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危機と変革のさなかでビジネスと人権の取り組みを加速させる~第14回国連ビジネスと人権フォーラム開催(2025年11月24日~26日)

 国連人権理事会のビジネスと人権作業部会(以下、作業部会)が主催する第14回国連ビジネスと人権フォーラムが、2025年11月24日から26日にスイス・ジュネーブの国連欧州本部にて開催されました。本フォーラムは、毎年11月最終週に開催されており、政府・国内人権機関・国際機関・企業・労働組合・市民社会・弁護士・アカデミア等のマルチステークホルダーが参加しています。国や産業界、個々の企業、市民社会が、各国または地域的、国際的な枠組みにおいて、国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)を実行し推進する中で見られた傾向や課題を議論する場となっています。

●フォーラムのテーマと参加者
 本年のフォーラムのテーマは、「危機と変革のさなかでビジネスと人権の取り組みを加速させる」とされ、政治的・地政学的な緊張の高まりや激化する紛争、気候変動、AIによる急速な技術革新といった、人権に深刻な影響を与える危機が折り重なる中で、指導原則の実行を加速・拡大し、影響を受けるライツホルダー(権利保持者)にとって実効性のある変化を生み出すために議論が進められました。財政難に直面する国連の現状が国際的な人権保障の枠組みの危機につながっていることを反映するテーマ設定だといえます。
 フォーラムには対面とオンラインで参加でき、オンライン参加者はライブ動画配信を視聴することとなりました。事務局の発表によれば、本年は146カ国から4,650名が参加登録し、うち1,000名程がオンライン参加者となりました。ステークホルダーごとの内訳を見ると、市民社会組織40%、企業27%、アカデミア11%、各国政府6%、国際機関4%、マルチステークホルダーの協働イニシアティブ、国内人権機関、地域住民・労働者の代表がそれぞれ2%、労働組合が1%となっています。
 本年のフォーラムは、開会・閉会の2つの全体セッションと26の個別セッションで構成されました。セッションでは、企業の事業活動によって人権や環境に影響を受けているアジア、アフリカ、中南米、北欧の先住民族や地域コミュニティの人々がライツホルダーとして登壇し、国の人権保護義務も企業の人権尊重責任も十分に果たされていないと訴えました。
 複雑な世界情勢による政治的・地政学的・経済的な不確実性の高まりの中で、企業が人権を中心に据えた意思決定を効果的に行うにはどうすればよいのか、そのために各国または地域的、国際的な人権保障の枠組みがどのように機能すべきなのか、マルチステークホルダーによる連携がこうした動きをどのように補完できるのかといった議論がなされました。

●危機の時代における人権保障の枠組みと指導原則
 開会セッションでは、フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官が、世界が直面している人権や環境の問題は権力に関する問題でもあると指摘し、企業の権力の拡大によって、限られた個人や企業が国の経済規模を超えるほどの富を蓄積することになり、法規制がなければ、企業による権力の濫用や人々の支配につながると懸念を示しました。
 強大な影響力を持つテック企業による生成AIの導入が人々に与える影響、化石燃料産業によって加速する気候変動が世界の最貧国・地域に与える影響、労働者として搾取される移住労働者、女性、社会保障制度が適用されにくいインフォーマル経済で働く人々への影響、企業が関与する人権侵害を告発する人権擁護者への攻撃、各国における法制度や政策の後退による人権保障の弱体化などが憂慮されると述べました。
 こうした状況に対応するため、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が「ビジネスと人権ヘルプデスク」を立ち上げ、指導原則を適用するための指針を政府、企業、市民社会などのステークホルダーに提供することがトゥルク人権高等弁務官より発表されました。
 開会セッションにビデオメッセージを寄せた英国ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏は、世界の危機の中で最初に犠牲になるのが人権であり、より多くのビジネスリーダーが人権のために声をあげるべきだと訴えました。また、国に対する政策提言においては、自社の利益のためではなく、社会全体の利益のためのロビイストになるべきだと強調しました。

●変わらない状況に声を上げる人権擁護者
 作業部会のピチャモン・イェオファントン議長は、開会セッションで、世界が直面する危機により人権および国際的な人権保障の枠組みが攻撃を受けていると指摘しました。作業部会は昨年のフォーラムから185件の人権侵害の申し立てを受け、先住民族、女性、性的マイノリティ、障害者、ユース、移住労働者などが、差別、暴力、搾取、不当な訴訟といった人権侵害に直面していると伝えました。人間の尊厳は条件付きで守られるものではなく、人権の保障は交渉の余地がないものだと強調しました。
 セッションには環境や人権に影響を受けている先住民族や地域住民などの人権擁護者が登壇し、生活や健康、時には生命が脅かされる厳しい現実を伝えました。ノルウェーのサーミ族の弁護士は、気候変動により伝統的な生業であるトナカイの放牧に影響が出ていると指摘しました。ナイジェリアのオゴニ族の活動家は、原油流出による50年にわたる環境汚染は地域住民に対するジェノサイド(大量虐殺)に匹敵する「エコサイド」であると訴えました。
 オーストラリアの農園で強制労働の被害者となったフィジー出身の活動家は、各国の規制の範囲を超えた企業の対応が重要だと指摘しました。カンボジアの地域コミュニティの女性は、環境や人権を考慮したサトウキビ生産の第三者認証を受けているタイの砂糖加工会社が土地の使用権を取得したことで強制退去させられ、17年かけて救済にたどりついたと話し、救済までの時間を短縮するためには企業と地域住民との建設的な対話・協議が必要だと強調しました。
 被害者が訴える人権侵害の実態とフォーラムの議論の内容の大きな乖離は、第1回のフォーラムから人権擁護者が企業の事業活動による影響に対して声を上げ続けていることから明らかです。米国の現政権による反DEI政策、欧州のオムニバス法案による企業の人権デュー・ディリジェンス義務付けの簡素化などの人権保護・尊重の後退により影響を受けるのは、斡旋手数料による債務を負いながら送り出し国でも受け入れ国でも社会保障にアクセスできない移住労働者や、気候変動によって深刻な打撃を受ける先住民族や地域コミュニティなど、社会においてすでに脆弱な立場に置かれているライツホルダーとなります。各国政府の政策にかかわらず、グローバルな人権保障の土台である国際人権基準に沿った対応がライツホルダーの人権を保障することとなり、あらためて指導原則が果たす役割の重要性が確認されました。

●フォーラムで扱われた重要課題
・変化する世界情勢の中で必要となる国家の行動
・複雑な環境における司法へのアクセスと救済
・危機・紛争下における人権デュー・ディリジェンス
・テクノロジー・AIと人権
・国境を超える移住労働者の人権
・気候変動・環境正義と企業の責任
・エネルギーの公正な移行
・先住民族の権利
・ステークホルダー・エンゲージメント
・ジェンダー平等、多様性と包摂性への企業のコミットメント
・ビジネスと人権の実践におけるユースの役割

<参照>

<参考>



(2025年12月12日 掲載)