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国際人権ひろば No.65(2006年01月発行号)

肌で感じたアジア・太平洋

多様性の中のイスラム女性~インドネシアの都市と村に滞在して

千代森 あゆみ (ちよもり あゆみ) 神戸市外国語大学大学院・修士課程2年

  2005年の9月1日から30日までの30日間、修士論文作成のためインドネシアに渡航した。主にジャワ島のジョクジャカルタ特別自治区(以後、ジョクジャとする)、スラウェシ島の南スラウェシ州マカッサル、西スラウェシ州ポルマス県ミリン村にそれぞれ約一週間ずつの滞在である。ジョクジャとマカッサルでは女子大学生の寮に、ミリン村では村民の家に宿泊した。
  インドネシアは1998年にスハルトの権威主義体制が崩壊し、民主的な国へと移行した。それに伴い、男性優位の伝統的社会からより自立的な女性が受け入れられる社会へと移り変わっている。現在の都市部での女性の様子を伝えると共に、伝統的慣習が残る村での女性たちについて報告したいと思う。

■ベールを着用する女性


  インドネシアのイスラム女性はジルバッブと呼ばれるベールをかぶる人が多い。特に、高等教育を受けている人が多い都市ではジルバッブを着用している女性をよく見かける。多くの人は三角形に折った大判のスカーフを巻いているが、中には全身を覆うジルバッブをつけている人もいる。ジルバッブをつけているとまじめで信仰深い印象をもたせる。しかし、女子寮の中ではジルバッブをはずし、パジャマのような格好でくつろぎながらおしゃべりをするので、外でジルバッブをつけていた時と全く別人のようになる。
  ジルバッブは楽しみながら着用しているようだ。色やデザインは様々で、その日の洋服に合わせて着用する。つけ方も様々で、結んだり、かわいいバッジでとめたりしている。
  信仰度合いも様々だ。ジルバッブをつけない人もいるし、目以外の全身を覆う人もいる。ジルバッブをつけていない時の写真を撮って見せるのを気にしない人もいれば、コーランの解釈上絶対に写真に写らないと決めている人もいる。自分で結婚相手を決める人もいれば、イスラムの慣習に基づいて親や親戚の決めた結婚をする人もいる。マカッサルで出会った人は、結婚前は一回しか会っていないけど、親戚などから相手のいい面や悪い面を全部聞かされていたから結婚を決めたと言っていた。自分で結婚相手を決めたいけど、親や親戚が選びたがっていて困っていると言う人もいた。

■都市女性の間の流行


  多くのイスラム女性は東アジア系女性に強い憧れを持っている。ジョクジャの友達は外国人観光客(特に日本人)の服装にあこがれており、よく日本の古着の洋服を買いに行くという。ショッピングモールには中国系インドネシア女性(華人)が多くいて、ミニスカートやノースリーブなど、イスラム女性が「セクシー」と呼ぶ格好をしている。イスラム女性は華人のような「セクシー」な格好をしたいと思ってはいないようだが、色白にはとても憧れている。雑誌やテレビでは色白の女性をよく目にするし、美白のための商品もよく売れている。
  寮の中では外国の歌やテレビ、映画がはやっていて、特に日本のドラマやアニメは大人気だ。日本のアニメを放映している日曜の朝は、テレビの前にみんなが集まってアニメを見ていた。また、日本と同様、韓国ドラマの「冬のソナタ」をきっかけに韓国ドラマがはやり、CDショップに行くと、日本より韓国のDVDの方が多く並べられていた。インドや台湾などのドラマも流行っていて、日本よりはるかに「国際化」している感じであった。

■ハウス・メイドになるほかない女性たち


  ジョクジャではハウス・メイドの支援活動を行っているチュット・ニャ・ディーンというNGOを訪ねた。この団体はハウス・メイドになるための学校も運営していると聞き、行ってみた。ハウス・メイドグループセンター(PRT Center Rumpun)では20名ほどの生徒が家事やベビーシッター、パソコン、人権、雇い主との交渉の仕方などを学んでいる。生徒の多くは貧しい出身であり、小学校を出ているだけなのでハウス・メイドになるほかないと嘆いていた。ハウス・メイドであり、センターでボランティアもしている人とも話した。雇い主から暴力や暴言を受けることもあるそうだが、「クビにされるよりまし」らしい。もし解雇されたら、村に帰れなくなると言う。日本人の家で雇われている人は「日本人は人権を知っているから暴力をふるわれることはない」と言っていた。このセンターでは人権教育を熱心に行っているが、雇い主側が人権を知らないことが一番の問題だと言う。雇い主は政府関係者や企業家が多いので、彼らの意識改革が大変難しいそうだ。

■イスラムより民族の慣習を大切にする村の女性


  都会に住む人たちといると、自分の民族や故郷を誇りに思っているのが伝わってくる。彼女たちはメディアによって海外の文化が入り、外の世界に憧れをもちながらも、都会の中で民族の伝統を誇りにし、信仰を守っていこうとしている。
  今回、ミリン村に滞在したが、村の女性たちの印象はジルバッブをつけていない女性が多いという点で都会に住む女性たちと少し違う。イスラムよりも村で受け継がれてきたブギス民族(スラウェシ島に住む海洋民族)の慣習を大切にしているように思われる。彼女たちが誇りとしているのは特に伝統のお菓子や料理だ。たまたま遭遇した出産祝いでは、近所や親戚の女性たちがお祝いをする家に大量の砂糖を持ち寄り、ブギス伝統のお菓子や料理をつくるのを手伝い、家を訪ねてくる客に振る舞っていた。家に集まってきた村の男性を、部屋に並べられた大量の料理やお菓子でもてなすのがお祝い事の慣わしらしい。お菓子作りや後片付けは主に年配の女性たちが中心となり、若い女性たちは手伝いながら学んでいく。でも、年配の女性たちが大体の仕事をこなしてしまうため、若い女性たちはやることがなくなり、おしゃべりをしているという場面をよく見かけた。

■村の結婚式


  村滞在中に結婚式が行われた。式を挙げたのは村に住んでいる23歳の女性と近くの村の男性だ。
  3日ほど前から女性たちは集まってお菓子作りを始め、男性たちは会場作りを始めた。ステージを作り、それを覆うように巨大なテントを張り、白やピンクの布で飾っていく。並べられたイスにはピンクのリボンをつけたかわいいイスカバーがつけられていく。
  結婚式当日の昼、男性たちはジャケットとサルン(伝統的腰巻き)姿、女性たちは派手なクバヤ(伝統的上着)とサルンで着飾り、とっておきのアクセサリーをつけ、化粧をして出席する。親戚の若い女性たちは参列客に料理やお菓子を振る舞っていく。ブギスの結婚衣装を身にまとい、新婦の村で結婚の儀式を終えた新郎新婦は、同じ格好をした小さな男の子と女の子と共にステージの真ん中に座る。新郎側の親戚たちが大勢やってきて食事をした後、新婦の親戚たちが新郎の村に行って食事をする。新郎の村でも黄色を基調とした、同じような会場が作られていた。
  夜は新婦の村に戻り、さらに多くの客が新郎新婦に挨拶し、祝儀を出し、食事をして帰っていった。会場の隣に設置された小さなステージでは、若い女性や女装した同性愛男性たちがダンスミュージックにあわせて踊ったり歌ったりし、子どもたちが周りに集まっていた。特にノースリーブにミニスカート姿の女性たちのダンスが大人気であった。

  インドネシアで出会った人たちはよく「インドネシアにテロリストはいない。もっと日本人に来てほしい」と言っていた。一部のテロリストによってインドネシアのイメージが悪くなっている。それを懸念してインドネシアのことをもっとよく知ってほしいと願っているのだ。イスラムだけではなくキリスト教やヒンドゥー教の人もいる。信仰の表し方も人それぞれだ。しかし、心の温かさや民族を誇りに思う気持ちは多くのインドネシア人に共通しているように思う。インドネシアを好きになった一人として、もっと温かいインドネシアを伝えていきたい。

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