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国際人権ひろば No.150(2020年03月発行号)

アジア・太平洋の窓

台湾における難民法制定に向けた取り組み

石川 えり(いしかわ えり)
認定NPO法人 難民支援協会代表理事

人権条約実施の「審査」を受ける、国連非加盟の台湾

 現在台湾では、難民法制定へ向けた議論が行われている。1975年以降にインドシナ難民(合計1万1千人以上)や、中国本土、タイ・ミャンマー国境からの難民など、これまでも受け入れの実績はあるが、個々に短期もしくは中期的な在留資格が与えられることで対応されており、難民として受け入れる制度は存在しなかった。また、ノン・ルフールマン原則(難民を生命または自由が危機にさらされるおそれのある国に送還してはならない)は国内法に確保されていなかった。

 台湾は、大陸との関係上、難民条約にも他の国連等で制定される国際人権条約にも加入ができない。しかし、人権条約に関しては、各条文を国内法制化し、実施を確保してきた。各人権条約(監視機関)が締約国へ対して課す報告書審査についても、国際人権法の専門家を審査員として招聘し、オブザーバーとしてNGOを招聘した上で審査を行ってきた。難民の保護については2013年3月の国際人権規約に基づく、専門家からの総括所見を受け、難民法の施行に着手した。具体的には自由権規約7条の拷問の禁止に関連して、国際基準に沿ったノン・ルフールマン原則を含む難民法の迅速な成立が勧告されていた(1

台湾の難民受け入れと法整備

 この勧告を受け、行政院(政府)は関連する難民条約や人権条約の検討、アメリカ、イギリス、カナダ、日本、韓国での実施に関する調査を経て、難民法を起草、2016年に立法院(国会)へ法案が提出され、内務委員会を通追し、2020年1月末現在本会議の第二読会と第三読会による承認を待っている状況にある。

 法律は17条で構成されているが、以下、主な内容を紹介する。

 まず、本法律の目的として、難民の地位、権利、利益を保護し、人権の国際協調を推進するためと位置付け(第1条)、またこの法案に関連するすべての責任を内務省が負うとする(第2条)。難民の定義については、難民条約上の難民のみならず、無国籍者、武力紛争、甚大な自然災害により国外への移動を余儀なくされた人についても難民の地位を申請することができるとしている(第3条)。

 難民認定申請については、文書で提出するが台湾国内のみならず、台湾国外の在外公館等、外務省が管轄している機関でも提出できるとした(第4条)。国外での難民申請書の受理について規定することは珍しく、積極的な難民保護の姿勢のあらわれとも考えられる。難民申請の受理期間については入国後(あるいは難民となる事情を知った後)6か月以降の申請は審査されない(第4条)と書かれており、難民申請期間のみを理由とした申請の却下は難民条約との整合性が問われる可能性がある。

 事前審査を通過した申請については、内務省が招聘する審査会にて原則半年以内に審査され、結果が通知される。審査会は関係政府機関、専門家、研究者等から構成される(第5条)。

 難民申請中は台湾への滞在が許可され、台湾の関連する規則や法律に従う義務がある一方、弁護を受ける権利、健康や基本的な水準の生活を維持する権利を有する(第7条)。内務省は難民申請者へ滞在場所を指定するか、一時的なシェルターを提供することもできる(第8条)。

 大規模な難民申請が行われる状況を検討するために、内務省は国連難民高等弁務官事務所へ報告する一方で、外務省や関係する他省庁、市民社会の代表からなる作業部会を設立することができる(第9条)。

 個々の難民認定に加え、難民法制定後に内務省が別途受入れ枠を定めることができるとしている(第11条)。これは難民の第三国定住等による受入れと理解することができる。

 難民認定された人は、外国人の在留許可、そして難民旅行証明書、永住許可や帰化を申請することもできる(第13条)。

難民法の先進性と課題

 詳細な規定等は法律成立後に定められていくことになっているが、難民の幅広い定義、台湾国外でも申請可能であること、内務省ではなく専門機関により認定されること、申請中の在留と生活保障、認定された後の帰化まで含めた保障、そしてさらなる受入れ可能性を見越した受入れ枠の設定や大規模難民への対応など包括的な難民法となっており、日本が見習うべき点も非常に多い。

 難民法に詳しい台湾彰化師範大学の魏培軒助教授は、現在の進捗について、「中国本土から逃れてきた難民の国籍の取り扱いをめぐり議論が進まず、立法院での採択に至っていない」と語る。難民の定義など難民条約にとらわれずより広範囲な人たちを保護していこうという意欲にあふれる台湾難民法が早期に成立し、世界の難民保護の潮流に貢献していくことを願ってやまない。

 加えて、難民法にはまだ至らないが、台湾では香港の学生受入れを発表しており(2、難民法成立を待たずに現状の制度で保護を提供していく取り組みが模索されている。

台湾で開催された国際人権NGOの世界協議会

 2019年10月に国際人権NGOの国際人権連盟(FIDR)の世界協議会(コングレス)が台湾で開催され、筆者も参加の機会を得た。FIDRは112か国で人権擁護に取り組む184団体が参加する国際NGOであり、アジアでは初の会合となった。コングレスにおいては、死刑廃止、同性婚の実現、移民・難民、ジェンダー、環境と人権といった多様な人権課題が2日間にわたり話し合われた。内戦が続くシリア・イエメンで人権保護に取り組む弁護士、また、国連の人権特別報告者、開発援助機関、研究者など多様な関係者が参加した。

 難民・移民に関連する部会では、「彼らについての語りを変えよう」をテーマに話し合いがなされ、カザフスタン、モロッコ、ベルギー、スーダン、ギリシャで難民・移民の人権擁護に取り組む実務家が参加した。多くの国で難民の移動を「非正規な人の移動」として管理強化し、取り締まる方策が強まっていることを懸念する状況が共有された。例えば、スーダンの参加者はヨーロッパ各国がスーダンと進めているハルトゥーム・プロセスを紹介。同プロセスはアフリカの角と呼ばれる地域から、ヨーロッパへの人の移動を管理するためにヨーロッパとアフリカ政府が政治的に協力するプラットフォームと説明されている。しかし、実質的にはスーダンにおいてヨーロッパへ向かう移民/難民の移動を止めるような働きかけがなされていることを紹介し、プロセスに市民社会の関わる余地がなく透明性に欠けることを訴えた。

 前向きな動きとしてベルギーのNGOが紹介したのが、難民申請者や移民に家を提供する民間の取り組みである。行き場なく午後8時以降も公園に滞在する非正規滞在者が警察に拘禁されるおそれがあるため、自宅で宿を提供することを始めた市民のボランティアが広がり、4万人が参加する動きになっていることを報告した。

 会議全体を通じても、人権活動家への抑圧や攻撃、また、人権基準を引き下げようとする先進国の動向など厳しい状況があることが紹介された。その対応策として、一人ひとりのストーリーを伝えることにより共感を呼び起こすアプローチの重要性が語られており、LGBT、難民・移民の取り組みにおいても有効であることが各国のNGOによって紹介されることとなった。

 開会式には蔡英文総統が参加して開会を宣言、また閉会式では受刑者による太鼓のパフォーマンス披露もなされた。NGOの台湾人権協会(TAHR)が、現地事務局として会合を取り仕切った。

 市民活動の強化などに取り組む国際的な市民団体であるCIVICUSによる2019年市民活動空間自由度指標(3によると、台湾はアジアにおいて唯一、最も高い「開かれている(Open)」という評価を得ている。日本は韓国とともに次点の「狭まっている(Narrowed)」という評価にとどまっており、同性婚の承認や、リベラルな難民法案などからも台湾には自由と民主主義、そして人権尊重の姿勢があることが分かる。

 日本からも在日フランス大使館とアンスティテュ・フランセ日本(フランス文化の交流を図る機関)からの助成により筆者を含めてジェンダー、LGBTの権利保護、人権保護に取り組む関係者などが派遣され、世界中の人権NGO関係者と意見交換をする機会を得た。感謝して記したい。

 

注1:Review of the Initial Reports of the Government of Taiwan on the Implementation of the International Human Rights Covenants Concluding Observations  and Recommendations Adopted by the International Group of Independent Experts, Taipei, 1 2013

注2:朝日新聞「台湾の大学、香港学生の聴講受け入れへ 希望なら転学も」(2019年11月16日)
https://www.asahi.com/articles/ASMCJ4TMQMCJUHBI01D.html

注3:https://www.civicus.org/index.php/state-of-civil-society-report-2019