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国際人権ひろば No.62(2005年07月発行号)

国連ウオッチ Part2

第11回国連犯罪防止刑事司法会議に参加して

近藤 真 (こんどう まこと) 弁護士

  私は、2005年4月18日から4月25日までバンコクで開催された「国連犯罪防止刑事司法会議」(「コングレス」)に、日本弁護士連合会(以下、日弁連)の代表団の一人として参加した。本稿は、過去多くの刑事司法における基準規則(standards and norms)を設定してきたコングレスの現状をお伝えするとともに、NGOが如何に国連の刑事司法の現場に関わるかを検討するものである。

国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)とは


  コングレスは、国連経済社会理事会の機能委員会の一つである国連犯罪防止刑事司法委員会(「コミッション」)とともに、国連における刑事司法の中心的フォーラムである。コミッションは毎年1回、コングレスは1955年から5年毎に開催されており、今回のコングレスは第11回になる。
  過去のコングレスは、「被拘禁者処遇最低基準規則」、「司法部独立原則」、「弁護士の役割に関する原則」、少年司法に関する「北京ルール」や「リヤド・ガイドライン」、「法執行官行動綱領」、「医療倫理原則」など50以上の基準規則を設定してきている。これらの基準規則は、条約ではないので法的拘束力はないが、国連という場で世界の多数の国が参加して決められた基準規則であり、多くの国がこれを尊重し、国連もその国内実施を強く押し進めているものである。
  しかし、最近の国連における刑事司法のテーマは、越境的組織犯罪、汚職防止、経済犯罪(マネーロンダリング(以下、マネロン)を含む)、サイバー犯罪、テロなど、基準規則の設定やその実施というよりも、犯罪の防止とそのための国際協力に軸足を大きく移している。ただ、このような流れの中でも、国連は、「基準規則」を、毎年ウィーンで開催されるコミッションにおいて常に検討すべき議題(standing item of agenda)として位置付け、国連の刑事司法を常に人権の立場からチェックするという観点も維持している。

第11回コングレスの概要


  第11回コングレスは、2005年4月18日から4月25日まで、バンコクのクィーン・シリキット国立会議場で開催された。コングレスは、5年に1回開催される国連の刑事司法における最大級の会議であり、各国の刑事司法の最高責任者(法務大臣、検事総長等)の出席が要請されている。今回のコングレスに参加した国は、133カ国、NGOは34、その他多くの国連関係機関、政府関係機関、更には1,100名を超える個人専門家が参加した。日本政府も総勢35名の代表団(団長:松尾邦弘検事総長)を派遣している。NGOとしては、Penal Reform International、Amnesty International、International League for Human Rights、Defence for Children International(DCI)などが出席していたが、NGOの参加は、過去多くの基準規則を設定した当時のコングレスの状況に比べると、この10年は極めて低調になっている。
  今回のコングレスの主たる議題は、(1)越境的組織犯罪と闘うための効果的な方法、(2)薬物及び犯罪に関する国連事務所の業務の関連における、テロに対する国際協力とテロとその他の犯罪行為との関係、(3)汚職:21世紀における脅威と傾向、(4) 経済及び金融犯罪:健全な発展への挑戦、(5)基準を機能させる:犯罪防止及び刑事司法における50年に亘る基準設定、の5つであった。また、ワークショップのテーマは、(1)強制退去の方法を含む法執行の国際協力の拡大、(2)修復的司法を含む刑事司法改革の拡大、(3)犯罪防止のための戦略と最善の実務(特に、都市犯罪及び危機に瀕している若者に関連して)、(4)テロ関連の国際条約及び議定書につき、テロと闘うための方策、(5)マネーロンダリングを含む経済犯罪と闘うための方策、(6)コンピュータ関連犯罪と闘うための方策、の6つであった。
  今回のコングレスの成果文書である「バンコク宣言」は、前文と本文35項目から成っており、国連刑事司法の基本方針を定めたものである。その内容は、組織犯罪、テロ、人身売買、サイバー犯罪、汚職防止、マネロン、受刑者と刑務所管理、修復的司法、少年司法など多岐にわたっている。この中で、基準規則に関する第29項は以下のようなものである。
  「適宜、我々は、犯罪防止及び刑事司法改革に関する国内プログラムにおいて、国連の基準規則を利用し適用するよう努力し、かつ、必要に応じて、基準規則を広く頒布するよう努力することを約束する。我々は、基準規則と国際レベルで最も成果を挙げているプラクティスを念頭に置いて、法執行官(刑務所職員、検察官、裁判所及び関係専門家グループを含む)のための適切な研修を促進するよう努力する」。

日弁連の活動


  日弁連は、26頁にわたる報告書を作成し、コングレスの会場で配布した。この報告書には、(1)越境的組織犯罪とテロリズム対策のための特別な刑事司法上の措置における人権問題、(2)ゲートキーパー問題、(3)コンピュータ関連犯罪取締りにおける人権保障、(4)被拘禁者の人権、(5)人身取引、(6)少年非行防止における「子どもの権利委員会」の最終見解の活用、(7)被害者に対する支援、(8)刑事司法における人権教育、の8項目にわたり、具体的提言とその理由を説明した。また、各議題との関連で、(1)ゲートキーパー問題、(2)人身取引、(3)被拘禁者の人権と人権教育の3つのテーマでスピーチを行った。
  ゲートキーパー問題とは、マネロンの取締りにおいて、弁護士等の専門家をゲートキーパー(門番)とし、これら専門家に、受任している事件の中で疑わしい取引があった場合には国に報告する義務を課すというものであり、弁護士に関する限り、依頼者に対する秘密保持義務という最も基本的な義務が危殆に瀕し、弁護士という職業の基本を揺るがしかねないものである。そうであるにもかかわらず、ヨーロッパの多くの弁護士会は既にこの報告義務を受諾していると言われている。ただ、ベルギー弁護士会のように、憲法裁判所に提訴し争っている弁護士会もあり、また、カナダにおいては、カナダ弁護士会がゲートキーパー関連の法律の有効性を争い、最高裁判所で勝訴したという例もある。国連の刑事司法の現場では、残念ながら、マネロン取締り一色で、ゲートキーパー問題は全く議論されていないという状況にあり、その意味においては、日弁連のスピーチは何らかの意義を持ったのではないかと思う。

国連の刑事司法とNGOの役割


  国連の刑事司法は、5年に1度のコングレスと毎年春に開催されるコミッションの2本建てで運営されている。基準規則の設定作業がほぼ完了したこと、テロや組織犯罪といったそれ自体が重大な人権侵害である問題を世界が抱えていること、刑事司法のテクニカルな議論がなされていることなどから、NGOの関わり方は難しく、そのためNGOの参加も低調である。テロや組織犯罪の防止や取締りの必要性については、誰も異論はないのであるが、要は、それが行き過ぎて一般市民に対する人権侵害に発展しないかということが問題であり、両者のバランスをとることが重要なのである。この意味において、NGOは、コングレスが過去に設定してきた基準規則を学び、国連の刑事司法の現場にもっと参加する必要があると思う。