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第2回アジア・太平洋地域国内人権機関ワークショップに参加して

1.ワークショップの経緯

 1997年9月10日から12日までの3日間、インドのニューデリーにおいて「第2回アジア・太平洋国内人権機関ワークショップ(Second Asia-Pacific Regional Workshop of National Human Rights Institutions)が、アジア・太平洋地域の国内人権機関、国連人権高等弁務官事務所の職員および政府代表とNGOが参加して開催された。この度のワークショップは、96年7月、オーストラリアのダーウィン(Darwin)で開催された第1回ワークショップに続くものであった。

 このような地域的国内人権機関の会合は、1991年国内人権機関の法的地位と権限などに関して基本原則(パリ原則)を策定したパリ会議に次いで、国内人権機関の設立と強化を促すために、1993年にはチュニスで第2回国際会議が開かれ、第3回会議は1995年にフィリピンのマニラで開かれた。国内人権機関の地域的ワークショップの開催は、このマニラ会議で正式に提案され、1996年2月にはカメルーンのヤウンデで、第1回アフリカ地域国内人権会議が開催された。そして、アジア・太平洋地域では、オーストラリアとニュージーランド両国の人権委員会の提唱にもとづき、国連人権委員と人権高等弁務官の財源上の支援を得て、第1回国内人権機関のワークショップが96年に開催されることになった。

2.ワークショップの目的

 国内人権機関ワークショップは、次の2つのことを主要な目的とする。

 その1つは、アジア・太平洋地域の国内人権機関が、①共通の関心事項に関する対話を促進し、②人権教育を含む共通の関心と任務に関する問題と分野において共同行動を推進し、さらに③共同の発展と研修プログラムおよび職員の交流を促進し奨励することによって、国内人権機関相互の協力・強化を図ることである。そしてもう1つの目的は、国内人権機関の設立作業を進めている国家、もしくは、設立作業を進める具体的措置をとっている国家に対し、具体的アドバイスを通して、設立の奨励と支援を行うことである。

 第1回目のダーウィン会議では、オーストラリア、インド、インドネシアおよびニュージーランド、それぞれの国内人権委員会が参加したが、フィジー、モンゴル、ネパール、パキスタン、パプアニューギニア、ソロモン群島、スリランカ、そしてタイの政府代表がオブザーバーとして参加した。これらオブザーバーとして参加した諸国は、その後、国内人権機関の設立に向けて努力し、今回の会議には、スリランカの人権委員会が新しく加わった。ダーウィン会議の経過と会議で採択された「ララキア宣言(Larrakia Declaration)」については、ヒューライツ大阪の紀要第1号である『国連人権システムの変動』(アジア・太平洋人権レビュー1997)に紹介されたので割愛する。ただ、アジア・太平洋地域の国内人権機関相互の協力を具体的に進める中心的役割を担うものとして「国内人権機関のアジア・太平洋地域フォーラム」が設立され、今回のニューデリー会議においても、このフォーラムが担うべき役割について多くの時間があてられたことを指摘しておきたい。

3.ニューデリー会議の内容と経過

 インド首相の歓迎スピーチを含む開会式によって始まったニューデリー会議には、7カ国の国内人権機関(ただし、イランは女性委員会)と国連人権高等弁務官事務所の他に15カ国の政府代表とヒューライツ大阪を含む9団体のNGO、さらに、カナダと南アフリカの人権委員会がオブザーバーとして参加した。会議は、テーマごとにセッションを設けて進めたが、それらは、①国内人権機関の概念と人権文化の促進におけるその役割、②国内人権機関の設立に関するアジア・太平洋地域の発展、③国内人権機関の機能強化、④国内人権機関の組織的行動計画として、1)人権問題に対する管轄権の発展、2)子どもの性的搾取との闘い、そして、3)世界人権宣言採択50周年記念事業と、その他のプログラムである。

 これらのテーマすべてについては紙幅のために割愛しなければならないが、アジア・太平洋地域の国内人権機関の発展にとって重要であると思われるいくつかのことについて触れることにする。まず第1点は、国内人権機関の機能強化に関する議論のなかで、人権侵害の苦情申立て、もしくは、訴えに対する人権機関の救済機能が非常に重要な役割を果たしていることである。こうした救済機能の手続きと効果は国によって異なるが、インド人権委員会は、委員会独自の調査権限だけでなく、国家機関をも利用する権限があり、調査にもとづいて中央政府と州政府に対して勧告を行い、勧告には人権を侵害した公務員の告発と補償を含むことができる。また、人権侵害に関する裁判にも人権委員会の参加が認められるなど、具体的人権侵害の救済機関としてきわめて重要な役割を果たしており、その結果、人権委員会に寄せられる苦情が急増している。たとえば、1995年から96年までの1年間は10,195件であったが、96年から97年までの1年間に寄せられた苦情は20,514件と1年間で倍増していることが紹介された。こうした状況に対応するために、2人一組で対応した相談を1人でも対応できるようにするなど、いろいろと工夫している。

 次にその第2点は、ダーウィン会議で設けた「地域フォーラム(Regional Forum)」が、国内人権機関の機能強化と機関間の交流と協力促進について非常に重要な役割を果たそうとしていることである。たとえば、国内人権機関の職員の交流と研修そして技術的協力については具体的な作業が進められており、フィリピンとインドネシアの人権委員会に関連して協議中の協力事業が、「フォーラム」の事務局によって紹介された。また、新しい試みとして、最終文書によっても確認されたが、国内人権委員会に対し、具体的人権問題に適用される国際人権法の解釈について専門的勧告を行う「国際人権法諮問機関(International Human Rights Law Advisory Panel)」をフォーラムの中に設けることになったことは、注目すべき発展である。

4.ニューデリー会議に思うこと

 以上かいつまんでニューデリーで開かれた第2回アジア・太平洋地域国内人権機関ワークショップについて紹介をしたが、同会議に参加して思うことの一端に触れて責めを果たしたい。その1つは、中国、韓国そして日本といった東北アジアの状況とは対照的に、東南アジアおよび南アジア諸国では、国内人権機関の設立が着実に進んでおり、たとえばバングラデシュ、ネパール、そしてモンゴルにおける設立作業が会議においては確認された。そして次に、国内人権機関設立の進展は、1998年にはジャカルタで開催が予定されているワークショップに参加する国内人権機関と「地域フォーラム」の協力事業への参加によって、アジア・太平洋地域の国内人権機関の状況が大きく変わる展望が開けてきたともいえる。そして、最後に、ニューデリー会議には、日本政府代表は1人も姿を見せず、日本の役割に期待する国内人権機関およびNGO代表を失望させた。日本からの参加は「ヒューライツ大阪」だけで、日本社会の発展(?)を紹介して日本政府の不参加を弁護する奇妙な役割さえ果たすことになった。

(文/金 東勲/龍谷大学法学部教授)