内閣府男女共同参画局は、男女共同参画社会基本法に基づいて男女共同参画基本計画を策定してきました。この度、2025年末をメドに第6次男女共同参画基本計画を策定する予定であるとして、8月26日から9月15日の日程で、「第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」に対する意見(パブコメ)募集をしました。
ヒューライツ大阪は、真のジェンダー平等の社会をめざす観点から、下記のとおり主だった点についてパブコメを提出しました。ただし、「第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」という文書の位置づけが不明瞭であり、第6次男女共同参画基本計画策定までのプロセスが明示されることを望みます。
「第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/6th/masterplan.html
「第6次男女共同参画基本計画策定にあたっての基本的考え方(素案)」への意見提出
【第1部 基本的な方針】
・全体にわたり施策の進捗状況、特に「進展」と評価する施策については具体的なデータを示してください。たとえば、2ページ「女性に対する暴力についても、各種の支援体制が拡充されるなど、大きな進捗もあった」という記載。また、同ページの「男性の育児休業の取得率の向上」に関しては、取得日数(月数)を理解できるように提示してください。2005年に打ち出した「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標」についても同様です。
・すべての取組について、ベースライン指標とともに達成目標と達成期限を定め、進捗状況と成果を評価してください。
・2ページで言及されているL字カーブは、女性の就業率が20代後半をピークに下がり続けるという意味で、M字カーブより深刻な現象であり、女性の就業環境が改善していない、女性が生涯を通じて働き続けることが現在も困難であることの証左と考えられます。その認識を踏まえたうえで、女性の雇用環境改善のための具体的施策を講じてください。
・同時に、第一子出産後の就業継続率が約7割となったことで「M字型カーブがほぼ解消」と判断できるのかどうか疑問が残ります。どうして3割が辞めるのかに目を向けることが重要であり、その観点からは案でも指摘されている「長時間労働の解消、ケア負担の平等な分担、性別役割分担意識の撤廃」に取り組むことを可能にする制度の構築と実施を進めてください。
・3ページに記載されている外国人労働者数に関し、素案では男女別のデータが示されていません。男女共同参画基本計画であることを踏まえ、趣旨が理解できる記載にしてください。
・AI(6ページ)については、「AIによって仕事を奪われる可能性は女性に偏る」という指摘がおこなわれています。また、ディープフェイクを始めとするジェンダーに基づくデジタル暴力は女性、なかでも少女に大きな被害を及ぼすことが懸念されています。そうしたAIの負の影響に対し、男女共同参画/ジェンダー平等の視点から明記し、施策を講じてください。
・8ページ「国際的な潮流」ではSDGs、さらにゴール5が明記されています。男女共同参画基本計画も、SDGs、なかでもゴール5のターゲットや指標の達成を念頭に置いた計画にしてください。とりわけターゲット5.1「全ての女性及び少女に対するあらゆる形態の差別の撤廃」という観点からは「差別を定義したうえで差別を禁ずる法整備」を進めてください。
・さらにSDGs ゴール5ターゲット5.6「性と生殖に関する健康と権利への普遍的アクセス」という観点からの施策の充実が是非とも必要です。「第4分野 生涯を通じた男女の健康への支援」では、「性と生殖に関する健康と権利」という章立てを設け、当該分野へのコミットメントを明確に示してください。女性が自身の選択と決定で「性と生殖に関する健康」を実現するための医薬品へのアクセスや妊娠中絶の際の配偶者の同意要件の撤廃に関する検討を進めてください。
・また、この関連では、「性と生殖に関する健康と権利」は、43ページを始めとして、素案全体を通じ「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」と表記してください。
・well-beingは厚生経済学では(広義の)「福祉」と表現され、また哲学、倫理学等の他の分野では「幸福」「良い状態」等の言葉が使われてきました。今回の素案において、日本で理解が定着しているとは思えない「多様な幸せ(well-being)」という言葉を、9ページ、12ページを始め随所で用いる背景や意義が良くわかりません。また、幸せの形が多様であることは論を待ちません。「福祉・幸福」といった、より適切な理解しやすい言葉を検討してください。
【第1分野 男女共同参画の推進による多様な幸せ(well-being)の実現】
・16ページにある「共働き・共育て」という枠組での支援では、事実婚や同性カップルによる子育てに対する支援が視野に入らないことが懸念されます。法律婚に限らず、事実婚、同性カップル、そして一人親家庭を包摂する子育て支援を実施してください。
・16ページの「出生後休業支援給付」の対象である「14日以上の育児休業取得」は、せめて「1ヵ月以上」にしてください。「くるみん認定」には取得率に加え、平均取得日数を加えてください。また育児休業取得後の取得者への不利益や不適切な扱いへの対応を講じてください。
【第2分野 あらゆる分野における政策・方針決定過程への女性の参画拡大】
・UN Womenのキャンペーン「Planet 50-50 by 2030」にあるように、世界の目標は男女同数、パリテに移行しています。日本は2003年に打ち出した「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度となるよう期待する」との目標をいまだに達成できていない状態ですが、であるからこそなおさら、グローバルなジェンダー平等の進展を踏まえた目標値として「50-50」を掲げ、その達成に向けた有効な施策を実施してください。そのためには素案において繰り返し重要性が指摘されているポジティブ・アクションを積極的に検討してください。
・「男女同数」を目標に掲げることが難しいのであれば、2003年に示された「社会のあらゆる分野における2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度とする」政府目標をアップデイトし、ベースライン指標を踏まえた目標値と達成期限を設定してください。
・「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」の実施状況を考えても、21ページで示されている「政党に対し女性候補者の割合を増やすよう要請する」だけでは変化は望めません。女性立候補者の供託金減額措置を始めとする施策を検討・実施してください。
・27ページで示されている市区町村における旧姓使用は地方公務員に限った問題ではありません。是非、全労働者の課題として施策を講じてください。また子宮頸がんや乳がん検診についても地方公務員のみに関わる問題ではないので、すべての女性の課題として認識し記載してください。
【第3分野 女性の所得向上と経済的自立の実現】
・39ページの「同一労働・同一賃金」は、SDGsのゴール8でも示されているように「同一価値労働・同一賃金」として取組を進めてください。
・42ページにあるハラスメント対応は組織内では有効に機能しない事例が頻発しています。苦情受付および救済窓口として地域の男女共同参画センターを位置付け、政府として必要な資金的・人的・技術的支援をおこなうことを検討してください。国内人権機関がいまだ設置されない状況下で、そうした機関の役割を代替する機能を果たすことが期待されます。
【第4分野 生涯を通じた男女の健康への視点】
・「健康の実現に関する意思決定に主体的に関わる重要性」に関する視点を明確に示してください。
・「健康な身体づくり」との関連で、拒食症、過食症、それらに影響を与えるルッキズムへの効果的な対応を記載してください。
・健康に関しては、正規雇用であれば保証される健康診断が非正規雇用者には提供されないという状況を踏まえた女性の健康診断受診率の低さに対応する施策を講じてください。
・10代20代女性の妊娠中絶率の高さという現状を踏まえ、望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬を始め、女性が自身の選択と決定で「性と生殖に関する健康」を実現するための医薬品に容易にアクセスするための施策を講じてください。
【第5分野 テクノロジーの進展・利活用の広がりをふまえた男女共同参画の推進】
・58ページにある「テクノロジー施策の文脈での女性用トイレの使用環境改善」とは何を意味するのでしょうか。
・59ページに記載されている盗撮は「画像の拡散」を課題とするのではなく「盗撮そのものの取り締まり」を進めてください。
【第6分野 ジェンダーに基づくあらゆる暴力を容認しない社会基盤の形成と被害者支援の充実】
・67ページのワンストップ支援センターについては、民間の努力に多くを負っている現状があり、「性暴力救援センター・大阪SACHICO」のように、画期的な取組と評価されてきたにもかかわらず、活動の継続が困難になり移転を余儀なくされたセンターがあります。ワンストップセンターについては行政の責任として設置するとともに、民間シェルターには十分な支援を提供してください。
・沖縄を始めとする米軍基地関係者による性暴力の予防、適正な捜査、加害者の訴追、被害者への補償等について特別な対応が必要であることを認識し、適切な施策を実施してください。
・64ページ 性的マイノリティという表現で、女性当事者が不可視化されないように十分に留意してください(【第7分野】も同様)。
【第7分野 男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に関する支援と多様性を尊重する環境の整備】
・2016年に発表されたヘイトスピーチに関する法務省委託調査からは、在日コリアンが集中的にヘイトスピーチのターゲットになっていることが理解できます。ジェンダー統計が取られていないため、委託調査からは明らかになりませんが、在日コリアン女性がターゲットになりやすいことは様々な実態調査から十分に推測できます。「外国人や外国にルーツがある人」との記載では不可視化される多様な歴史的背景を踏まえた人たちの存在を認識し、適切な施策を講じてください。
・女性であることと様々なマイノリティ性が重なり合い、複合的な差別や不平等を被っている女性たちに関する実態調査をおこない、人権教育・啓発にとどまらない施策を実施してください。
・77ページの【基本認識】では、複数の属性が作用することによる「差別と不平等の交差性・複合性」を明記し、その解決はジェンダー平等実現に不可欠と記載してください。
【第8分野 防災・復興における男女共同参画の推進】
・近年の地球温暖化による気候変動を原因とする激甚災害の増加という状況を踏まえ、第8分野の名称を「気候変動と環境への影響を念頭においた防災・復興における男女共同参画の推進」としてください。
【第9分野 地域における男女共同参画の状況に応じた取組の推進】
・87ページにある都道府県、市町村の防災会議における女性割合について、明確に50%を数値目標として掲げてください。避難所運営や避難所に来ることも難しい被災者対応等、災害対応には女性の経験と知見が必要です。
【第10分野 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備】
・旧姓の使用拡大は素案が記述するようには定着しておらず、当事者は実際に様々な不都合に遭遇しています。旧姓の使用拡大ではなく選択的夫婦別姓導入への制度づくりを進めてください。現行婚姻制度下の離婚率を考えれば、同姓を通じた「家族の一体感」という議論の説得力には疑問が残ります。「子どもへの影響」についても具体的な根拠に基づいた議論であるようには思えません。
・第9分野(特に98ページ)にも関連する課題ですが、男女共同参画機構の誕生という機会を捉え、各自治体の男女共同参画センターとの具体的かつ効果的な連携を制度化してください。男女共同参画機構と男女共同参画センターでなければできない分野に特化して成果を出してください。具体的には、第10分野で示されている各種制度の実施に加え、私企業や教育機関で十分に機能しているとは言いがたい暴力・ハラスメントに関する公益通報(苦情処理)への対応に果たせる役割が挙げられます。
・男女共同参画やジェンダー平等の課題解決を進めるためにもパリ原則に則った国内人権機関に関する検討を進めてください。
【第11分野 教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進】
・ユネスコが推奨する包括的性教育の理念を踏まえた性教育を導入してください。その際には、あらゆる段階における性に関する教育を、性別で分離することなく提供してください。また、「不同意性交等罪」への刑法改正も踏まえ、「性的同意」に関する教育を、あらゆる段階における性に関する教育の一環として実施してください。
・男女共同参画社会が実現していない理由を、性別役割分担、無意識の思い込みといった個人の意識に求めるのではなく、意識の変容に結びつく、ポジティブアクションを含む制度的介入の重要性を認識して施策を実施してください。
【第12分野 男女共同参画に関する国際的な協調及び貢献】
・女性差別撤廃条約選択議定書については、20年来、「早期締結について真剣な検討を進める」という説明を聞いてきました。「さらに検討すべき点が残っている」ならば、それはどんな点なのかを明らかにし、また締結時期の目標を示してください。
提出した意見(パブコメ)のPDFデータはこちら
ヒューライツ大阪パブコメ(第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方素案).pdf
(2025年09月25日 掲載)