国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2025年9月26日、イスラエルが占領を続けるヨルダン川西岸地区の違法入植地に関連する事業活動を行う企業の最新データベースを公表しました。このデータベースでは国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)に基づいた事実認定・人権影響評価がなされており、今回の更新は、国連ビジネスと人権作業部会(以下、作業部会)や多国籍企業との緊密な連携のもとに行われました。以下はその概要です。
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1.イスラエルによるヨルダン川西岸地区の違法入植
イスラエルは、1967年の第三次中東戦争(六日戦争)において、ヨルダン川西岸地区や東エルサレムを占領しました。これ以降、イスラエル国民が当該地域に住宅地や町を建設し、生活拠点を形成しています。
ヨルダン川西岸地区や東エルサレムは、イスラエルの領土ではなく、パレスチナ人の自治権が及ぶ「占領下パレスチナ領域」とされています。このような入植行為は、国際司法裁判所により、「占領国が自国民を占領地に移住させること」を禁止するジュネーブ第四条約第49条に違反すると確認されています。
2.データベースの概要
2016年3月24日、国連人権理事会は、決議31/36「東エルサレムを含む占領下パレスチナ領域および占領下シリア領ゴラン高原におけるイスラエル入植地」を採択しました。この決議は、国連人権高等弁務官に対し、作業部会と緊密に協議しつつ、占領下パレスチナ領域(東エルサレムを含む)のイスラエル入植地に関連する特定の活動に従事するすべての事業体のデータベースを作成するよう要請しました。
このデータベースは、上記人権理事会の決議に基づき、2020年に初めて公表されました。このデータベースは、各国政府、企業、その他のステークホルダーに対し、企業が入植地に関連する活動に関与しているとみられる合理的根拠が存在することを通知し、国際法上の責任に従った対応を支援することを目的としています。
入植地に関連する10種類の活動を対象とし、具体的には、違法な入植地建設や維持に必要な機材・資材の供給、パレスチナ人の住宅破壊、監視活動、資源の商業利用、廃棄物の投棄などが含まれます。
3.今回の更新の概要
2023年7月14日、人権理事会は、決議53/25「人権理事会決議31/36の実施」を採択しました。その中で理事会は、人権高等弁務官に対し、掲載される企業名の追加および削除を含むデータベースの年次更新を確実に行うよう要請しています。
上記決議を受けて行われた今回の更新は、2019年8月2日から2025年4月30日までの期間を対象としています。OHCHRは2024年5月に行った呼びかけを通じて596社に関する733件の情報提供を受け、215社の審査が行われました。今回の対象企業の大半はイスラエルに本拠を置きますが、他に、カナダ、中国、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、英国、米国に本拠を置く企業が含まれます。
今回の更新では、11か国158社が特定され、前回の報告から68社が新たに追加されるとともに、7社が削除されました。158社については、報告対象期間中に少なくとも一つ以上の対象活動に関与していたと見る合理的根拠があると判断されました。残る381社については調査が継続中であり、結果は今後の報告に反映される見込みです。
4.手続きにおける独立性と透明性の重視
ナダ・アルナシフ国連人権副高等弁務官は、9月29日の人権理事会でデータベースの更新に関する報告書を正式に提出し、更新は独立性・公正性・客観性の原則に基づいて行われていると強調しました。
審査対象となった企業にはすべて通知が送付され、関連情報を提出する機会が設けられました。企業の回答は指導原則に基づく手法で評価され、事実認定されました。審査の結果、企業が当該活動に関与していないと確認された場合には、データベースから除外されます。
フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官も、声明で、同報告書の手法が「他地域でも応用可能な国際的基準である」と強調しています。
5.国際社会と企業への呼びかけ
報告書は、企業に対し、自らの事業活動が人権侵害を助長している場合は、適切な救済措置を講じる責任があると指摘しています。同時に、各国政府にも、自国管轄下での企業活動が深刻な人権侵害に加担しないよう監督する義務を果たすよう求めています。
トゥルク国連人権高等弁務官は、声明で、「紛争影響地域で活動する企業には特に強化されたデュー・ディリジェンス(人権に対する負の影響を特定し対処する仕組み)を実施する責任がある」と述べました。
OHCHRは、今後も新たな情報が得られた場合に限り、企業名の掲載を再検討するとしています。なお、最新版の企業データベースおよびこれまでに削除された企業の一覧は、OHCHRの公式ウェブサイトで公開されています。
(構成:石井俊太朗・ヒューライツ大阪インターン)
<参照>
<参考>
(2026年01月09日 掲載)