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国際人権ひろば No.151(2020年05月発行号)

人として♥人とともに

パンデミックへの対応に最大限の人権の保障を

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2020年3月11日、世界保健機関(WHO)は、世界に感染が拡がる新型コロナウィルス感染症(COVID-19)をパンデミック(世界的大流行)と宣言しました。この原稿を書いている2020年4月上旬現在、私たちは、つい2ヵ月ほど前には想像もできなかった社会と世界を前にしています。国連のグテーレス事務総長は、世界を覆う危機を、「第2次世界大戦以来、最大の試練」と表現しました。ニュース・イン・ブリーフで既にお届けしたとおり、バチェレ国連人権高等弁務官は「コロナウィルス対策には人権を最前線かつ中心に据えるべき」との声明を発表しています(注

 どうしてパンデミック対応に人権の視点が必要なのでしょうか。それは、都市封鎖(ロックダウン)等、感染拡大の封じ込めに用いられる対応が、既に周縁化され脆弱な立場に置かれている人たちに、さらに甚大で深刻な影響を及ぼすからです。それは、孤立にとどまらず、排除や暴力という形で現れる可能性があります。生活困窮者は、様々な意味で、外出制限や社会的距離政策に対応するための条件を欠いています。社会を覆う不安は、特定の人たちへの差別意識や偏見に満ちたデマを誘発する危険性があります。

 バチェレ人権高等弁務官は、声明で、低所得者、アクセスの悪い農村部に暮らす人、持病を抱えている人、障害者、独居老人、施設に入所している高齢者等の医療と経済状況に特に注意を向けるべきだとしています。さらに懸念されるのは、難民、国内避難民、移民、ホームレスの人たちの状況です。安全な水で「手洗い」ができる環境にない人が多いのは容易に想像がつきます。身分証明書を持っていない場合、また在留許可の種類によっては、医療や経済支援から排除される可能性が高まります。誰もが必要な医療を受けられる体制が不可欠ですし、患者の対応にあたる医療従事者とその家族が偏見や差別にさらされないことが重要です。

 学校の休校措置は、子どもたちの学ぶ権利に十分に配慮する必要がありますが、休校措置のために保護者が仕事を休まざるを得ない場合、働く親、特に女性は過度で深刻な負担を強いられることになります。外出制限やテレワークが長期間にわたり続く状況は、家族間のストレスを高め、DV(家庭内暴力)の増加と悪化に結びつきます。非正規労働者は、何の保障もなく雇用が打ち切られる恐れに直面しています。非正規労働者の多くは女性であり、そうした女性たちが性的搾取の危険にさらされることも懸念されます。日本では、技能実習生として国内の労働力不足を補ってくれていた人たちが解雇された事例が既に報告されています。

 「緊急事態」という名の下で都市封鎖が徹底的におこなわれることによって、市民の自由な活動や人権が制限されることも懸念されます。インドのニューデリーでは、市民権改正法に抗議し、シャヒーンバーグという地区で平和的な抗議行動をしていたムスリム女性を中心とする女性たちの拠点が、都市封鎖によって跡形もなく撤去されてしまいました。EUに加盟する13カ国は、パンデミックを理由に政府が権限を強化する方向を懸念し、民主主義や人権が脅威にさらされる危険性について共同で声明を発表しています。

 命を救うためには、多様な人たちが暮らしていることを前提に、その地域に暮らす人が理解できる言語と方法で、正確かつ必要な情報を、わかりやすく提供することが大切です。その際には、外国籍で障害がある場合等、複合的かつ交差的な形で周縁化される人たちへの配慮が欠かせません。

 2020年は、SDGsに向けた「国連行動の10年」の最初の年です。この危機を克服し、後から振り返ったときに、あの危機はチャンスでもあったんだと思えるように、すべての人への医療サービス、共生と連帯、国際協調はもちろんのこと、女性を始めとする一人ひとりの人権と平等、包摂的な社会保障、公正な経済システムと税制、生産と消費のあり方、環境との共生等、持続可能な社会への変革を起こせるかどうかが、これまでになく根源的な形で試されています。その根本には人権を据えることが不可欠です。

 

注:
ミチェル・バチェレ人権高等弁務官、「コロナウィルス対策には人権を最前線かつ中心に据えるべき」
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2020/03/36.html
 


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