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国際人権ひろば No.163(2022年05月発行号)

人として♥人とともに

武力紛争は人権にとって最大かつ最悪の脅威 ~「武力」でも「戦争」でもなく「対話」と「交渉」で問題の解決を~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始してから1ヵ月半。この原稿を書いている4月上旬時点で、停戦への見通しは立っていません。3月30日に国連人権理事会第49会期でおこなったスピーチで、バチェレ人権高等弁務官はウクライナにおける人権と人道の危機を訴えました。そして、ウクライナに駐在する「国連ウクライナ人権監視団」が以下を確認したと述べました(数字はいずれも3月30日時点)。

  • ロシア軍が少なくとも24回、多数の住民が居住する地区にクラスター爆弾を投下した。ウクライナ軍がクラスター爆弾を使用したとの情報もあり調査中である。
  • 77の医療機関が被害を受けた。50の病院、7つの精神神経疾患施設と他の医療関連施設20カ所。実際の被害数はこれを上回ることが予想される。
  • 無差別な攻撃は国際人道法で禁止されており、戦争犯罪に相当する。相当数の民間人の被害は、戦闘員と民間人を区別するという国際人道法の根本的な原則が守られていないことを示唆する。
  • 障害者と高齢者の状況は極めて深刻で、居住型介護施設では食糧、暖房、電気、水、医療の不足が拡がっている。
  • マリウポリでは住民が、ロシアと関係が深い武装勢力の支配下にある地域またはロシア国内に強制移送されている。
  • 紛争に関連するレイプを含む性的暴力の報告を受けており、事実確認をおこなっている。
  • ロシア軍、ウクライナ軍双方が捕虜を尋問する様子を撮影した大量のビデオ映像が、自由に利用・修正できるサイトに広く流出していることについて、捕虜の保護の観点から深く懸念している。
  • 表現の自由が脅かされており、侵攻開始後、7名のジャーナリストとメディア関係者が殺害された。22名のジャーナリストと市民活動家が恣意的拘禁あるいは強制失踪の対象となったとの報告を受けている。
  • 侵攻開始後、国外に逃れた女性と子どもの多くが性的搾取、労働搾取を含む人身売買の危険に直面している。

 この後、4月に入り、ブチャや他の都市で、言葉を失う残虐行為がおこなわれたことが次々に明らかになっています。
 今回の危機では、国連を中心とする国際的な安全保障体制の脆弱性が改めて白日の下にさらされています。国連憲章は第2条3項で「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」と規定します。そのための主要機関である安全保障理事会は常任理事国5カ国に強大な権力を付与していますが、それらの超大国は核兵器を含む武器・兵器の削減に十分に取り組んできていません。核兵器禁止条約には常任理事国5カ国は参加していません。残念ながら日本も。SDGsには目標16「平和と公正をすべての人に」がありますが、武力紛争根絶の観点は弱く、兵器、特に核兵器廃絶については全く触れていません。今回の危機を契機として、武力による紛争解決根絶への気運が生まれることを願います。暴力による問題解決そのものを問題としない限り、今回のような危機は終わらないのではないかとも感じさせられます。軍事産業も深く関わっている問題です。
 日本政府はウクライナからの「避難民」受け入れを表明し、首相特使としてポーランドを訪問した林外相が4月5日に20人の「避難民」と一緒に帰国しました。「難民」の定義にあてはまる人たちをあえて「避難民」と表現する背景には、長年にわたって続いてきた難民受け入れに対する日本政府の消極的な姿勢があります。日本は難民条約の締約国であり、本来なら「難民」として受け入れるべき人たちでしょう。今回の危機を通じ、難民問題への意識が高まり、日本政府の難民対応が変わることを願います。アフガニスタンで、ミャンマーで、そして世界各地で、難民問題は、これまでもずっと深刻な問題でした。
 テレビ報道で接したなかで、最も心を打たれたのはウクライナの保育園の保育士さんの次のような言葉です。

 「勝つか負けるかなんて、どっちでもいい。目の前の子どもたちが泣かずに笑顔で過ごせるなら。」

 この言葉が武力紛争の無意味さを伝える言葉として世界に、何より武力で問題を解決することを躊躇しない政治のリーダーに届き、一日も早く今回の軍事侵攻が終結することを願います。武力紛争は人権にとって最大かつ最悪の脅威です。



参考:https://www.ohchr.org/en/statements/2022/03/update-human-rights-council-ukraine