請しています(パラ5)。
また、メディアに対しても、移民に対する外国人排斥や差別的ステレオタイプと闘うための措置を取る責任を提起し(パラ10)、移住に関する責任あるアプローチ、倫理的な報道および広告を確保することを目的とした行動規範ならびに自主規制的な原則とガイドラインを採択することを勧告しています(パラ12)。自主的な規制においては、特に、非正規の状況にある移民に対して「不法」という用語を使用しないこと(パラ14a)、容疑者を報道する際に、国籍、民族または宗教的属性を強調しないこと(14b)、移民の移動を「侵略」、「雪崩」、「波」のような否定的で誤った認識を醸成する用語で表現しないことが奨励されています(14c)。
また、移住に関する国の言説やコミュニケーション政策において、移民を「よそ者」としてではなく共同体の構成員として提示すること(パラ6)、またメディアの役割として、肯定的かつ包摂的な語りを伝えるイニシアティブを促進すべきとし(パラ15)、社会の文化的多様性を反映し、ステレオタイプ化したアプローチを回避するための措置をとることを求めています(パラ16)。
テーマ別ガイドラインは、非正規の状態について移民に責任があるのではなく、「締約国によってなされた政策および慣行上の選択」であり(パラ9)、移民にとって安全かつ正規の経路を妨げたり、または遮断したりする制限的な政策と外国人排斥との間には直接的な関係があるという認識を示しています(パラ34)。
そして、多くの人々にとって非正規の移住が自国から離れる権利、庇護を求める権利を行使するための数少ない現実的な経路となってきたと指摘し(パラ36)、非正規移住の犯罪化は「行政的な逸脱」であるとして非犯罪化の原則を再確認しています(パラ38)。さらに、非正規の状態に対する措置について、国外への追放は最後の手段とすべきであり、優先順位は、人権上の義務、人道的考慮などに基づく正規化の経路に与えられるべきとし(パラ49)、短期滞在や恒久的滞在の経路を含む、アクセス可能かつ低廉な手数料の正規化メカニズムを確保するための措置をとり、さらに強化することを勧告しています(パラ70)
また、テーマ別ガイドラインは、外国人排斥的な言説と入管への収容を正当化する言説は相互に強め合ってきたことを強調し(パラ59)、入管による収容施設の創設は非正規の移民を公の秩序や安全保障上の脅威と不公正に関連付ける言説を助長し、このような収容が通常、「非人道的な取り扱いに匹敵する」と指摘しています(パラ61)。
その上で、締約国に対して、移住関連の収容政策および慣行を漸進的に廃止するためのあらゆる措置をとることを勧告、廃止されない間においても収容が最終手段としてのみ使用され、かつ例外的な措置であり、可能な限り短期間であることを強く求めています(パラ62)。また、収容施設における移民に対する暴力などの虐待事案について、独立した監視の仕組みや苦情申し立てのメカニズムを実施すべきとし、国内人権機関をはじめ独立した監視機関の強化が求められています(パラ64)。
ヘイトスピーチの問題も随所にわたって言及されています。SNSなどオンライン上のヘイトスピーチに対してはこれを禁止し、防止し、および監視する措置、ならびに通報された事案が効果的に捜査され、適切に訴追され、かつ処罰されるよう確保する措置を講じるべきと指摘しています(パラ20)。また、外国人排斥を根絶するためには外国人排斥や暴力を助長、扇動、または実行する団体およびその他の集団を特定し、禁止し、および制裁することを目的とする立法上、運用上、およびその他の措置を講じなければならないと強調しています(パラ24)。
そして、被害者が司法および救済制度へのアクセスを実行可能な形で確保できるように立法的な措置をとること、通報に関する安全な経路が確保されなければならないと強調し(パラ25)、また、こうした攻撃が移民の権利に関する活動家などの社会活動家を標的にすることに注意を向け、とくに女性の人権擁護者の役割を考慮に入れることを重視しています(パラ26)。
選挙活動に関連するヘイトスピーチについても特段の懸念が示されており、締約国に対して、選挙プロセスの事前・最中・事後の外国人排斥的な言動を防止するための具体的な措置を実施すべきとし(パラ100)、政党や候補者に向けて「政治的および選挙上の利益を得るために、移住、庇護および関連する問題を道具化することを終結させるよう公式に誓約すること」(パラ101a)、「選挙運動において、外国人排斥的な言説を明確に非難すること」(パラ101b)、そして「政治家による外国人排斥的および人種差別的な表現が徹底的に捜査され、適切に制裁されるよう確保すること」(パラ101c)などを勧告しています。
テーマ別ガイドラインは、「国民が人権の特権的な保護を享有すべき」などの誤った言説が及ぼす、移民の経済的、社会的及び文化的権利の享有への悪影響に関して、【教育に対する権利】、【労働権】、【健康に対する権利】などの分野における、国籍や移住・居住の地位を根拠とする制限や排除を取り上げています。
他にも、【社会保障に対する権利】について、非拠出型の所得補助制度を含む社会的援護制度から移民が排除される傾向があることを指摘し(パラ84)、締約国に対して社会保障および社会的援護へのアクセスに関して国籍や移民の地位、居住状況を理由とした差別を控えるよう勧告しています(パラ85)。また【政治的権利】については、多数の国において移民の選挙・被選挙権が制限されていることが外国人排斥的な言説の拡散を容易にしているひとつの要因であるとして、居住期間に基づき、漸進的に、移民が地方及び国政選挙において選挙・被選挙権を可能にする措置をとることや、移住および関連する分野に限定することなく公共政策の策定、実施、評価に関する協議のプロセスに移民団体の参加を確保する必要性を示しています(パラ96)。
出典:Joint general recommendation No. 39 (2025) of the Committee on the Elimination of Racial Discrimination and general comment No. 8 (2025) of the Committee on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of Their Families on thematic guidelines for eradicating xenophobia towards migrants and others perceived as such
[1] 2つのガイドライン全文の日本語訳は反差別国際運動(IMADR)のウェブサイトから読むことができます。
(2026年01月29日 掲載)