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国際人権ひろば No.189(2026年09月発行号)

特集:性の多様性が尊重される社会に向けて

SOGIに関わる権利保障の現在地

神谷 悠一(かみや ゆういち)
LGBT法連合会 代表理事

 SOGI理解増進法の限界

 2026年6月16日に政府は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(以下「SOGI理解増進法」という)に基づく基本計画を閣議決定した。本法はその名前から連想されるイメージと異なり、理解を増進する啓発や教育、研修といった条項は努力義務に留まっており、義務を課しているのは国の基本計画の策定など4項目にとどまる。そのため、理解増進のための行政の体制整備法ともいうべき内容となっている。

 この法の数少ない義務として規定されている、政府の施策の方向性を定める基本計画の策定には、実に3年を要し、通常長くとも1年以内には策定される基本計画の策定が、ここまで長期に渡ったのは前代未聞である。法の義務を無視してきたという、法の支配の観点からも問題のある経過といえよう。

 ただ、SOGI理解増進法の制定過程を振り返ると、法案策定の議論では、突如一部政党からSOGIの多様性を理解すると多数派が不安になるとして「マジョリティへの配慮」が飛び出し、その残滓として法12条に「この法律に定める措置の実施等に当たっては(中略)全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」が規定された(1。国会答弁では、法案提出者が、12条は3条の基本理念(憲法11条、13条、14条、すなわち基本的人権の享受や法の下の平等、人格権の尊重などを念頭に規定された理念(2の強調であるとの解釈を答弁したが、この施策の遅延状況を見るにやはり『安心留意事項』が発揮する効果への懸念は拭えない。

 基本計画の内容は、概ね、各省庁がすでに実施している、地方自治体向け、企業等向け、学校向けの啓発や相談対応の事業の羅列となっており、新規事業はほとんど見られない。同計画の基本的な考え方に「自らのSOGIに従って社会生活を営む利益は人格と結びついた重要で切実な法益」とされたことは方向性として評価できるが、続く段落に「異なる意見に対しても寛容の精神に立ち」云々とされたことは、差別する自由に繋がりかねないとの懸念も聞かれる。また、特に教育の実施について及び腰であり、教科教育ではなく、あくまで総合や道徳の時間でのみ実施することを念頭に、人権教育の枠組みの中でのSOGIに関する教育の好事例の収集や普及を記載するに留まっている。法には学校でのSOGIの多様性についての教育の実施が努力義務として規定されているが、基本計画の内容に反映されているとは言い難い。ただ、理解増進法に規定された指針策定は今日でもなおなされておらず、実務的な内容の詰めは定まりきっていない。

 2026年10月から施行・拡充されるいわゆる「ハラスメント防止措置」

 筆者の所属するLGBT法連合会では、SOGI理解増進法の動向を押さえつつも、2026年10月施行の改正労働施策総合推進法の施行に向けた取り組みに注力することとしている。

 まず、労働施策総合推進法について見ていきたい。同法はすでに、民間企業や団体、地方自治体、教育委員会などすべての事業主に、パワーハラスメント防止措置を課している。SOGIに関する侮辱的な言動や、いわゆる「アウティング(本人の性のあり方を、同意なく第三者に暴露してしまうこと。)」もパワーハラスメントになり得るとされていた。10月施行の改正により、法はカスタマーハラスメントの防止措置をすべての事業主に新たに課すことが決まっている。これにより、カスタマーハラスメントにも、上記のSOGIに関わるハラスメントが含まれることとなったほか、パワーハラスメント、カスタマーハラスメントの両方に「当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること」、いわゆる「カミングアウトの強要」「カミングアウトの禁止」が両ハラスメントとなり得ることが明確化された。企業や自治体などの事業主は、これらを防止するために、約10項目の防止措置を講じることが義務付けられている。その内容としては、例えば、SOGIに関するハラスメントや、アウティングなども法で防止対象となっているハラスメントに含まれることを職場で示し、懲戒規定などとともに周知啓発することが挙げられる。また、このようなハラスメントについて相談された場合には、いわゆる二次被害を起こさないよう、適切に対応することも求められている。さらに、SOGIもプライバシーに含まれるため、ハラスメント対応に関わる人びとに対し、研修の実施やマニュアルを策定するなどのプライバシー保護措置を実施しなければならない。これらは防止措置のほんの一部である。すべての防止措置義務に、SOGIに関するハラスメントが含まれることとなっている。

 このような措置義務は、従来から企業等に課されている、いわゆるセクハラやマタハラ防止措置義務とほぼ同内容である。これらの措置を怠るなどの法違反があった場合には、都道府県労働局からの指導、勧告、企業名公表などが規定されている。また、過去には、ハラスメント防止措置を怠った企業が、司法の場で法的責任を問われる例も見られている。

 なお、従来から解釈通達には「相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動」を受ける「相手」が、性的マイノリティに限られない旨が明記されている。そのため例えば侮辱的な「ホモネタ」「レズネタ」などが多数派同士で行われた際も、パワーハラスメントとなり得ることとなっていた。改正後のカスタマーハラスメント防止にあたっても、同様の解釈通達が出されており、パワーハラスメント防止の内容が踏襲されている。

 他方で従来から解釈通達には「性的指向」「ジェンダーアイデンティティ」以外の「労働者の属性に関する侮辱的な言動」についても、パワハラやカスハラなど各ハラスメントの要素を満たす場合には、これに該当するとされている。つまり、さまざまなマイノリティに関わるハラスメントについても、同法は防止措置を要請していることとなっている。これも同様の解釈通達がカスタマーハラスメント防止において出されており、内容が踏襲されている。

  「それ、SOGIハラって知ってますか」キャンペーン

 LGBT法連合会は「それ、SOGIハラって知ってますか」キャンペーンを開始している。法に基づく防止措置義務の対象である「SOGIハラ」の存在を改めて広く周知するため、チラシやポスターのデータを無料で配布している(キャンペーン情報はこちらから:https://lgbtetc.jp/news/4505/)。また、法準拠のガイドラインを策定し頒布、全国の団体に労働局への要請行動を呼びかけ始めている。

 どうしても、従来から関心のある人びとの輪から外へ周知するためには、法に対応する「業務」などの形で関心が向けられる、法の施行前後が一つの重要なタイミングになる。今回のキャンペーンを通じて、全国津々浦々のSOGIに関する認識を深め、ハラスメントや差別をなくす社会に歩を進めていきたい。


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「それ、SOGIハラって知ってますか」
キャンペーンのポスター(LGBT法連合会制作)



<脚注>

  1. 神谷悠一,2023, 「マイノリティが強いられている「多数派への配慮」とは?~「LGBT理解増進法」の制定過程から考える」imidasWebサイト,集英社,https://imidas.jp/insight/f-40-244-23-12-g939/
  2. 名越裕吾,2023,「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和5年法律68号)の制定について」『自治実務セミナー』(735),第一法規,pp4-7.