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国際人権ひろば No.68(2006年07月発行号)

『裁判官・検察官・弁護士のための国連人権マニュアル-司法運営における人権-』を読む3

「第4章 裁判官・検察官・弁護士の独立と公平」について

外山 太士 (とやま ふとし) 弁護士

[1] はじめに


  法の支配と人権の効果的保護にとって、司法の独立が必要不可欠であることは言うまでもない。本章はさらに進んで、司法の構成要素である裁判官・検察官・弁護士それぞれにつき、司法部と検察官には独立及び公平が、弁護士には独立が必要であり、これらがすべて備わっていなければならないとしていることにまずは留意すべきである。
  もっとも、現憲法下で60年近くも司法の独立を実践してきたわが国にとってみれば、本章に記述されていることの多くはいわば当たり前のことで、通常は意識することさえないものが多いかもしれないが、司法の独立が、国際人権法上、どのような文書にどのように規定され、またその限界線はどのあたりにあると解釈されているかを知ることは、重要なことである。

[2] 裁判官・検察官・弁護士の独立に関する法源


  自由権規約14条に、独立かつ公平な裁判所による裁判を受ける権利が規定されているほか、国連総会により採択された3つの原則、すなわち、司法部の独立に関する基本原則(1985)、検察官の役割に関する指針(1990)、弁護士の役割に関する基本原則(1990)が、もっとも基本的な法源である。また国際法曹協会(IBA)も様々な基準を採択しているほか、自由権規約委員会や、欧州人権裁判所などの地域的人権保障機構の裁判例も重要な法源となっている。

[3] 司法部の独立と公平


  「独立」には、個人的関係(裁判官個人の独立)と制度的関係(司法部の独立)の両者があることは、わが憲法での議論と同様である。
  ここでは、個人的関係における独立に関し、これを構成する諸要素が論じられているが、そのうち、裁判官の任命手続、在任期間の保障、昇進、表現及び結社の自由の保障などがわが国においても問題となりそうな点である。
  制度関係における独立の議論の中では、財政面、すなわち裁判所の予算における独立の点及びこれに関するアメリカ法曹協会の報告書がわが国でも参考となるだろう。
  「公平」とは、自由権規約委員会の解釈によれば、裁判官が、付託された事案について予断を抱かず、かつ、当事者のいずれかの利益を促進するような行為をしないことを意味している。注目すべきは、この公平性は、裁判官だけでなく陪審員にも要求されることであり(欧州人権裁判所は、サンダー事件(2000)において、陪審員が人種主義的な発言をしたこと等をもって、欧州人権条約6条1項違反を認定した)、この点は、わが国の裁判員にも妥当するものと思われる。もちろん、裁判官が陪審員に対し、偏見を抱かせるような説示を行うことも禁じられる。
  なお、国際人権法上、軍法会議などのいわゆる特別裁判所は直ちに違法となるものではないが、特別裁判所であっても、普通裁判所と同様の独立・公平が求められている。

[4] 検察官の独立と公平


 検察官は、司法の運営に不可欠な職務であり、不適正な干渉や危険にさらされずに独立してその職務を遂行できなければならないことは言うまでもない。また、検察官は、公益の代表者として、「公平」に職務を遂行する義務を負う。例えば、拷問その他の人権侵害によって取得された証拠を用いることを拒否し、これらを行った者が(例え警察その他捜査機関の関係者であっても)裁判にかけられるようあらゆる必要な措置を執らなければならない(検察官の役割に関する指針16)とされていることに注目すべきである。

[5] 弁護士の独立


 独立かつ公平な裁判官及び検察官に加え、民主社会における法の支配を維持し、人権の効果的保護にとって不可欠なのが、独立した弁護士である。ここでいう独立とは、政府によるか私人によるかを問わず、あらゆる恐怖を受けることなく弁護士が依頼人の利益の効果的な代理のための活動ができることを言う。途上国では、弁護士が弁護活動を理由として殺害される例も後を絶たないし、わが国でも皆無ではない。国は、裁判官と検察官だけでなく、弁護士の安全をも確保する義務を負っているのである(弁護士の役割に関する基本原則17)。
 さらに、依頼人の利益を守るためのすべての適切な方法で弁護士が活動できる保障が必要であり、「いかなる裁判所または行政機関も、......弁護人が依頼人のために出席する権利の承認を拒んではならない」(同原則19)とされていることは、わが国における取調立会権との関係で注目される。
 弁護士の資格付与と懲戒が行政権にゆだねられてはならないとされていることは、当然のこととはいえ、あらためてその重要性を認識させる。もっとも、弁護士の懲戒は、行政にゆだねることは許されないが、弁護士自身が設置した懲戒委員会の他、裁判所その他の独立した機関にゆだねることも認められる(同原則28)。
 もっとも弁護士は、このような特別の保護を受ける一方で、司法の運営に対する公衆の信頼を維持する義務をも負っている。例えば、弁護士は、司法の運営について批判的発言をする権利を有してはいるが、法律上の異議申し立てなどの手続きを取らないで公に批判を行った場合には、懲戒を受けることもあり得る(欧州裁判所によるショーファー事件判決(1998))。