<ニューヨーク>
ビジネスと人権作業部会は10月24日、各国政府と企業に対し、国連「ビジネスと人権指導原則」の実施を通じて、移民労働者が直面する深刻かつ構造的な課題に対処するために、より強力な行動を取るよう促しました。
作業部会のピチャモン・イェオファントン委員長は、第80回国連総会で労働移住に関する「報告書」を提示するに際して、「移民労働者は重要産業の基盤を担っているにもかかわらず、最も保護されていない状態に置かれたままである」と述べました。「私たちの社会を支える人々は、あまりにも頻繁に、彼ら/彼女たちが人間としての尊厳と人権をもっているという最も基本的な承認が否定されている」。
報告書では、強制労働、搾取、債務奴隷、安全でない生活環境、および様々な形態の差別や暴力など、ビジネス活動において移民労働者が経験する多くの人権侵害に、作業部会は強い懸念を示しています。移民労働者の権利擁護に向けた世界的および国ごとの進展はあるものの、実施面では大きなギャップが依然として存在するとしています。また、不信感、報復への恐れ、認識不足などから、被害者やその家族が司法救済や補償にアクセスするのを妨げる障壁も存在すると報告しています。
イェオファントン委員長は、「結社の自由と団体交渉権の保障が極めて重要である」「採用プロセスは透明かつ公正であるべきで、労働者に手数料を負担させてはならない。被害が生じた場合、企業は隠蔽しないで、救済を提供したり、救済プロセスに参加すべきである」と述べました。
報告書は、確立されている人権基準と移民労働者の実態との隔たりを埋めるために、移民労働者の権利を政策・法的枠組み、ならびに企業の人権デュー・ディリジェンスプロセスに組み込むべく、国家と企業が連携して取り組む必要性を強調しています。また、「企業が人権責任を尊重する環境を整えるには、国家のリーダーシップが不可欠である」と報告書は指摘します。
「移民や難民も、自らの生活に影響をおよぼす国家・企業の政策や規制の策定に、実質的に関与できるようにしなければならない」とイェオファントン委員長は述べました。「移民労働者は不可欠でありながら、しばしば使い捨てられている。この状況を変えるには、政治的意志と国際協力、そして権利保護をすることが、経済成長の足かせではなく、持続可能な発展の基盤であるという認識が必要である」。
作業部会は、国家と企業による新たな前向きの実践を検証し、国家・企業・その他のアクターが移民労働者保護のために、「ビジネスと人権指導原則」をいかに組み込むべきかについて提言しています。
日本の「育成就労制度」について言及
作業部会は、報告書の作成に際して、各国政府や市民社会組織に2025年4月末を期限として情報を求めていました。それを受けて17の政府、36の市民社会組織をはじめ、国連機関や労働組合などが情報提供をしました。
日本に関しては、日本政府と「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)が情報送信しています。報告書では、技能実習制度を廃止して育成就労制度を創設することに関連し、「改善がなされたにもかかわらず、日本の新たな育成就労制度に関して現在提起されている懸念を認識している」(パラグラフ10)として、新制度においても労働者の転籍をめぐりさまざまな制約が存在することに懸念を表明しています。
<出典>
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/10/un-experts-call-states-and-businesses-step-protection-migrant-workers
UN experts call on States and businesses to step up protection of migrant workers
24 October 2025
https://docs.un.org/en/A/80/171
Report of the Working Group on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises :Labour migration, business and human rights
https://www.ohchr.org/en/calls-for-input/2025/call-inputs-report-labour-migration-business-and-human-rights-80th-session-un
Call for inputs for the report on "Labour Migration, Business and Human Rights" to the 80th session of the UN General Assembly
https://migrants.jp/news/office/20250516.html
国連ビジネスと人権作業部会へ情報提供を行いました(移住連)2025.05.16
(2025年10月30日 掲載)