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国際人権ひろば No.165(2022年09月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標4:質の高い教育をみんなに~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 新型コロナウイルス感染症による様々な制約により、少しずつ前進していた目標4の達成が一気に後退しています。タブレット等を活用したオンライン授業は、学校の環境になじめない生徒に教育へのアクセスを取り戻す機会を提供したという効果もありましたが、学校と教員、そして家庭と生徒は新たな状況への対応に翻弄されました。プリント配布に頼らざるを得なかった学校も多いようです。パンデミック期間の学習の影響が、今後、どのような形で現れるか、特に外国ルーツや生活困窮世帯の子どもへの影響が懸念されます。国連の「持続可能な開発目標報告2022」でも、既に存在した学習機会の不平等がパンデミックでさらに拡大したことが報告されています。
 目標4には、以下の7つのターゲットがあります。

  1. すべての子どもが男女の区別なく、適切で効果的な学習効果をもたらす、無償で公正で質の高い初等・中等教育を修了する。
  2. すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスする。
  3. 全ての人が男女の区別なく、質の高い技術教育・職業教育及び高等教育への平等なアクセスを得る。
  4. 技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
  5. 教育におけるジェンダー格差をなくし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育と職業訓練に平等にアクセスする。
  6. 男女の区別なく、全ての若者と大多数の成人が、読み書きと基本的計算能力に平等にアクセスする。
  7. 持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和及び非暴力の文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化の多様性と持続可能な開発への貢献を理解する教育を通して、全ての学習者が持続可能な開発を促進するために必要な知識と技能を習得する。

 性を始めとする属性による不平等なく普遍的に教育へのアクセスを保証することと並んで、7番目のターゲットは、とりわけ重要でしょう。持続可能な開発に貢献する教育の重要性が述べられていて、それは変革を可能にする教育でもあります。「人権」「ジェンダー平等」「非暴力の文化」「シチズンシップ」は、日本の教育の重要課題でもあります。
 「持続可能な開発目標報告2022」は、目標4について、以下のような課題を指摘しています。

  1. パンデミックによる休校措置が、少女、障害児、農村部や民族的マイノリティの子どもに、より深刻な影響を与えている。
  2. 休校期間が長くなるほど学校に戻らない子どもの割合が増える。ユネスコ(2020年)によると、就学前から大学に至る2,400万人の生徒・学生が学校に戻らないのではないかと懸念されている。背景には、児童労働、ケア責任の負担、幼児婚の増加が挙げられている。

日本に関する課題については、2021年の自発的国家レビューの際にSDGs市民社会ネットワークがまとめた「SDGsスポットライトレポート2021」が参考になります。

  1. 外国籍児童・生徒のうち13人に一人が小学校・中学校に通っていない可能性がある。
  2. 2019年の学校でのいじめは61万件、小中学校・高校における不登校の子どもは23.1万人に上る。教員を含む大人による子どもへの暴力(虐待・体罰)も存在する。
  3. 学校運営への子どもの参加は制度化されておらず、教育政策に子どもが意見を言える自治体は限られている。
  4. 「学校基本調査(2018年度)」によると、4年制大学への進学率は男子56.31%、女子50.14%である。専攻分野における男女の偏りも大きい。
  5. 62%の少女が普段の生活で性的な嫌がらせや性差別を経験している。
  6. ユネスコが推進する包括的性教育やジェンダーに基づく偏見や固定観念に気づくための研修が必要である。
  7. 障害者権利条約の趣旨に則ったインクルーシブ教育の実践を推進する必要がある。
  8. 基礎教育への2018年の援助実績額は1億9000万ドルで、ODA総額に占める割合は1.4%であり、DAC加盟国の平均である3.4%を大きく下回っている。

個人がエンパワメントを実現するための要因を一つ挙げるとしたら教育になることに異論がある人は少ないでしょう。まず、パンデミックが教育機会の不平等を悪化させないための対応が喫緊の課題です。また貧富の格差を拡げることなく目標4を達成するためには、7番目のターゲットに示されているような教育内容が重要です。人権意識を育み、ジェンダー平等や非暴力の文化を実現するために日本の教育も変革が必要です。


[参考]

The Sustainable Development Goals Report 2022
https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/

SDGsスポットライトレポート2021
https://d7b557ca-e496-4292-be6da6bfb1e38152.usrfiles.com/ugd/d7b557_d047683140ed40d59dd1b95c71e8def6.pdf