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国際人権ひろば No.168(2023年03月発行号)

人として♥人とともに

SDGsと国内人権機関 ~SDGs指標16.a.1:パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の有無~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 国際基準の人権を各国内で保護し伸長するための機関として「国内人権機関(National Human Rights Institution:NHRI)」があります。国連が1993年にウィーンで開催した第2回世界人権会議の場で国内人権機関の重要性が確認され、国連総会で「人権の伸長と保護のための国内人権機関」に関する決議(A/RES/48/134)が採択されました。同決議で示されている国内人権機関が果たすべき役割と満たすべき条件を「パリ原則」と呼びます。

 国内人権機関の重要性が確認された背景には、人権条約を批准しても国内で確実に条約が規定する人権が実現するとは限らないこと、そして各国内における人権保障は第一義的には各国の責任に委ねられていることがあります。

 SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」には、実施手段に関するターゲットとして「16.a 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の根絶に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する」があり、そのための指標として「16.a.1 パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の有無」が挙げられています。平和、公正、そして暴力の根絶に向けた国内人権機関の役割を認識した結果だと言えるでしょう。2022年11月の時点で、国内人権機関を設立している国は、世界120カ国にのぼります。残念ながら、日本には、まだありません。

 国内人権機関が、その役割を効果的に果たすために重要な要素として、パリ原則は以下の諸点を挙げています。

  • 政府からの独立性
  • 法律により規定された明確な任務と権限
  • 人事と財政に関する独立性と自律性
  • 委員の多元性・多様性

 また、各国で設立された国内人権機関の連合体として国内人権機関世界連合(Global Alliance of National Human Rights Institutions: GANHRI)があり、国内人権機関がパリ原則に準拠しているかどうかを判断し、A(完全にパリ原則に準拠)、B(部分的にパリ原則に準拠)にランク付けするなどの活動をおこなってきています。2022年11月時点でAを獲得しているのは88カ国、Bが32カ国でした。

 日本には批准した人権条約を適切に履行するための人権インフラが十分に整備されていないという状況がありますが、国内人権機関の設置もその一つです。実は日本でも国内人権機関の設置が真剣に検討されたことがあり、2009年に発足した民主党政権が、2012年に「人権委員会設置法案」を国会に上程したのですが、同年の衆議院解散により法案は廃案となってしまいました。国連人権理事会の普遍的・定期的審査(UPR)や各条約委員会の政府報告書審査で、繰り返し、設立を勧告されてきましたが、残念ながら設置に向けた機運は高まっていません。

 国内人権機関が担うべき主な任務としては以下の3点があります。

  1. 人権侵害に関する申立の調査と救済方法の提示および実施
  2. 国際人権条約の実施に関する政府への助言と支援
  3. 人権教育・啓発の推進

 このなかで最も重要なのは人権侵害の申立に対し、適切な調査を実施し、仲裁や調停を始めとする救済方法を提示し実施することです。具体的に何ができるの?と感じられる方もいるかもしれません。日弁連が作成した冊子「あなたの人権、侵害されたらどうしますか。」では、「読字障害者への退職勧奨」「学校や職場での性的マイノリティへの無理解や差別」「拘置所に収容されている女性のプライバシー侵害」等、具体的な事例を挙げて、国内人権機関が果たせる役割を説明しています。裁判による人権回復には長い時間と費用がかかることを踏まえ、できるだけ迅速かつ簡便に人権侵害に対応し救済を図ることが国内人権機関の存在意義であり使命と言えるでしょう。そうした救済の経験が蓄積されていれば、出入国在留管理庁の収容施設で収容者が命を落とすような事例も防げるのではないでしょうか。

 SDGsの指標に国内人権機関の有無が含まれていることにより、特に市民社会組織やNGOの間で国内人権機関への関心が高まっています。2012年の法案については、設置場所を「法務省の外局」とするなど、最も重要な「政府からの独立性」について懸念が残る点もありました。パリ原則に完全に準拠し求められる役割を果たすことができる権能を備えた国内人権機関が設立され、国際基準の人権が日本で実現することが望まれます。


[参考]