人種差別撤廃委員会は、同委員会が設けた「早期警戒と緊急アクション手続き」を通じて申立てを受理し、沖縄県の辺野古・大浦地区における米軍の新基地建設計画は、人種差別撤廃条約の下で保護されている琉球・沖縄の先住民族の権利侵害にあたることを懸念する書簡を5月12日付で日本政府に送付しました。
委員会は、琉球・沖縄先住民族の権利、とりわけ健康に対する権利、清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利、共同体としての土地、領域、資源を所有、開発、管理、利用する権利に悪影響を及ぼすとの報告、および琉球・沖縄の先住民族の自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を得た上での効果的かつ意味のある協議が行われていないという情報に憂慮を表明しています。
委員会は、日本政府に対して、それらを踏まえたうえで、辺野古・大浦湾の埋め立てを含む沖縄本島北部における米軍新基地建設が琉球・沖縄の先住民族の権利に及ぼす影響について、2025年8月1日までに情報を提供するよう要請しています。
書簡全文の翻訳は以下のとおりです。
REFERENCE:CERD/EWUAP/115thsession/2025/CS/BJ/ks
2025 年5月12日
尾池厚之特命全権大使
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部常駐代表
大使、
人種差別撤廃委員会(以下「委員会」)は、辺野古・大浦湾を含む沖縄本島北部における米軍新基地建設と、琉球・沖縄の先住民族への影響に関して、「早期警告と緊急アクション手続き」の下で情報を受け取ったことをお知らせします。
寄せられた以下の情報によると、
・沖縄県内の米軍基地の影響に関する抗議と、1996年の「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)の報告書を考慮し、日本とアメリカは沖縄のいくつかの米軍基地と施設を閉鎖することで合意した。これには普天間飛行場の閉鎖と、米海兵隊キャンプ・シュワブのある沖縄本島北部、名護市東海岸の辺野古・大浦湾地区への新施設建設が含まれる。
・国内の法的枠組みに従い、沖縄防衛局は辺野古・大浦湾区域の新施設建設に関する影響評価調査を実施し、2012年、環境への悪影響はなく、起こりうる影響への環境保全措置計画で十分であるとの結論を出した。
・様々な学会や環境NGOが環境アセスメント調査やその結論の妥当性について懸念を表明したにもかかわらず、沖縄県は2013年12月、このプロジェクトを承認し、2017年4月に建設が開始された。住民の健康に対する権利と、清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利への悪影響に加え、沖縄県内では1972年から2023年の間に850件以上の米軍機による事故が記録されていることを考慮すると、米軍の新飛行場はさらなる危険につながるだろう。
・2019年2月、沖縄県は辺野古・大浦湾地区への新施設建設に関する県民投票を実施し、有効投票の72%が反対票を投じた。しかし、日本政府はこの住民投票の結果を考慮しなかった。
・2020年4月21日、沖縄防衛局は沖縄県に、実施段階で技術的な問題に直面したため、海底を補強するための事業設計の変更を要請した。要請の目的は、直径1.6〜2メートルの砂杭1万6000本を含む7万1000本の杭を水面下70メートルの深さまで打ち込み、補強することだった。
・しかし、沖縄県知事は2021年11月25日、海底の環境調査が不十分であること、完成までの期間が明確でないことを理由に、変更設計の申請を却下した。
・沖縄防衛局は、行政不服審査法の規定に基づき、国土交通大臣に対し、設計変更申請に対する知事の判断の見直しを求める要望書を提出した。国土交通大臣は2022年4月8日、沖縄県による設計変更の不承認を取り消す決定をし、同月28日、沖縄県に対し設計変更申請を承認するよう指示した。
・沖縄県知事は、2022年4月8日付および28日付の国土交通大臣の決定に対し、福岡高等裁判所に異議を申し立てたが、同高裁は2023年3月16日に控訴を棄却した。沖縄県知事は最高裁に上告したが、最高裁は2023年9月4日、福岡高裁判決を支持し、設計変更が「公有水面埋立法」の要件を満たしているかどうかも、提案された変更が環境に与える影響も評価することなく、2022年4月8日付の国土交通大臣の決定の拘束力を維持した。
・最高裁判決後、国土交通大臣は沖縄県知事に対し、本事業の設計変更を承認するよう勧告・指示したが、沖縄県知事はこれを再度拒否した。国土交通大臣は、再三の拒否を考慮し、2023年10月5日、福岡高裁に対し、地方自治法の規定に基づき、沖縄県に代わって設計変更を承認する代執行の訴訟を提起した。
・福岡高裁は、2023年9月4日の最高裁判決を踏まえ、沖縄防衛局の主張が国内法の枠組みにおいて必要な要件をすべて満たしているかどうかの実質的な環境アセスメントを実施することなく、2023年12月20日にこの請求を承認した。
・2023年12月28日、国土交通大臣は、地方自治法の代執行規定により、事業の設計変更を承認した。このため、辺野古・大浦湾の工事は2024年1月10日に再開され、2024年後半に活発化した。
委員会は、海港拡張計画に関する申し立てがもし確認された場合、人種差別撤廃条約(ICERD)の下で保護されている琉球・沖縄の先住民族の権利を侵害することを懸念しています。具体的には、委員会は、辺野古・大浦湾を含む沖縄本島北部における米軍新基地建設が、琉球・沖縄先住民族の権利、とりわけ健康に対する権利、清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利、共同体としての土地、領域、資源を所有、開発、管理、利用する権利に悪影響を及ぼすと報告されていることに懸念を抱いています。委員会はまた、琉球・沖縄の先住民族の自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を得た上での効果的かつ意味のある協議が行われていないとの報告を憂慮しています。
この点に関して、委員会は、先住民族の権利に関する一般的勧告23(1997年)および日本に関する前回の総括所見(CERD/C/JAP/CO/10-11、パラグラフ17および18)※を想起します。
条約第9条(1)および手続規則第65条に従い、委員会は締約国に対し、上記の申し立て、特に辺野古・大浦湾の埋め立てを含む沖縄本島北部における米軍新基地建設が琉球・沖縄の先住民族の権利に及ぼす影響について、2025年8月1日までに情報を提供するよう要請します。
委員会が、条約の効果的な実施を確保するため、日本政府との建設的な対話を継続することを改めて表明します。
ご高配のほど、よろしくお願いします。
敬具
Michal Balcerzak
人種差別撤廃委員会委員長
(翻訳・ヒューライツ大阪)
※訳注:前回の日本報告書審査後の総括所見は2018年8月に採択。
琉球・沖縄の先住民族の状況
17.委員会は,前回の勧告(CERD/C/JPN/CO/7-9, パラグラフ 21)及び他の人権メカニズムからの勧告にもかかわらず,琉球/沖縄の人々が,先住民族として認識されていないことを懸念する。委員会は,さらに,米軍基地の存在によって,沖縄の女性に対する暴力に関する報告及び民間区域における軍用機の事故に関連して琉球/沖縄の人々が直面している問題に関する報告について懸念する。(第5条)
18.委員会は,締約国が,琉球の人々を先住民族として認識するよう,その立場を見直し,その権利を保護する措置を強化することを勧告する。委員会は,締約国が,女性への暴力を含む,琉球/沖縄の人々の適切な安全と保護を確保し,加害者の適切な起訴及び有罪判決を確保することを勧告する。
<出典>
https://www.ohchr.org/en/treaty-bodies/cerd/decisions-statements-and-letters
Decisions, statements and letters
Committee on the Elimination of Racial Discrimination
↓
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/hrbodies/cerd/earlywarning/letters/cerd-ewuap-letter-115-japan2.pdf
JAPAN: 09/05/2025 English: Letter 2
(2025年05月28日 掲載)