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シネマと人権 11:「私はヴァレンティナ」

小山 帥人(こやま おさひと)

ジャーナリスト・ヒューライツ大阪理事


地域で少数者として生きることの難しさ

 最近、若い人がセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)に関心を持ち、積極的に発信するようになった。そのことが世間の風潮を少しずつ変えてきてはいるが、当事者の生きにくさは解決されていない。

 この映画は、ブラジルのトランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない)の女子高生の物語である。主人公のヴァレンティナは、父親が家を出て行き、母親と二人暮らし。母の仕事の関係で住居が変わり、学校も変わることになった。彼女は女性が使うヴァレンティナという名前で呼ばれたいのだが、出生届はラウルという名になっている。

 ブラジルでは同性間の結婚も認められ、LGBTQなど、性的マイノリティへの法的保護が取られているが、実際には中途退学するLGBTQは82%にのぼるといわれる。

 入学前の補習授業の段階で、ネットでは、ヴァレンティナの顔と男性の身体を合成して、トランスジェンダーであることをほのめかす写真が出回っている。

 ヴァレンティナには、2人の親友がいる。1人はゲイで、1人は未婚で妊娠している。ヴァレンティナは2人に、自分がトランスジェンダーであることを打ち明ける。


地域に残る差別感情

 親友と仮想パーティに参加した夜、ヴァレンティナは酔って寝ている時に、見知らぬ男から身体を触られる。2人の親友も協力して、犯人を探し出し、問い詰めるが、犯人の兄が出てきて、犯行を認めず、「町の安定を乱すな」と、逆にヴァレンティナを脅す。その後、ガラスが割られたり、ヴァレンティナを通学させるなという保護者たちの署名が学校に届けられたりする。法的保護があっても、地域に残る差別は根強い。

 ようやく教育委員会から、通称を使っていいという決定が降りて、ヴァレンティナは学校に通い出そうとするが、学校に詰めかけた保護者たちは、ヴァレンティナが教室に入ることを妨害する。

 自由に生きようとする少女の願いがどうして抑圧されなければならないのか。


カミングアウトしている人は少ない

 一方、日本では2015年に文部科学省が性的マイノリティのための指針(性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について)を出し、名簿などの呼称は本人の意思を尊重するとか、服装も本人の意思を尊重するとしている。しかしどれだけ、その指針が定着しているのだろうか。日本では性的マイノリティであることをカミングアウトしている人は30%に満たないという調査結果もある。社会全体にある少数者を排除する風潮が続く限り、学校への指針だけで解決するのは難しい。

 町の大人がヴァレンティナを追い出そうとし、男がナイフまで持ち出したとき、同級生が立ち上がって男の前に立ち、ヴァレンティナを守ろうとするシーンが感動的だ。

 主人公のヴァレンティナを演じるのは、トランスジェンダーの女優で、監督も性的マイノリティである。差別される側の不安な日常生活がリアルに描かれ、母親や友達の協力で、状況を変えていく力も映し出されている。

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ヴァレンティナは自由に生きたいと願う女子高校生

(C)2020 Campo Cerrado All Rights Reserved.

<映画『私はヴァレンティナ』>

2020年/ブラジル/1時間35分/監督:カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス/配給:ハーク

サン・パウロ国際映画祭2020 観客賞・審査員特別賞受賞

シアトル国際映画祭2021 審査員特別賞受賞

公式サイトhttps://hark3.com/valentina/#modal

4月1日より全国順次公開、4月8日よりシネリーブル梅田、アップリンク京都、4月15日よりシネリーブル神戸

(2022年03月15日 掲載)