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国際人権ひろば No.143(2019年01月発行号)

人として♥人とともに

インターネット/SNSが拡散する偏見と憎悪 ~ロヒンギャに対する迫害とフェイスブック~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2018年は、国連人権理事会において、インターネット上における暴力に関連する、いくつかの決議が採択されました。また、カナダで開催されたG7でも、「デジタル文脈におけるジェンダーに基づく暴力に対するシャルルボワ・コミットメント」が採択されています。

 インターネットには、以前には考えられない規模と速さで大量の情報を拡散できるという大きな強みがあります。しかし、個人の情報や写真・動画が、本人が意図しない形でインターネット上に流れてしまった場合には、甚大な被害を個人にもたらすことになります。加えて、インターネット上の情報掲示板やSNSが、特定の人たちへの憎悪・差別感情を煽るツールになっていることも大きな問題です。

 SNSが特定の民族への憎悪を煽り、それが具体的な人権侵害につながった事例とされているのが、ミャンマー国内で深刻な迫害を受け、国内避難民あるいはバングラデシュへの難民となっているロヒンギャの問題です。

 ロヒンギャは、ミャンマー西部の海岸線にあるラカイン州に暮らす100万人ほどの少数民族です。仏教徒が90%を占めるミャンマーで、バングラデシュとの国境に近い地域で生活するイスラム教徒であり、歴史的な経緯から「不法移民」とされ、国籍を与えられず、差別と迫害を受けてきました。ミャンマー政府は、一貫して「ロヒンギャという民族は存在しない」という立場をとっています。国籍をもたないため、軍事政権が終わった後の2015年に実施された総選挙には、ロヒンギャの人たちは参加できませんでした。

 日本で、ロヒンギャ難民のことが大きく報じられ始めたのは、2017年8月に発生したラカイン州北部におけるミャンマー国軍によるロヒンギャへの大規模な弾圧が発端です。ロヒンギャが警察を襲撃したとされる事件を鎮圧するために投入された国軍は、襲撃の鎮圧を理由に、村を焼き払うことを含む、大規模なロヒンギャへの攻撃を展開しました。これについては、国連が、「民族浄化の典型例」として強く非難してきています。

 この問題の背景には、ミャンマー国内のロヒンギャに対する強い差別意識が存在しています。そして、ロヒンギャへの憎悪感情の拡散に、インターネットが大きく関わっているという問題が指摘されています。この問題について、ロイター通信が、フェイスブック社への聞き取りを含めて調査をおこない報告を公表しています。

 報告によると、既に2012年にはラカイン州で、仏教徒であるラカインとイスラム教徒であるロヒンギャの大規模な衝突が起こり、多数のロヒンギャが殺害されました。2014年7月にはフェイスブック上に「イスラム教徒の男性が仏教徒の女性をレイプした」という嘘の噂がアップされ、マンダレーで暴動が発生し、仏教徒の男性とイスラム教徒の男性が殺害されました。この事件の後、フェイスブックとミャンマー政府の間で、不適切な情報がアップされた場合には政府はフェイスブックに通報するという合意がなされたものの、フェイスブックにはビルマ語に対応できる能力はないというのが実態でした。

 2018年3月に、国連の調査官から「フェイスブックがミャンマーにおける暴力や憎悪を助長している」と指摘されたことを受け、フェイスブック創設者のザッカーバーグ氏は、4月に「ミャンマーのフェイスブック上に掲載されるヘイトスピーチを検証するためビルマ語を話せるスタッフを増員した」と語りました。しかし、ロイターの調査では、その4ヶ月後にも、1000件以上に上るロヒンギャや他のイスラム教徒を攻撃するコメント、写真、動画がフェイスブック上に掲載されていました。「ヒトラーがユダヤ人と闘ったように、私たちはロヒンギャと闘わなければいけない」といったメッセージや、ロヒンギャを犬にたとえる書き込みが見つかっています。これらのなかには、2013年12月に投稿されたものもありました。

 フェイスブック上にヘイトスピーチがあふれていることは少なくとも2015年頃には明らかになっていたにもかかわらず、今に至るまで、効果的な対応が取られてきていないことがわかります。

 ザッカーバーグ氏は、2013年8月に、途上国の人々にフェイスブックを届けると表明し、フェイスブックは世界中の人々に「つながる力(power to connect)」を届けてきたと語りました。しかし「つながる力」が、一方で深刻な人権侵害を引き起こしている状況は看過できません。SNS上の不適切なメッセージに迅速に対応し、人権侵害が実際に発生する前に削除をおこなう制度の構築が喫緊の課題です。規制やシステムが整備された時にはインターネットは一歩も二歩もその先を行っているという事態を防ぐために、企業、政府、市民、国際社会が真剣に対応する必要があります。


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