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国際人権ひろば No.143(2019年01月発行号)

特集 ビジネスと人権をめぐる国内外の動向

新たな「外国人材」受入れと企業の責任 ~技能実習制度の視点から~

旗手 明(はたて あきら)
公益社団法人自由人権協会 理事

 日本政府は、近年急速に深刻化している国内の労働力不足を背景に、臨時国会で改正入管法を通過させ、新たな外国人労働者政策に舵を切った。

 この法改正により新たに設けられた在留資格「特定技能」が、外国人労働者をいわゆる「単純労働」として受け入れるものとなるのか、「一定の技能を備えた即戦力」となるのかは、今後具体化する政府基本方針や分野別運用方針、また関係法務省令における制度設計次第といえよう。どちらにせよ、「特定技能」が大きく技能実習制度に依存したものとなることは、ほぼ間違いないものと思われる。

 入管法改正案が、臨時国会で最大の対決法案となったことから、改めて技能実習の実態に焦点が当てられ、2016年の技能実習法案の審議時を大きく上回る社会的関心が技能実習制度に寄せられている。そこでまず、同制度の現状を振り返ってみよう。

 1.技能実習制度の現状

(1)急増著しい技能実習生

 日本に在留する外国人の数は、ここ数年著しく増加しており、2017年末において256.2万人を数え、前年同期比で17.9万人もの増加をみて初めて全人口の2%を超え、過去最高に達している。そのうち、技能実習生は27.4万人にのぼり、就労資格の半数近くを占めるまでになっている。

 他方、新規入国者数をみると、17年には年間12.8万人もの技能実習生が新規入国している。これは、11年に入国した6.6万人の倍近くに相当し、急増傾向は明らかである。また、送出し国の構成には劇的な変化が生じており、11年には中国が新規入国のほぼ4分の3を占めていたが、17年にはベトナムが46%を占め、中国は4分の1ほどまで減少している。

 この背景には、中国での賃金上昇がある。すなわち、中国統計年鑑によれば、16年時点の都市部の平均賃金は年6.76万元(約111万円)であり、2000年時点と比較して7倍ほどの上昇を示している。

(2)労働法違反が頻発、国際的な批判も

技能実習制度には、開発途上国への技能移転を通じた国際貢献という建前と、人手不足企業での安価な労働力確保策という実態との乖離があり、国連の人権関係の各委員会や特別報告者、また米国国務省の人身売買報告書などにおいても強制労働や人権侵害等の問題指摘が引き続いている。

 これを裏付けるように、厚生労働省の労働基準監督機関が監督指導した結果報告では、労働法規に違反する実習実施者は7割ほどに及び、違反件数も13年の1,844件から17年には4,226件と2倍を超えて増加している。

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<実習実施者に対する監督指導、送検等の状況>

 報告された具体例をみると、「18時以降の時間外労働に対しては、実習1年目は時間単価が400円、2年目は500円、3年目は600円が支払われており、技能実習生22名に対し不払となっていた割増賃金、総額約500万円が支払われた」「技能実習生4名を含む労働者7名に対し、月最長160時間程度の違法な時間外労働を行わせていた」「作業中に機械で手を挟む怪我を負ったが、労災扱いしない。また、複数の技能実習生が『課長が怪我をした技能実習生の胸ぐらをつかんで殴った』と証言している」などと、生々しい実態も明らかにされている。

(3)相談事例からみた実情

 実習生からの相談を受けている労働組合や支援団体には、技能実習法施行の前後を問わず深刻な相談が絶えない。ここでは、その中の典型的な事例を紹介する。

① 強制帰国ケース

 ベトナム人男性、建設(とび)。日本人社員から繰り返し暴力を受け、監理団体に相談しても改善されなかった。送出し機関は手数料返還を条件に帰国を勧めたが、本人は実習継続を希望した。すると、監理団体職員と送出し機関の駐在員が「仕事に行く」と騙して車に乗せ、送出し機関の事務所へ連行し、翌日、空港から無理やり帰国させた。後日再来日して労働組合に加入し団体交渉した結果、実習先と監理団体が強制帰国の事実を認め、解決金を支払った。

② うつ病労災ケース

 カンボジア人男性、建設(水道管埋設工事)。仕事中に左手人差し指切断の大けがを負い約2ヶ月入院したが、会社は労災手続きをしなかった。また、何かあると、上司の日本人からすぐに「国へ帰れ」「死ね」などと怒鳴りつけられ、殴られたり蹴られたりもした。そのため、日本で暮らす姉の家へと避難したが、食欲もなく眠れない様子を心配した姉に連れられ受診し、うつ病と診断された。支援団体による取り組みの結果、うつ病で労災認定され、会社も謝罪した。

③ 除染作業に従事したケース

 ベトナム人男性、職種は「建設機械・解体・土木」。来日後最初の実習が、福島県郡山市内での除染作業だったが、来日前には聞かされていなかった。その後も、同県川俣町で被災建物の解体工事に従事したが、その現場は、外部被曝線量の記録および放射線管理手帳の交付が義務づけられる避難指示区域に位置していた。実習先の会社は、除染作業について「危険なものとは認識していない。他の会社も実習生にやらせている」と話した。

 2018年3月に入り、この事案が日経新聞で報道されたため、政府は急遽、「除染業務は技能実習の趣旨にそぐわない」として、これを禁止する通知を出すこととなった。

 2.新たな「外国人材」と企業の責任

(1)技能実習は別問題ではない

 技能実習制度のひどい実情をみてきたが、こうしたことは新たな「特定技能」においても起こりうるものと捉えなければならない。

 なぜなら、技能実習において機能している国際的な労働力移動の構造は、4半世紀をかけ確立された制度となっている。すでに就労のために留学生として来日する外国人も、この同じ構造に乗ってやってきている。従って、技能実習の募集・採用ルートを担う仲介事業者が、「特定技能」においても送出しや受入れの機能を持ち続けると想定しなければならない。

 では、「特定技能」制度が技能実習制度の問題点を解消できるだろうか。残念ながら、「特定技能」の制度設計は、技能実習法より規制を緩めたものとなっており、課題の克服はおぼつかない。

(2)企業の責任

 このように大きな人権問題が未解決である状況を踏まえて、企業としても、別稿にある国連・ビジネスと人権指導原則や英国・現代奴隷法などを遵守する立場から、外国人労働者の問題に正面から取り組むことが求められる。

 また、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、「持続可能性に配慮した調達コード」の中で特に外国人労働者にも言及して、「サプライヤー等は、調達物品等の製造・流通等のために自国内で働く外国人・移住労働者(技能実習生を含む)に対しては、関係する法令に基づき適切な労働管理を行い、賃金の不払い、違法な長時間労働のほか、旅券等の取上げ、強制帰国、保証金の徴収などの違法又は不当な行為を行ってはならず」などと定め、サプライチェーンを含めた取り組みを促している。

(3)企業への期待

 最後に、筆者も関わったケースで、ワコールに関連する四国の縫製業での事案に触れておこう。

 その実習生は、深夜2~3時までの長時間労働、入管局に訴えたためのパワハラ、また強制帰国させられるおそれなどから、都内に避難した。労働組合の支援を受け交渉した結果、社長が謝罪し、未払い賃金や不就労期間の補償を含む解決金で合意した。

 しかし、当初、会社は交渉に応じず、進展がみられなかった。その折、ワコールがサプライチェーンに対する取り組みを開始したため、会社の対応が変わり交渉に応じるようになった。ワコールは、当時、そうした状況を認識していなかったが、間接的に大きな影響を与えることとなり、解決に結びついた。

 このように、取引関係を通じた取り組みは、経済的な要素が働くので、サプライチェーンにおける人権保障に極めて有効であると実感した次第である。こうした取り組みが多くの企業で実施されることを願っている。