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欧州の「オムニバス法案」による企業への人権デュー・ディリジェンス義務付け簡素化に国連ビジネスと人権作業部会が警告

 国連ビジネスと人権に関する作業部会は、3月20日に声明を発表し、欧州委員会が2月に提案した「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令」(以下、CSDDD)などのいくつかの規制を簡素化する提案をまとめた「オムニバス法案」について、企業の人権尊重責任を明示した国連「ビジネスと人権に関する指導原則」と整合せず、ビジネスと人権の分野における進展を後退させる可能性があると警告しました。以下はその声明の概要です。

 CSDDDは、2024年7月に施行された欧州連合(EU)の指令で、EU域内外の一定規模以上の企業に対して人権や環境に与える負の影響を特定・評価し、影響の防止・軽減・是正を義務化するものです。作業部会は、CSDDDがビジネスと人権に関する法制度における重要な進展を示すものであり、指導原則の実践に向けた大きな一歩であると評価しています。
 作業部会では、EUによる指令案の策定段階からこの画期的な取り組みを支持し、採択までのプロセスにおいて意見を表明してきました。オムニバス法案が検討されていた2025年2月には、CSDDDのいかなる展開においても指導原則と整合させることを要請する声明を発表しています。しかし、オムニバス法案は指導原則と整合するものとはなっておらず、責任あるビジネスを進展させるのではなく、EUの既存の基準を弱めることにつながります。
 作業部会は、EUがCSDDDと指導原則との整合性を優先し、ビジネスと人権およびサステナビリティを促進するグローバルリーダーとしての評価を維持するよう求めています。また、企業および経済団体がオムニバス法案に関する議論に主体的に関与することを期待しています。
 オムニバス法案についての作業部会の懸念点は、以下のとおりです。

1. 人権デュー・ディリジェンスの実効的な適用
 オムニバス法案では、企業が事業活動を通じて与える人権への負の影響を特定し対処するための人権デュー・ディリジェンスの対象を「直接のビジネスパートナー」に限定しており、指導原則が求める包括的な対応を弱めるものとなっています。こうした変更は、指導原則に沿ってすでに多くの企業がサプライチェーンおよびバリューチェーン全体で取り組んでいる人権尊重の対応範囲を狭め、被害者の救済を阻むことにつながるとして、市民社会や企業も懸念を示しています。また、オムニバス法案が提案している5年ごとの人権デュー・ディリジェンス実施状況の評価では、深刻な人権への負の影響が見過ごされるおそれがあります。

2. 実効的な救済の提供
 CSDDDには企業が与えた損害への民事責任に関する条項が盛り込まれていますが、オムニバス法案では、これをEU加盟国による統一した対応から各国の裁量に委ねる形へと変更提案しています。企業が民事責任を問われず、行政上の義務違反に対する罰則を設けるだけでは、表面的な対応にとどまり、人権侵害の根本原因の解決にはつながらず、EUの規制の実効性を弱める可能性があります。また、被害者の司法へのアクセスが制限され、EU域内における救済へのアクセスの一貫性や公平性が確保できないおそれがあります。

3. 透明性と有意義なステークホルダーエンゲージメント
 企業による人権および環境への影響の考慮を効果的に規制に組み込むためには、透明性の確保と、市民社会やライツホルダー(権利保持者)を含むすべてのステークホルダーを包摂する有意義な協議が不可欠です。オムニバス法案は、ステークホルダーエンゲージメントの対象を企業の事業活動から直接影響を受ける人々に限定していますが、適切なステークホルダーエンゲージメントを欠いた性急な規制緩和や簡素化は、EU機関に対する信頼を損ない、EUが長年推進してきたガバナンスの枠組みを弱体化させるものとなります。

<出典>

<参考>

(2025年06月05日 掲載)