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国際人権ひろば No.67(2006年05月発行号)

特集 米国における人身売買と性的虐待に対する取り組み Part2

米国の「2000年人身売買被害者保護法」について

岡田 仁子 (おかだ きみこ) ヒューライツ大阪研究員

  人身売買の問題が国際的に大きく取りあげられるようになったのは1990年代後半のことである。国連で「国際組織犯罪防止条約」に人身売買に関する補足議定書が2000年に採択されたほか、各地域や各国で取り組みが拡大していった。米国は、人身売買に関する国別報告を毎年公表し始め、この問題に国際的な注目を集め、日本も含め各国の人身売買の取り組みを後押しするのに一役買った。その国別報告の根拠となったのが、「2000年人身売買被害者保護法」(TVPA)[1]である。国別報告は人身売買に関する米国の国際的な取り組みの一つとして規定されているのであるが、この法律は米国の自国における加害者の取り締まりや被害者の保護についても規定している。特に、被害者の処遇について、米国での永住の可能性をもつ在留措置を有していることが注目される。

■ 人身売買被害者保護法の概要


  米国政府は1990年代後半から人身売買の問題について取り組みはじめ、1998年3月、クリントン大統領が人身売買の防止、被害者の保護、加害者の訴追に関する戦略検討を指示し、各省庁でもこの問題に関する調査が行われるなどの取り組みが見られた。そして2000年には人身売買被害者保護法が共和、民主両党の支持を得て制定された。

 TVPAの主な概要は次の点である。
  • 国務長官に毎年、人身売買に関して最低基準を満たしていない国をあげる報告を議会に提出することを義務づける。
  • 被害者の保護のための公的支援を行う。
  • 重大な侵害を受けた被害者に毎年5,000件の暫定在留許可(T-visa)枠を設定する。
  • 人身売買およびそれに関わる行為の犯罪化および処罰を行う。
 TVPAはその後、数回にわたり改正されている。2003年には、人身売買の被害などに関するメディア・キャンペーンなどを規定し、2005年の改正では、国内で人身売買の被害を被る米国人も保護の対象とし、海外で人身売買に関わる公務員や公務に携わるものへの管轄権の行使などが規定された。

■ 被害者の保護


  米国は、人身売買に関しては受入国であり、2003年には45,000人から50,000人、主に女性と子どもが米国に送り込まれていると推定している[2]。2004年には推定数は14,500人から17,500人となっている[3]
  TVPAは「重大な形態の(severe form)人身売買」の被害者である外国人で18才未満の人、または同法の下で認証(certification)を受けた人に対して、難民と認定された人に認められるのと同じ支援、サービスを受給することを認める[4]。同法の下の「重大な形態の人身売買」とは、暴力、欺瞞、強要により商業的性的行為を強いられること、または被害者が18才未満の場合は暴力や強要などなくても、そのような行為を強いられることのために人を募集、蔵匿、移送、提供などすること、あるいは暴力、欺瞞や強要により意に反する苦役、強制労働、債務奴隷、奴隷などの目的で労働や役務提供を強いられることのために人を募集、蔵匿、移送、提供などすることと定義されている[5]。認証とは、「重大な形態の人身売買」の起訴に対して連邦、州など地方の法執行機関に合理的にあらゆる協力をする意思があり、T-visaの申請を行っており、これが拒否されていない人、あるいは人身売買者の起訴を行うために司法長官が在留を許可する人に対して、保健・福祉サービス省によって発給される[6]。18才未満の場合は協力の要件は科されない。後者は"continued presence(在留継続)"といわれ、連邦法執行官が捜査および司法手続においてその被害者の協力が必要であると認め、保健・福祉サービス省に申請する。04年9月末までに484件の"continued presence"が認められ、その多くは後にT-visaを申請し、認められたことが報告されている[7]
  一方、T-visaは被害者自身が申請し、これが認められた場合、3年間の滞在が許可され、その後永住許可を申請することができる。その要件は、「重大な形態の人身売買」の被害者であり、本人が米国領域内におり、18才未満でない限り、法執行機関に合理的にあらゆる協力をする意志があり、米国から送還されることが本人にとり極度の困難(extreme hardship)をもたらすこととされている[8]。04年度には136件のT-visa申請が認められ、292件が拒否されたことが報告されている[9]。2005年中に初めてT-visaを認められた被害者が永住許可を申請できる3年の期間に達する。T-visaも"continued presence"もその期間中、米国内で労働に従事することが認められる。
  また、認証される前の被害者に対しては法務省の犯罪被害者局(OVC)が医療、シェルターなどの緊急支援を行うが、同局は主にそのようなサービスを提供するNGOに資金提供を行うことにより、実施している。03年1月のプログラム開始以降04年報告時まで557人の支援を行ってきた。
  しかし、TVPAの下で被害者として認められ、支援を受けた人の数は1,000人に満たず、14,500人から17,500人と推定している被害者数のほんの一部でしかないことを報告は認めている[10]
  TVPAは被害者を支援する団体、サービスを提供する団体などに対して援助を行う規定をおき、連邦予算から資金援助を行っている。2004年度には国内のNGOに対して合計510万ドルの資金を提供していると報告している[11]。これには、啓発を行う団体、警察など当局の職員のトレーニングを行う団体も含まれる。
  その他の規定として、2003年の改正により、被害者は加害者に対して民事訴訟を連邦裁判所において起こすことができるほか、それとは別に裁判所は加害者に対して強制労働などの場合、被害者に未払いの賃金などの損失を支払うよう命じることができる規定がおかれている[12]

■ 加害者の起訴・処罰


  TVPAは、人身売買に関わる犯罪を設定し、また、03年、05年の改正を通して処罰の厳格化をはかっている。一方、司法省は04年、州、都市、郡などの地方において、法執行機関、入国管理などその他人身売買対策に関わる機関、被害者保護に関わる機関やNGOなどによるタスク・フォースを提唱し、設置に向けて資金を提供し、05年までには32の都市で設置された。2004年度にはタスク・フォース設置のために760万ドルの資金が提供されている[13]。この取り組みは人身売買の被害者の発見の促進や加害者の訴追に関して地方の法執行機関と、また被害者への各種サービスを提供するNGOとの連携をはかるものである。01年-05年報告は、各地の共同体あるいは宗教団体との連携が被害者へのアウトリーチに欠かせないことをあげている[14]

■ 2005年改正


  TVPA法執行に関わる2006、2007年度の予算を許可する立法措置において、上記のようないくつかの改正が行われた。国内の人身売買被害者が取りあげられたことがその一つである。それまでの被害者保護は米国籍をもたない人、特に有効な入国、在留許可をもたない人を主に対象としているが、議会は米国内の家出・ホームレスの子どもたちが人身売買や性的搾取の被害に遭いやすいことを指摘し、米国市民および永住許可をもつ外国人の被害者に対する支援プログラムを開発、強化するための援助プログラム策定を保健・福祉サービス省に要請している[15]。改正には、商業的性的搾取の需要への対応も含まれ、商業的性的搾取に関する、その経済規模や起訴、処罰の件数などを含む調査や政府関係者、NGO、研究者を含む会議の開催が規定された[16]。また、国別報告においても、各国が需要削減についてとった措置も含むことが規定されている[17]

1. TVPA、改正法についてはhttp://www.usdoj.gov/whatwedo-ctip.html参照。
2. Assessment of Activities to Combat Trafficking in Persons, August 2003, p.3
3. Assessment of U.S. Government Efforts to Combat Trafficking in Persons in Fiscal Year 2004, U.S. Department of Justice, September 2005, p.4推定数の大幅な変化について、詳しい理由は述べられていないが、下記の実際に被害者として保護の対象となる人の人数との乖離も指摘されており、2005年の改正では、国内、地域および国際的な人身売買の被害者の人数を実効的に数量化するメカニズムについて研究することを規定している(104条c)。
4. 107条(b)1A
5. 103条8A、B
6. 108条E。なお、2003年改正で重大な形態の人身売買が関わっている場合は誘拐など他の犯罪の起訴の協力も加えられた。
7. Assessment 2004, p.13
8. TVPA 107条(b)2c(e)
9. Assessment 2004, p.13
10. 同上、p.4
11. 同上、p.4
12. 112条a 2
13. Assessment 2004 p.4
14. Report on Activities to Combat Human Trafficking :Fiscal Years 2001-2005, U.S. Department of Justice, February 2006, p.36
15. Trafficking Victims Protection Reauthorization Act of 2005 H.R.972 Sec.202
16. 同 Sec.201
17. 同 Sec.104. 施行は改正法の施行2年後。

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