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国際人権ひろば No.170(2023年07月発行号)

特集:日韓の現場に学ぶひとり親のエンパワメントと支援

非婚母の立場から「国」のありかたを問いなおす

田間 泰子(たま やすこ)
大阪公立大学 大学院現代システム科学研究科 客員研究員

日本は婚外子の少ない社会か

 最初にクイズを出そう。生きて生まれた子どものなかで、法的に婚姻した夫婦の子(嫡出(ルビ:ちゃくしゅつ))ではない子の割合(以下「婚外子率」)、20.6%。これは、どこの国の、いつ頃の数値か?選択肢は、①2020年の日本②1950年の日本③1890年代の日本、④2020年のスペイン。
 どれも正解ではない(すみません)。選択肢の婚外子の数値は①2.4%、②2.5%、③6.2%、④47.6%である(OECD Births outside marriage、厚労省『人口動態統計報告』、内務省『日本帝国統計年鑑』)。ここでまず、突出している④の数値に注目しよう。スペインを含め、欧米諸国では1970年代以降、婚外子が増加し続けており、現在は50%を超える国も多い。加えて、中米では法的婚姻関係を結ばないで家族を形成する慣習があり、結果としてOECD加盟国(2020年時点)では婚外子率の最下位に日本、2位に韓国、3位にトルコとなっている。これだけを見ると、韓国と日本は非婚母(婚外子の母)の置かれた状況が「似ている」ように見える。だが、実際に韓国と日本の状況は似ているのか?これを動機の一つとして、私は10年近くの間、韓国と日本の非婚母の比較調査を行ってきた。(1
 次に①~③の数値だが、日本では昔から婚外子は少ないのか?実は、冒頭の数値20.6%は1893(明治26)年の大阪市の統計である。当時、婚外子は父に認知された「庶子」と認知のない「私生子」とに分けられ、庶子は嫡出子とともに「公生子」とされた。20.6%は私生子の割合である。大阪府内で最多は高安郡(現在の八尾市の一部)28.1%。また、府が着目した大阪市内5地域(難波・曽根崎・上福島・天王寺・東平野)では、上福島28.9%が最高だった。婚外子のなかでも私生子の割合が20%を超え、場合によっては30%近いということは、子どもの3~4人に1人以上が婚外子だったことになる。
 死産に占める私生子率はさらに高く、大阪市の平均が32.5%、大阪府の平均が20.1%。最多は、遊郭の多かった曽根崎で62.9%である(死産35人中、私生子は22人。『大阪府統計書明治26年分』)。人工死産のほか、死産と偽った嬰児殺もあったという。この状況が江戸時代から続いていたものかどうかは不明だが、少なくとも明治時代の婚外子の多さと生存の困難さがうかがわれる。

大日本帝国の戸籍法が指し示す差別

 つまり、過去の日本にも差別はあったのだ。差別を作ったのは人々であり、近代以降は政府でもある。明治政府が臣民に強いた戸籍法は、 「公生子」「私生子」という区分によって近代日本の差別的社会構造を露骨に指し示している。だが、上述の1893年は、まだ戸籍制度が定着していない時期である。そもそも出生届を出さないままであったり、子どもが死亡して無届が判明したことも多く、届出が人々に浸透してゆくのは届出遅れや無届に対する罰則を明記した1886年の内務省令第19号と1898年の戸籍法改正による。参考に、1887年に政府が把握した過去3年間の届出漏れ数は18万人強であった。

近年の日本の動向

 第二次世界大戦敗戦後、戸籍法が改正されたあと、人口抑制政策として中絶が条件付きで合法化されたこともあって、婚外子率は減少し続けた。婚外子率が最低になったのは1978年である。民法と戸籍法は「民主化」されたが、家族制度が強い規範的力をもち続け、婚外子を排除したのである。他方、国外では「国連女性の10年」(1976~1985年)が始まっており、上述のように欧米諸国では婚外子率が上昇し始めていた。女の健康の権利運動も盛んになり、1990年代以降、性と生殖の権利が国連を中心に承認されつつある。日本も婚外子率が増加に転じたが、あまりにも微々たる変化で、日本と他国の差は大きく開いてしまった。それでも、20歳代と30歳代の女性たちが主となって、近年は毎年2000人前後の婚外子を生んでいる。ただ、その存在が、今の日本でどれほど可視化されているだろうか。さらには、あたりまえの身近な存在になっているだろうか。

身体とともに生きる

 婚外子をめぐるこの状況がなぜ生じたのかを考えてゆくと、究極的には「国」が何のために存在すべきかという問いに行き当たる。人々を差別するためか、あるいは人々の幸福な生存(ウェルビーイング)を実現するためか。
 幸福な生存の主体は、身体をもつ存在としての人である。この「人」は、自分の人生を想像し、現実化する権利をもっている(エンパワメントの目指すところである)。しかし、人間は生殖を完全には統制しきれない。不妊もあれば、望まなくて妊娠してしまうこともある。夫と離死別した女性が他の男性との子を妊娠することもある。戸籍制度に反対する母親たちもいる。増加する未婚女性とともに様々な立場の女性が非婚母になりうる。生殖にかかわって意図しないできごとが起こったとしても、その身体を大切にして人生の選択をおこない(リプロダクティヴ・ライツである)、幸福な生存を実現できるような「国」を築く必要がある。その方策の一つは、一人一人のエンパワメントと繋がりによる社会変革だと思う。

韓国の未婚母たちの苦闘と支援から学ぶということ

 ある時、日本のインタビュー協力者の一人から「なぜ韓国と比べるの?」と尋ねられた。私自身の原点には、小さい頃の経験として朝鮮/韓国・中国籍の人々や被差別部落の人々への、私の父母の差別発言がある。他方、研究者となってから、欧米の研究者たちが日本を含むアジアの国々・地域を「儒教圏」と一括してとらえる視点に遭遇した。現在では、このような乱暴な視点は批判的に検証されつつあるが、しかし日本が朝鮮を植民地化し、それが戦前日本の戸籍制度の強制を伴なっていたことを考えると、韓国と日本の未来を繋ぐ「何かをせねば」と思う。
 韓国での調査では、厳しい差別の実態や日本との違いを知らされた。調査当時の制度ではあるが、たとえば家から追い出されたり解雇されて生活の手立てを失うのに、政府の生活保護費の支給基準には親の世帯収入を含むこと。中絶が日本より厳しく非合法で産科から拒否されることが多いこと。また、朝鮮戦争の名残りで海外養子縁組が主流を占め、政府がそれを推進していたこと(国外への排斥)など。
 けれども、韓国には同時に、民主化と人権を求め、多様な家族を承認しようとする人々の力があり、家族やリプロダクティヴ・ライツをめぐる制度は、近年大きく変化した。頑なに変化しない日本の家族制度を「変革」するために韓国から学ぶことが多いと、両国を調査して感じる。その重要なものの一つが、支援政策(2と民間の取組み(未婚母のための福祉施設)から生まれた当事者同士の「繋がり」である。そして支援者たちは、それが閉じた繋がり、つまりゲットー化してしまわないよう意識的に取り組んでおり、その姿勢の根底に「エンパワメント」の思想がある。「可哀そうな人々を助ける」という発想と根本的に異なり、当事者たちの力を信頼し尊重することが、すべての支援の出発点である。

語ることとエンパワメント

 私たちの調査(注1参照)では、インタビュー協力者を韓国では福祉施設経由で、日本では伝手で得たため、彼女たちの伝える語りが韓国と日本を代表できると考えることはできない。しかしそれでも、私は彼女たちの語りを、語りつくせないことや語りえない人々の存在を「想像」するための「補助線」にしたい。(3誰かが誰かに語るということは、「ひとりでは持つことのできない、ふたりの人間がそろってこそ生まれる尊厳」、「ひとりがもうひとりに、語ることを約束する、その瞬間にこそ生まれる尊厳」をもたらし、(4その尊厳がエンパワメントの核の一つとなって、社会をよりよく変革することに繋がると信じるからである。
 差別的な家族制度・慣習を持っていた両国であるが、その後の歴史的展開は大きく異なる。今、韓国に学びつつ、日本でも声をあげ、語り、繋がる時だと思う。


1:神原文子・田間泰子編『ひとり親のエンパワメントを支援する-日韓の現状と課題』(白澤社、2023)

2:韓国の未婚母への政策は、少子化対策という側面を持っているが、家父長制的で差別的な家族観の解体を目指してもいる。注(1)の文献を参照していただきたい。

3:宮地尚子『環状島=トラウマの地政学』みすず書房、2007

4:エムケ、カロリン『なぜならそれは言葉にできるから-証言することと正義について』浅井晶子訳、(みすず書房、2019)