人として♥人とともに
2011年に国連人権理事会が「ビジネスと人権指導原則」(以下、指導原則)を承認して以来、日本でも指導原則に則った実践が拡がりつつあります。ヒューライツ大阪は、指導原則承認翌年の2012年に、指導原則の理念を伝え、その実施を促すために『人を大切に~「ビジネスと人権」ガイドブック』を発行し、日本における指導原則に関する理解の浸透と実践の拡がりに努めてきました。2022年にはガイドブックの改訂版を発行し、また「ビジネスと人権」を学ぶためのeラーニング教材は、多くの企業の皆様に活用いただいてきています。
指導原則には「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱があります。企業には人権を尊重する責任が課せられていますが、国家には人権を保護する義務があります。その国家の義務の中味を明らかにするために各国政府に策定が求められるのが国別行動計画 (National Action Plan:NAP)です。日本政府は2020年に、アジアではタイに次いで2番目となる「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」(以下、行動計画)を策定し、2025年12月に改定版を公表しました。
「ビジネスと人権」については、2023年7月から8月にかけて、指導原則の推進を担うために設置された国連「ビジネスと人権」作業部会議長のダミロラ・オラウィ氏とアジア太平洋地域メンバーのピチャモン・イェオパントン氏の2名による訪日調査が実施されました。
両名は東京、大阪、愛知、北海道、福島を訪問し、政府関係者、経済団体、主要企業の他、女性、障害者、被差別部落出身者、性的マイノリティ、在日コリアン、アイヌ民族、技能実習生/外国人労働者、福島第一原発事故後の処理に従事した労働者、PFAS被害を訴えている人たち等の多様な当事者及び支援団体と意見交換をおこないました。その結果は訪日調査報告として2024年5月に公表されていますが(1、同報告は政府に対し25項目の提言をおこないました。
では、作業部会の提言は、2025年に公表された行動計画改定版にどのように反映されたでしょうか。訪日調査報告で示された政府への提言を念頭に置き、行動計画改定版を検討すると、以下のような課題を指摘することができます。
指導原則の策定を牽引したジョン・ラギーは、指導原則策定の背景として「ガバナンス・ギャップ」を挙げましたが、そこでのガバナンス・ギャップは、多国籍企業に代表される経済的影響力を行使する主体と、その経済活動に起因する人権への負の影響に対応する政府/社会の能力のギャップ(差)でした。このギャップを埋めることが指導原則誕生の重要な背景であったわけです。
ですが、グローバル・スタンダードを踏まえた行動計画という観点から日本の「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を考えると、何よりもまず、前述の①が指導原則実施にあたっての日本における深刻なガバナンス・ギャップであるように感じられます。政策のモニタリングと評価ができない状況は、日本における人権を始めとする様々な政策課題に関するステークホルダーと政府間の建設的対話を困難にもしています。
<脚注>
<参考>