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国際人権ひろば No.147(2019年09月発行号)

特集① 市民社会からG20への提言

市民社会はG20サミットに何をもたらしたのか

堀内 葵(ほりうち あおい)
特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター アドボカシー・コーディネーター
C20サブシェルパ

 C20(Civil 20、「市民20」)は、2013年のロシア・サンクトペテルブルグG20サミット以降、G20の公式なエンゲージメント・グループとして設立され、市民社会からの提言や、G20議長や政府関係者との対話を進めてきたグローバルな市民社会の集まりである。特徴的な活動は、G20サミットの数カ月前に開催する「C20サミット」の運営、G20議長への政策提言書の提出、および政府関係者との意見交換だ。

 2019年は4月21日~23日に東京で「C20サミット」を開催し、阿部俊子外務副大臣に「C20政策提言書2019」を手渡すことができた。過去のC20サミットでは、G20議長として首相や大統領が出席し、市民社会との対話を行ってきたため、安倍晋三首相の出席を求めてきたが、直前になって、外交日程の都合により出席が難しくなった、との連絡を受けた。そこで、C20サミット開催前の4月18日にC20関係者10名が首相官邸を訪れ、完成したばかりの政策提言書を手渡すことになった。提言書は、G20首脳に対し、「市民社会とともに、そして多くの『取り残されている』人々とともに約束を行動に移すこと」、「地球規模の課題には、地球規模で取り組む必要があること」、そして、「多国間主義、民主主義、市民的権利、透明性や公開性といった共通の価値観が必要であること」を提示するとともに、11分野の政策提言書を含んでいる。

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安倍首相に政策提言書を手渡すC20代表団(撮影:江口直宏)

G20大阪サミット

 6月29日に閉幕したG20大阪サミットでは、「全ての人々の利益のために、技術イノベーション、特にデジタル化及びその実装の力を活用しつつ、世界経済の成長促進に向けて協働」することを謳い、「人口動態の変化によるものを含めて今日あるいは将来にわたって提示される経済、社会及び環境の課題に対処する能力を有する社会を建設する決意」を確認した「G20大阪首脳宣言」の採択と、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」や「G20効果的な公益通報者保護のためのハイレベル原則」、「女性労働参画進捗報告書」など16の附属文書が発表された。C20としてG20議長に手渡した政策提言書がどの程度、首脳宣言に取り入れられたのか、いくつかの分野で確認したい。

デジタル経済分野での提言

 G20サミットの報道で注目された「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(信頼性のある自由なデータ流通)」について、首脳宣言では「プライバシー、データ保護、知的財産権及びセキュリティに関する課題」に対処することにより、「データの自由な流通を更に促進し、消費者及びビジネスの信頼を強化」することや、そのルール策定を目的とする「大阪トラック」の開始が発表されている。この分野に対応するC20デジタル経済タスクフォースは、「製造業、農業、サービス業のデジタル化における労働者、農民、若者や女性の権利を保護するための原則・指針を採択すること」や「デジタル企業が所有権・占有権をもつプラットフォームに起因するプライバシー、同意、情報に対する権利や人権の侵害について、このような権利侵害を抑制するための国家政策を講じたドイツをはじめとするG20諸国の例に倣い、デジタル企業のアカウンタビリティや責任を確保するルールの導入を推奨すること」、そして「G20大阪サミットにおいて、ジェンダー関連のデジタル・ディバイド対策の導入について、国家レベルの取り組みを評価すること」といった具体的な提言してきたが、首脳宣言では種々の課題に対処しつつデータの自由な流通を確保することへの言及があるのみで、市民社会の意見が取り入れられたとは言い難い。

気候変動への対応をめぐる分断

 気候変動分野について、C20は「パリ協定の目標達成に対し現在の約束の水準が全く不十分であることを認識し、国別約束(Nationally Determined Contributions:NDC)を2020年までに強化することを約束すること」を提言してきた。首脳宣言は「NDCを提出し、更新し又は維持することを目指す」と意欲を見せる一方で、「米国は、パリ協定が米国の労働者及び納税者を不利にするとの理由から、同協定から脱退するとの決定を再確認する」との文言も盛り込まれ、米国の単独行動主義を抑えることができなかった。

 首脳宣言は、教育(質の高い初等・中等教育へのアクセスを含む少女と女性の教育)、ジェンダー(2025年までに労働力参加における男女間の格差の25%削減)、国際保健(健康な高齢化、薬剤耐性問題や保健緊急事態の克服、エイズ・結核・マラリアの終息、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けた取り組み)、労働(毎年、2025年までに雇用のジェンダーギャップを25%削減させる目標を定期的に報告)など、C20側からある程度の評価をされた項目も少なくない。しかし、首脳宣言の前文にある「不平等に対処することによって成長の好循環を創出し、全ての人々が自らの潜在力を最大限に活用できる社会を実現するために努力」するという点については、具体的にどのように不平等に対処するのかは検討されておらず、持続可能な開発目標(SDGs)を含む2030アジェンダの主要な目標の一つである「不平等の削減」(目標10)にどのようにG20が貢献できるのかは不明瞭である。

多様性を掲げるC20

 G20サミットが20の国・地域および国際機関の会議であるのに対し、C20はその参加者をG20諸国に限定していない。これは、G20の政策決定が世界全体に大きな影響を与えることから、個別課題に取り組むG20以外の市民社会による関与を確保し、G20全体について働きかけをしたいという意思を尊重するためである。2019年のC20では、議長・共同議長、前回の議長国であるアルゼンチンおよび次回の議長国であるサウジアラビアの市民社会、G7サミット開催国であるフランス、アジア・アフリカの市民社会代表などが運営委員会を構成、専門性を持つNGOが助言を行う国際諮問委員会を設置し、11分野からなるワーキンググループやタスクグループには、国内・国際の2人のコーディネーターを置き、市民社会の多様な意見を踏まえた提言作りを行ってきた。

 冒頭に紹介したエンゲージメント・グループとしては、C(市民社会)のほかに、B(ビジネス)、L(労働者)、T(シンクタンク)、W(女性)、Y(若者)など合計8つが設置されている。エンゲージメント・グループはそれぞれのサミットを開催することにより、議長国に提言書を届け、議論内容の準備を行うシェルパと呼ばれる官僚(日本は外務省経済局審議官)やG20内に設置された分野別の作業部会(開発、雇用、保健、腐敗対策、デジタル経済など)の会合に出席し、意見を述べるなど、G20サミットの議論に建設的に貢献するとともに、多様な視点を紹介し、議論の枠組みを広げてきた。C20サミットには40ヵ国から830名を超える参加者があり、C(市民社会)は多様性という点で、他のグループよりも一歩先を進んでいたと感じている。C20の「貿易・投資ワーキンググループ」が提案した、「保護貿易 対 自由貿易」は偽りの二項対立であり、本当の問題は「新自由主義的な市場原理主義 対 人々と地球環境のための持続可能性」である、という問題設定や、「地域から世界へワーキンググループ」による「表現・結社・平和的集会の自由の原則に対する政府のコミットメントを再確認すること」という基本的人権に関する提言は、G20サミットの多様性や議論の幅を広げた一例である。

より幅広い声を集める

 今後、C20は何を目指して活動をしていくのか。首脳宣言が発表された直後、国際メディアセンターに集まったC20関係者が発表した声明は「世界の普通の人々が直面している現実の課題に対応するために行動を起こすべきです。G20がおこなった約束は、具体的でタイムリーで現実的な行動に移されなければなりません。G20は、グローバルな解決策が必要であるグローバルな課題への対応に関し、説明責任を果たさなければなりませんし、解決策を提示しなければなりません」と提言している。2020年以降もしばらくは継続されるG20サミットという国際会議がその責任をしっかりと果たし、過去の約束や宣言を遵守していくよう、市民社会として動向を見極めていくことが必要である。また、C20サミットに参加する機会のなかった多くの人々の声を集め、より包摂的な言論空間を構築していくことも求められるだろう。2020年のサウジアラビア・リヤドG20サミットに向けて、これまでの活動を振り返りつつ、未来を切り開く提言活動を行っていきたい。