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国連ビジネスと人権ワーキンググループがスラップ訴訟に対して改めて警鐘

 2022年2月4日、国連ビジネスと人権ワーキンググループは、声を上げる人権擁護者を脅迫し黙らせることを目的としたスラップ訴訟(※1)を防ぐために、2021年の第10回国連ビジネスと人権フォーラムでの議論を振り返りながら、以下のように国・企業の行動を改めて求めました。

世界中に広がるスラップ訴訟

 フォーラムでは、ワーキンググループ、人権擁護者の状況に関する国連特別報告者、市民社会組織による、スラップ訴訟に直面する人権擁護者の保護の強化をテーマにした共同セッションが行われました。スラップ訴訟が世界的な問題であり、人権擁護者から活動のための時間やエネルギーを奪い、表現や集会、結社の自由を含むさまざまな人権を侵害して、人権擁護者に心理的な影響を与えることが指摘されました。
 セッションで報告されたビジネスと人権リソースセンターの調査結果によれば、2015年1月から2021年5月の間に、スラップ訴訟といえるケースが355件確認されています。件数が最も多いのはラテンアメリカ(39%)、次いでアジア・太平洋(25%)、欧州・中央アジア(18%)、アフリカ(8.5%)、北米(9%)となっています。また、63%が刑事訴訟であり、人権擁護者の行為が犯罪として扱われています。特に、採掘・農業・畜産業・木材伐採・パーム油等のセクターについて声を上げている人権擁護者が影響を受けています。

スラップ訴訟を防ぐための国の枠組み

 スラップ訴訟のリスクを高めている要因として、セッションでは人権擁護者を保護する規制の枠組みの弱さや名誉毀損等の刑法の適用が指摘され、国は反スラップ訴訟法を制定し(※2)、政策や法改革を進めることで、スラップ訴訟を起こした企業等に制裁を与えるべきであるという提言がありました。
 また、法曹界の役割の重要性が強調され、国は裁判官や検察官がスラップ訴訟を認識、対応するための訓練を受けられるようにし、人権擁護者の活動に関する事実の歪曲、嫌がらせや脅迫、被告を利用するような意図があると判断される場合には、訴訟を却下する権限を裁判所に与えるべきであるという提言もありました。弁護士に対しては、スラップ訴訟において企業の代理人を務めることを控えるように呼びかけています。

企業に求められること

 企業については、人権擁護者に対する報復を防ぐための国の政策に責任を持って関わるべきであるとしています。資産運用会社、公的年金基金、財団等の200の機関投資家からなるInvestor Alliance for Human Rightsは、企業に対して、自社の事業やバリューチェーン、取引関係における人権擁護者へのいかなる攻撃・報復も許さないゼロ・トレランス・アプローチを採用し、スラップ訴訟等の司法制度を利用した嫌がらせによる市民参加やアドボカシーの妨害を控えるよう求めています。企業は、名誉毀損による損害に対して巨額の賠償を要求すべきではなく、人権擁護者への攻撃・報復を防ぐために人権デュー・ディリジェンスを実行すべきであると指摘されています。

人権擁護者はパートナー

 国、企業、投資家、法曹界は、スラップ訴訟を防止し、人権擁護者を保護する責任があるというのがセッションの共通の結論となりました。事業につながる人権侵害に関する申し立ては、企業の説明責任と救済へのアクセスを追求するための重要な要素となることから、人権擁護者にとって安全な活動環境を作り、促進するための行動を直ちに起こすべきであるとされました。
 国連ビジネスと人権に関するワーキンググループのアニタ・ラマサストリー氏は、「スラップ訴訟は起きてはならないことあり、人権擁護者は企業が人権に与える重要な影響の特定を助ける重要なパートナーとみなされる必要があります。処分すべき厄介者、トラブルメーカー、障害物、脅威とみなすのではなく、企業のステークホルダーエンゲージメントや人権デュー・ディリジェンスの一部であるべきです」と述べています。
 ワーキングループが2021年6月に人権理事会に提出した「人権擁護者の尊重の確保に関するガイダンス」には、スラップ訴訟に対応するための国・企業への勧告が含まれています。

(構成:土井陽子)

  • ※1:スラップ訴訟とは、「市民参加に対する戦略的訴訟(SLAPP: strategic lawsuit against public participation)」のことで、人権や環境に対する不正義について公に声を上げた個人や組織に対する国・企業等による報復的な刑事・民事訴訟を指します。国や企業の不正を暴く記事を書いたジャーナリスト、自社の不正を告発した社員、開発プロジェクトに対して立ち上がった地域住民や先住民族の活動家や人権・環境団体等に対するスラップ訴訟が起きています。
  • ※2:オーストラリア、タイ、フィリピン、インドネシアなどはすでに反スラップ訴訟法を制定しており、米国、カナダでは一部の州で制定されています。

<参照>

<参考>

(2022年03月21日 掲載)