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国際人権ひろば No.156(2021年03月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標3:すべての人に健康と福祉を~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2020年3月11日にWHOが新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的大流行)と宣言してから1年になろうとしています。SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」が、こんなに切実に感じられた1年はなかったのではないでしょうか。ワクチン接種が始まっていますが、いくつかの場所で変異種も見つかっており、今後、どのようにパンデミックが収束するか、全く見通せません。

 ワクチン接種が始まるなかで懸念されているのが、「ワクチン・ナショナリズム」と呼ばれる動きです。ワクチン・ナショナリズムは、豊かな国やワクチン開発を支援した国が、自国民に優先的にワクチンを確保しようとしたり、あるいはワクチン供給を自国の外交戦略に利用しようとする動きです。こうした動きに国連は繰り返し警告を発し、「No one is safe until everyone is safe.(すべての人が安全になるまでは誰も安全ではない)」というメッセージを発信しています。

 開発されたワクチンは、経済状況にかかわらず、すべての国に公平に行き渡ることが重要です。HIV/エイズへの対応の過程では、抗HIV薬の開発により、「先進国」ではウイルスに感染してもエイズを発症することなくウイルスとの共存が可能になっていった時期にも、多くの「途上国」では、高額な特許料が上乗せされた抗HIV薬の恩恵にあずかることができない状態が続いていました。1990年代後半にマラウィを訪れた際に、ある地域では妊婦の30%がHIV陽性者と聞かされ言葉を失ったことがあります。適切な対応をしなければ、子どもはウイルスに感染して誕生する可能性が高くなります。

 こうした問題に対応するためには、ワクチン開発企業の知的財産権を保護しつつ制限し、ワクチンへのアクセスを保障する「医薬品特許プール」の導入等、ワクチンを全世界に供給するための国際協力の枠組をつくることが重要です。この観点からは、アメリカの新政権がWHOからの脱退を撤回し、また、ワクチンを共同購入するための国際的な枠組であるCOVAXへの参加を表明したことは歓迎すべきニュースです。各国に届けられたワクチンが、各国内において、在留資格や法的地位等にかかわらず、すべての人に届くことが重要であることも強調したい点です。

 目標3には、以下の9つの具体的なターゲットがあります。

  1. 世界の妊産婦死亡率を70未満(出産10万人あたり)に削減
  2. 新生児死亡率を12以下、5歳未満児死亡率を25以下(両方とも出生1000件あたり)に削減し、新生児と5歳未満児の予防可能な死亡を根絶
  3. エイズ、結核、マラリアおよび他の伝染病を根絶し、肝炎、水系感染症や他の感染症に対応
  4. 非感染症疾患による若年死亡率を3分の1減少
  5. 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む物質乱用の防止と治療の強化
  6. 世界の道路交通事故による死傷者を半減
  7. 性と生殖に関する保健サービスを全ての人が利用可能にする
  8. 質の高い基礎的な保健サービスや安全で効果的で質が高い医薬品とワクチンへのアクセスを含むユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成
  9. 有害化学物質、大気、水質、土壌汚染による死亡と疾病件数の大幅な減少

 パンデミックが、目標3の達成に向けて、少しずつ積み上げてきた成果を帳消しにし、逆戻りさせてしまうのではないかということが懸念されています。特に懸念されているのは5歳未満児死亡率への影響です。国連の「持続可能な開発目標報告2020」によれば、サハラ以南アフリカでは、マラリア予防プログラムが停止されているため、マラリアによる死亡者が2倍に増えると予測されています。また、性と生殖に関する健康のためのサービスが中断されたり限定的になるために、望まない妊娠が増えることが懸念されています。子どもへの予防接種が著しく滞っているため、今後、子どもの健康が深刻な影響を受けるのではないかとの懸念もあります。

 目標3は、私たちの命にダイレクトに関わる健康に対する権利の保障であり、人権目標そのものです。そして、グローバルにつながった世界におけるパンデミックの収束には、「誰一人取り残さない」というSDGsの大原則が不可欠です。日本で世界で、「すべての人が安全になるまでは誰も安全ではない」という理解に立ってパンデミックから回復することが大切です。