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国際人権ひろば No.134(2017年07月発行号)

特集 世界の働く子どもたち

児童労働とILOの取り組み

長谷川 真一(はせがわ しんいち)
日本ILO協議会 専務理事

 3年前の2014年、パキスタン出身の17才、子どもや女性の権利のために闘い続けているマララさんがノーベル平和賞を受賞したことは日本でも大きく報道されたが、インド出身の児童労働活動家、カイラシュ・サティヤルティさんも一緒にノーベル平和賞を受賞した。児童労働の問題が国際社会でいかに重視されているかの一つの現れである。

 カイラシュさんは長年、児童労働の撲滅、子どもの教育、権利の問題に取り組んできた。インド国内では、児童労働から子どもたちを救出し、社会復帰に向けた施設を運営する活動、児童労働の予防のための啓発活動などを精力的に行ってきた。また、国際的な活動として有名なのは、1998年に児童労働の問題を訴える「児童労働に反対するグローバルマーチ」を組織したことで、この時は世界100カ国以上で行進を実現し、マーチのゴールであるジュネーブのILO総会での児童労働の条約案の審議に参加して、児童労働の取り組み強化を訴えた。2016年5月には、グローバルマーチに触発されて生まれた日本のNGO、ACEの招きで来日するなど、世界各地で活発に活動を続けている。

児童労働の現状

 「児童労働」とは、子どもが大人のように働く労働、すなわち義務教育を妨げる労働や、18才未満の危険で有害な労働のことをいう。簡単な家事を手伝ったり、放課後や休日に家業を手伝ったりすることは、児童労働とはいわない。

 ILOはほぼ4年ごとに世界の児童労働の現状をまとめて発表しているが、2013年の報告書によると、世界の子ども(5-17才の人口)の約11%にあたる1億6800万人が児童労働に従事している。

 地域別にみると、サハラ以南のアフリカ諸国では5人に1人、アジアでは10人に1人が児童労働に従事している。

 児童労働の半数以上の8500万人が、健康、安全、道徳を損なうおそれのある危険で有害な労働をしている。鉱山での採掘作業、建設現場、農園などで有毒物質にさらされていたり、危険な道具を使っていたり、長時間働いていたりしている。産業別にみると、児童労働者が最も多いのは農業で、ほぼ6割(9800万人)を占める。農業は、建設業や鉱業と並んで危険有害な仕事が多く、怪我や病気、障害などが起きやすい産業である。次いで、サービス業の比率が高く5400万人が働き、そのうち1150万人が家事労働をしている。

 児童労働の最大の原因は貧困である。子どもも収入を得ないと家族の生活が成り立たなければ、子どもは学校に行かずに児童労働に従事する。そして子ども時代に十分な教育を受けられないと、成長してからきちんとした仕事に就けず、結果として貧困が再生産されてしまう。子どもの教育機会を確保するためには、大人にディーセント・ワークがあることが重要である。

 学校がない、教科書がない、先生がいない、といった教育機会の欠如も児童労働の大きな原因となる。親に教育の意味やメリットがわからないというケースも少なくない。親も子どもの頃は児童労働者であり、児童労働が地域の慣行、伝統となっていることもある。子どもは従順だし安く使える、という雇い主の考えも需要を生む。武力紛争や自然災害から児童労働が生まれることもある。

 日本でも貧しかった頃、児童労働があった。1903年農商務省「職工事情」に関西の紡績工場の調査があるが、労働者の10%にあたる2,500人が14才未満というデータがある。貧しい家庭の少女が子守奉公に出るという慣習も明治の頃までは広く見られ、「五木の子守唄」や「赤とんぼ」の歌詞にその痕跡がある。ただ、国際的にみると、日本では比較的早く義務教育が普及したこともあり、イギリスなどの先進国に比べても、深刻な児童労働問題が発生していた時期は短期間であったようである。

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ミャンマーの児童労働(ILO提供)

ILOの取り組み

 ILOは1919年に設立されたが、設立当初より児童労働問題に取り組んでいる。当時は先進国でも児童の酷使が大きな問題であった。1919年の第1回総会では、工業における最低年齢を定めた第5号条約が採択されている。

 ILO条約は、国際的に労働条件の最低基準を定めるものであるが、現在、児童労働に関しては重要な条約が二つある。第138号条約(最低年齢条約)と第182号条約(最悪の形態の児童労働条約)である。

 就業の最低年齢に関するILO第138号条約は、1973年に全産業を適用対象として作られた。この条約では、就業の最低年齢を義務教育終了年齢とし、原則15才と定めた。ただし、健康、安全、道徳を損なうおそれのある危険な労働に関しては18才とし、また、軽労働については一定の条件のもとに13才としている。開発途上国については、就業最低年齢を当面14才、軽労働は12才とすることができる。

 1980年代後半から90年代にかけて、先進国の多くの製品が、アジア諸国などのサプライチェーンの製造の現場の児童労働で作られていることが明らかになり、児童労働問題への国際的な関心が高まった。NGOのキャンペーンや消費者運動も盛んになったが、こうした動きの中で、1998年に新たに作成されたILO条約が第182号条約である。この条約では児童を18才未満の者とし、最悪の形態の児童労働を撤廃するための迅速で有効な措置を求めている。最悪の形態の児童労働とは、①人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働などの奴隷労働、②売春、ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供すること、③麻薬の製造、取引など不正行為に使用、斡旋、提供すること、④児童の健康、安全、道徳を損なうおそれのある危険な労働、である。

 ILOは1998年に「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」を採択し、多くのILO条約の中で、4分野8条約を中核的労働基準として定めたが、4分野とは、①結社の自由と団体交渉権、②強制労働、③児童労働、④雇用・職業での差別、である。

 児童労働分野の2条約を含むこの中核的労働基準は、ILO条約のなかで人権にも係わる特に重要な条約として、ILO以外の国際的な場でも取り上げられるようになってきている。国連グローバルコンパクトやISO26000はその代表的な例である。

 ILOは毎年6月12日を「児童労働反対世界デー」と定め、キャンペーンを行っている。

 また、これまでに3回児童労働世界会議がILOの協力のもとに開催されている。次の世界会議は今年11月アルゼンチンで開催される。児童労働の撤廃を目指す世界の多くの団体も、こうしたキャンペーンや会議に参加している。

 またILOは1990年代より児童労働撤廃のための技術協力の活動も展開している。ILOの技術協力活動は2004-14年の間には世界の107カ国で実施されており、ILOのさまざまな技術協力プログラムの中でも最大のものとなっている。

成果とこれからの課題

 ILO第182号条約は167カ国が批准しているが、児童労働の撤廃に取り組む政府や労使団体、国際機関、NGOなどの活動が活発化してきている。2004年からの10年間に59カ国で194本の児童労働に関する法律が制定された。

 これらの活動により、児童労働は着実に減少してきている。2000年には世界の児童労働者数は2億4600万人と推定されていたが、この12年間で30%以上減少した。しかし、世界にはまだ日本の総人口を超える1億6800万人の児童労働者がいる。

 2015年に国連は、「持続可能な開発目標(SDGs)を採択した。前回のミレニアム開発目標では児童労働は取り上げられていなかったが、今回、目標8のディーセント・ワークの促進のなかのターゲットの一つとして次のように入れられた。

 「8.7強制労働、現代の奴隷、人身取引を撤廃するための即時の効果的な措置をとり、子ども兵士の採用と使用を含む最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保し、また2025年までにすべての形態の児童労働を終焉させる。」

 現状の児童労働の減少のペースからみても、あと10年弱で世界から児童労働をなくすというこの目標は相当に高い。この達成に向けて、多くの組織の一段と活発な活動と連携が求められている。