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国際人権ひろば No.156(2021年03月発行号)

アジア・太平洋の窓

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関するアジア・太平洋の地域コミュニティの状況と提言 -インドネシア、マレーシア、ミャンマー、パキスタンの調査より

リスク・コミュニケーション およびコミュニティ・エンゲージメント・ワーキング・グループ

 地域コミュニティはCOVID-19の拡大を阻止する鍵である。人々がどのようにコミュニケーションをとるのか、何を知っているのかなど、人々のCOVID-19に関する理解の必要性やギャップを理解して初めて、人道支援組織は地域コミュニティが主導するウィルス感染拡大緩和に向けた対応を実現することができる。

 COVID-19の各国の認識は?

 複数の国際機関が協力して結成した「リスク・コミュニケーションおよびコミュニティ・エンゲージメントワーキング・グループ」の一員として、国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)、各国の赤十字赤新月社の協会、国連人道問題調整事務所(OCHA)、ユニセフ、世界保健機関(WHO)は、2020年5月29日から7月20日まで、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、パキスタンにおいて、2週間の収集期間を設けてCOVID-19に関する認識調査をした。

 4カ国で合計4,993人(男性52.4%、女性47.28%、無回答0.67%)が参加した。参加者のうち一番多い年代は18才から29才で、次に多いのが30才から39才であった。

 参加者の教育水準は4カ国ではそれぞれ異なり、パキスタンが正規教育を受けていない(7.9%)、または初等教育しか受けていない(24.4%)割合が一番大きい。他方、インドネシアでは、学校に行かなかった、または小学校しか行かなかったと回答したのは1.1%のみであり、82.2%は中等教育を修了していると回答した。この大きな格差はインドネシアでのサンプルの規模が他の国よりもかなり小さく、オンラインでしか調査できなかったことによる可能性が高い。

 特定の集団に対するスティグマ(烙印)

 調査の設問の一つは、「ある特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると思いますか」というスティグマに関するものだった。

 4カ国とも回答者の約3人に1人は、特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると完全に信じていた(特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると思うかどうかという問いに対して「そう思う」と回答したのはインドネシア35%、マレーシア50%、ミャンマー28%、パキスタン17%)。特定の集団に「責任がある」と考えた人と特定の集団に「やや責任がある」と考えた人を合わせると、その数は2人に1人に増える(インドネシア55%、マレーシア69%、ミャンマー32%、およびパキスタン30%)。特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任がある、という考えはマレーシアで最も広がっており(回答者の2人に1人)、パキスタンが最も少ない(回答者の5人に1人)。

 ミャンマーにおいて、最も責任があると考えられた集団は、中国から来た人々と外国からの帰国者であった。このことはおそらくウィルスが、ミャンマーとの行き来が容易で長い国境を持つ中国でもともと発生したことと、OCHAによると、この調査が行われた当時、同国では「国内感染は限定的であり、大多数の感染事例は帰国者から確認されている」ことによると考えられる。ミャンマーにおいて、50才以上の教育を受けていない男性回答者が、特定の集団がウィルス感染拡大に責任があるとより考える傾向があった。

 マレーシアでは回答者の69%が、特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると考え、そのうち50歳以上の回答者は50歳未満よりも9%、中等教育以下しか受けていない回答者は、高等教育を受けている回答者よりも4%、特定の集団に責任があると考える人が多い。さらに、同国の都市部の回答者は農村部の人よりも3%多くそう考える。

 マレーシアにおいて、責任があると回答者があげた集団のなかでは、「外国人」が多かった。特に中国人、帰国者、外国人観光客、「不法在留外国人」、移住労働者、そして外国人一般があげられた。これに小差で、COVID-19陽性者と政府の規制に従わない人が続く。これはマレーシアが感染拡大に際して、外国人観光客および移住者(特に非正規移住者)に対してとった、入国を制限する規制強化および収容・送還の拡大を含む行動と一致しており、パンデミックが始まって以降、一般的な外国人に関する肯定的な世論が低下していることを裏付けている。

 インドネシアでは、回答者の半分強(55%)が、特定の集団がCOVID-19感染を広めていると信じている。多数の人が、マスクをつけない、不要な外出をする、感染のリスクが高い地域と行き来するなど政府の規制に従うことを拒否する人のせいで感染が拡大すると信じている。また、感染拡大は政府が感染の規模を予想せず、ロックダウンや厳格な規制を有効に行わなかったためであると考える人々が少数ではあるが存在することは注目すべきである。パキスタンでは、ほとんどの回答者は、渡航や隔離に関する不十分な規制および政府がイランとの国境に設置した隔離施設がCOVID-19の感染拡大の原因と考えている。次に、パキスタンに帰国した自国民や外国人、最後に中国から来た人がCOVID-19の感染拡大の責任があるとみなされた。

 4カ国すべてにおいて、教育水準が、特定の集団がCOVID-19について責任があると考えるかどうかに対してわずかながら影響した。高等教育を受けた人は、特定の集団に責任があると考えることがわずかながら少なかった。

 情報の入手先と地域コミュニティへの働きかけ

 4カ国全てにおいてCOVID-19に関する情報のニーズと地域コミュニティへの働きかけには共通の傾向がある。全体的に、回答者は主に厚生省・保健省、SNSやテレビなどを通してCOVID-19の情報を得ると述べている。例えば、ミャンマーの若い女性は「COVID-19の感染拡大のなか、(家のテレビは)MRTV(政府系チャンネル)を常につけている。家族は一日中テレビの周りに集まっている」と述べた。

 「いつも、MOHS(保健スポーツ省)のロゴはついているか、と調べる」とミャンマーの若い男性は述べた。「ロゴがある時のみ、その指示を信じる。他のものは全部製品を宣伝しているだけだ。」

 このことは、ミャンマーにおいてCOVID-19に関する情報伝達は、FacebookやWhatsAppのような人気のSNSと同時に、インターネットにアクセスできる人に限定されないように、政府省庁のウェブサイトやテレビ、ラジオ局や印刷物を通して行われなければならないことを示唆する。

 インドネシアでは、回答者は主にウェブサイトやオンラインのニュース、SNSやグーグルなどの検索エンジンを通して情報を得ていると説明した。しかし、この結果は、インドネシアのデータが全てオンライン調査を通して収集されたという事実に関係している可能性が高い。回答者は常時インターネットにアクセスして「デジタル慣れ」している可能性が高かった。

 使用される主要な情報手段はいくつかあるが、4カ国を通じてCOVID-19に関して最も信頼される情報源は、テレビ(61.13%)であり、マレーシアとミャンマーでは、ラジオと新聞紙がこれに続く。この2カ国と違い、パキスタンでは回答者はテレビに次いで、検索エンジン、ウェブサイト、またはオンライン・ニュースをより信頼すると述べた。一方、インドネシアの回答者は主にWHO、コミュニティ・ヘルス・ワーカー、ユニセフ、保健省および赤十字のボランティアをテレビよりも信頼すると述べた。

 興味深いことに、インドネシアおよびマレーシアではSNS、ウェブサイト、オンライン・ニュースや検索エンジンがよく使われるが、WHO、ラジオ、コミュニティ・ヘルス・ワーカー、ユニセフや赤十字のボランティアといった使われることが少ない情報源ほど信頼されていない。つまり、有効な情報の伝達のためには、例えば、テレビまたはSNSを通して保健省、またはWHOの代表が伝えるというように、高い信頼を得ている情報源およびよく使われる手段を通して人々を引き込む必要がある。

 4カ国を通して回答者は、予防措置、症状およびウィルスの感染に関する情報を入手したと述べた。こうした情報は地域コミュニティの男性と女性にほぼ平等に発信されている。

 提言

  • スティグマは4カ国全てにおいて主要な課題である。パキスタン、インドネシア、マレーシア、ミャンマーの全回答者の半分近くが、COVID-19の感染拡大が特定の集団の責任であると信じていた。誰の責任であるかということについては国によって異なっていた。
  • 調査結果は、地域コミュニティの結束を培い、特に移住者などの脆弱な集団に対する差別に取り組むためにはスティグマに対する取り組みが一層必要であることを示している。個々の人がCOVID-19の感染拡大を誰の責任とみなしているかについて耳を傾け、分析し続けることが、人々が自分たちの言い分が聞かれていると感じ、ウィルス感染を広げている責任があるとみなされる集団に関する誤解を解く鍵である。
  • COVID-19はミャンマー、インドネシアとマレーシアにおいて普遍的に認識されている。しかしパキスタンでは回答者の10%近くがCOVID-19について知らなかった
  • 調査結果は、パキスタンにおいてより多くのCOVID-19の情報を複数のチャンネルで、伝統的メディアや対面のコミュニケーションに頼っている人に届くことに重点を置いて提供する必要があることを示している。
  • 4カ国を通して、手洗い、マスク着用、外出の自粛が最大のCOVID-19の予防措置である。
  • 全体的に、調査参加者はCOVID-19の予防措置については明白理解している。「メッセージ疲れ」をもたらしかねないような同じメッセージの継続発信よりも、発信者はどのような疑問が地域の文脈において残っているのかを探り、それらに応えるようにすべきである。
  • 調査対象の地域コミュニティで最も求められていた情報は、治療の選択肢や家族が感染した場合にどうすればいいのかということであった。
  • 調査結果は、COVID-19に対する治療方法やワクチンを開発するために何が行われているのかについて人々は関心があることを示している。さらに、家族や感染症に脆弱な他の人の安全をどうやって保つのかに関する実践的な助言を情報の内容に含むべきであることを示している。
  • 回答者の過半数はCOVID-19に関連した心配や恐怖を感じると述べた。主な心配は身近な人を失う、または病気になる、である。回答者はまた医療制度の負担が大きくなりすぎることについてもよく心配すると述べた。このことは、個々人が(例えば経済的などの)他の課題に加え、かなりの感情的および精神的ストレスに直面していることを示しており、心理社会的なニーズを認め、それに対応することが重要であることを強調する。
  • メンタル・ヘルスと心理社会的な支援をアクセス可能で地域に適応したものとすることが鍵となる。働きかけは、どのようにして家族の安全を保ち、ケアをするかに関し、行動に移すことができる助言に焦点をあてるべきである。

(岡田 仁子 訳)

※ 本稿は2020年9月17日、リスク・コミュニケーションおよびコミュニティ・エンゲージメント・ワーキング・グループの報告“COVID-19: Community Insights from the Asia Pacific Region - Indonesia, Malaysia, Myanmar, and Pakistan”(September 2020)の抜粋で、ヒューライツ大阪英語ニュースレター“FOCUS”vol.101に掲載した記事の翻訳である。全文(英語)はReliefweb(下記URL)を参照。
https://reliefweb.int/report/indonesia/covid-19-community-insights-asia-pacific-region-indonesia-malaysia-myanmar-and


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