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国際人権ひろば No.147(2019年09月発行号)

特集① 市民社会からG20への提言

銀行のリスク回避と市民社会-原因・影響・解決への道

リア バン ブロエクホーベン(Lia van Broekhoven)
人間の安全保障コレクティブ代表
金融活動作業部会(FATF)に関するグローバルNPO連合共同議長
Executive Director Human Security Collective /
Co-chair of the Global NPO Coalition on the FATF

 銀行のリスク回避(derisking)とは、銀行や他の金融機関が「高リスク」とみなした顧客との関係を絶ち、口座を閉鎖することである。コルレス銀行(海外送金にあたり通貨の中継をする銀行)などと並び、非営利団体(NPO)もリスク回避の影響を受けている。そのため、世界各地のNPOは業務の遂行が困難になり、国際的な支援・救援や政治的・社会的変革のための活動を継続することが困難になっている。どうしてこのようなことが起こるのだろう。NPOとの銀行業務はなぜリスクが高いと考えられるのだろうか。それに対しては、どのような対応が可能だろう。

「マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策」のための規制

 マネーロンダリングやテロ資金の供与防止をめざす国際ルール遵守のため、金融機関は疑わしい顧客や取引について金融犯罪を扱う当局に報告する義務を負っている。そのため、銀行はうっかりマネーロンダリングやテロ資金供与に一役買ってしまうリスクがないか、綿密に顧客を調査するようになっている。金融リスクや市場における信用性リスクを回避するために実施される相当な注意義務(デュー・ディリジェンス)の実施や顧客確認といったコンプライアンスのための行動は、世界各地で銀行とNPOの関係に影響を及ぼしていて、それはコルレス銀行との関係低下によってさらに悪化している。送金を中継するコルレス銀行が世界各地の送金先銀行との取引から撤退しているからだ。コルレス銀行は送金先銀行の「マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策」に関するリスク管理能力を信頼できないと判断し、そうした銀行との取引によるリスクや収益悪化を回避しようとする。多額の罰金を科されるという懸念により、世界の遠く離れた場所にいる顧客へのサービスからは手を引いてしまうのである。

 多くのNPO、特に紛争地で活動する団体はこのような厳しい要件の影響を被っている。現地のパートナー組織や困難な状況にある住民支援のための送金が、デュー・ディリジェンス要件の強化によって銀行またはコルレス銀行での手続きに長い時間がかかり、間に合わないか、まったく届かなかったりする。その結果、NPOに対する銀行のリスク回避が発生している。加えて、テロ資金供与防止のための国連安全保障理事会や米国による金融制裁も、NPOとの取引における銀行のリスク回避の原因となっている。

 2017年以降、「金融活動作業部会(FATF)に関するグローバルNPO連合」や人道支援を行うNPOは、リスク回避がこの分野で活動するNPOの活動に深刻な負担と影響を与えていることを示す証拠を提示してきた。NPOは、最も不利な立場にあり周縁化された人たちを支援する活動を続けるため、国境を越えて紛争地に現金を運んだり、送金の受け取りに個人の銀行口座を使ったり、あるいは非正規の送金事業者に頼るなどの方法を模索しているが、これらは組織やスタッフ、協力者を大きな危険にさらすことにもなっている。

 NPOに対する銀行のリスク回避が進んだきっかけは、「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会」が策定したマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の国際基準である。それを受け、各国政府はそれぞれの国の状況にあわせ、ルールを作成した。

 金融活動作業部会によるマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策に関する40の勧告のうち、特にテロ資金のためにNPOが悪用されるリスクに関する勧告8は、意図しなかった多くの結果を招き、集会、結社、表現の自由など基本的な民主主義にかかわる権利侵害をはじめとする過剰な規制を引き起こしている。いくつかの政府はNPOに対する厳格な規則をつくったのである。国際基準の精神を誤用し、権力に対する異議申し立て、人権保障、土地への権利、マイノリティの権利、環境の権利などに関し、自国の政策にとって不都合な活動を行うNPOを規制する政府もあり、市民社会の資金、活動、政治的スペースの縮小が発生している。

NPOのリスク回避の影響および対応

 「金融活動作業部会に関するグローバルNPO連合」は、いくつかの「市民社会に友好的な政府」の支援を得て金融活動作業部会に働きかけ、同作業部会の基準が市民社会の活動に否定的な影響を与えている事態を真剣に考える契機をつくってきた。その結果、2016年には勧告8の見直しが行われた。また、2018年のブエノスアイレスと2019年の大阪でのG20サイドイベントにおいて、金融活動作業部会の代表は、G20に対し市民の立場で提言をおこなう日本とアルゼンチンのC20(Civil 20)を含むNPO、銀行および政府代表とともに、G20メンバー国・地域における銀行のリスク回避をめぐる問題の解決策を見つけることの重要性を共有し、またNPOセクターにおけるリスクを含むテロ資金供与リスク評価を行っている国の重要性を強調した。これらの評価は、各国の金融監督当局が、テロ資金供与リスクを回避する方法に関するコンプライアンスのガイダンスを策定するための基礎情報になる。

 紛争地において、または紛争に関連して、人権問題や人道的危機に対応するための活動をおこなう際にゼロ・リスクはあり得ない。この観点に立ち、人道危機による影響を受けている人たち、あるいは地域の権力者たちに権利を侵害されている集団や個人に対する支援活動をおこなうNPOに資金援助している政府や民間ドナーは、リスク回避がひきおこしている問題を真剣に考えるべきである。

 NPOに対する銀行のリスク回避の解決策を見出すためには、関係者による対話が必要である。現在、オランダ財務省とオランダに本部をもつ「人間の安全保障コレクティブ」は、NPOの金融アクセスに関するラウンドテーブルを共催し、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策による銀行のリスク回避と制裁に関する解決策を見つけ出そうとしていて、これはNPOの金融アクセスを改善する際のモデルケースとなることが期待されている。英国でも同様の取り組みが行われている。アルゼンチンでは、NPOの連合体が主導して銀行および政府によるラウンドテーブルが開催され、銀行のリスク回避への対応についての議論がおこなわれた。

 世界銀行はこの問題について、2018年に関係者を招いた国際的な会議を開催した。さらに、スイス政府と欧州委員会人道援助・市民保護総局が支援する取り組みも始まっており、シリア国内で困難な状況に置かれている人々に安全に送金がおこなわれることを目的とする、銀行、政府及びNPOのためのリスク対応ガイダンスの策定がおこなわれている。

 次に必要なのは、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策・制裁を遵守するために各国内の関係者が取るべき方法を提示し、リスク対応にあたっての問題点がどこにあるかを特定し、それぞれの責任に応じたガイダンスを策定することである。この過程を通じて、各関係者間の信頼が醸成されることにもなる。

次に何をすべきか

 「グローバルNPO連合」のメンバーは、世界のいくつもの政府に対し、NPOセクターのテロ資金供与リスクの評価方法について助言をおこなってきた。これらの取り組みの成果は、現在、金融活動作業部会が使用しているテロ資金供与のリスク評価ガイダンスが適正かどうかの検証に役立てられ、その結果は、各国の相互審査を行う審査員向けに金融活動作業部会が開発する研修モジュールに反映されることになる。

 ラウンドテーブルでの対話に参加する関係者は、中央銀行、資金情報機関や他の責任当局を含む監督当局に対しても働きかける必要がある。これらの関係機関も、テロ資金供与には関係がない、あるいは経済・金融犯罪には全く関係がないNPOが、銀行によるリスク回避の影響を被ることがないよう努めなければならないからである。

 最後に、急速に成長する金融技術は、リスクが存在する国やそこに暮らす人々に対するNPOからの送金に関する効果的な解決策を提示できるはずである。それが銀行のリスク回避に関する問題の解決に真に役立つかどうかを、関係するNPOやドナーはよりよく理解する必要がある。

(訳・岡田 仁子)

<編集注>
本稿は、筆者のLia van Broekhovensさんからの寄稿’Derisking and Civil Society: Drivers, Impact and Solutions’を抄訳したものです。関連情報(英文)は以下のサイトを参照ください。
Human Security Collective(https://www.hscollective.org/
Global NPO Coalition on FATF(http://fatfplatform.org/