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国際人権ひろば No.56(2004年07月発行号)

現代国際人権考

世界から大阪へ、大阪からアジア太平洋へ

初瀬 龍平 (はつせ りゅうへい) 京都女子大学教授・ヒューライツ大阪企画運営委員

万民平等に向けて


 20世紀の初頭に、アジアやアフリカの植民地に立つ男性で、キリスト教徒で、植民者で白人である欧米人は、自分たちだけが十全な人間と思い、その土地の人を同じ権利をもつ者と思っていなかった。これに対して、今日では、地球上のすべての人々が人間として平等であるという思想が、世界中に広まっている。黒色の人も黄色の人も白色の人も、女も男も、子どもも大人も、先住民も旧植民者も、ムスリムも仏教徒もキリスト教も、貧乏人も金持ちも、障害者も健常者も、誰もが人間として同じ、と考えられている。しかし、これはまだ理念上の原則にすぎない。現実の人権保障は、政治的・経済的・社会的意味での強者に有利であって、弱者には不利である。人権の保障には、その社会の歴史的条件が関係しており、有利と不利の関係は国内レベルでも国際レベルでも起こっている。この関係には、経済・軍事・文化のグローバル化の展開に応じて、急速に変化している面もある。
 総じていえば、近年のアジア太平洋では、一部の国を除いて、人権保障の状況は、民主化の進展にともない、確実に改善されつつある。改善の背景にあるのは、アジア太平洋全体の経済成長である。改善の動因となっているのは、民主化と人権保障を求める市民運動、NGO活動、あるいは地道な人権教育の進展である。法的面では、国際人権レジームが各国の国内人権体制に一定の影響力をもつようになっている。その反面で、人権侵害を進めるのは、一般に政治権力側であり、とりわけ抑圧的独裁的政権である。経済面では、開発政策で国民全般の生活水準が上がっているが、都市貧民、先住民が犠牲者になっていることは見落とせない。新しい問題としては、グローバル化のなかで人の国際移動に伴なう人権保障が問題となっており、さらに人身売買という古くて新しい問題が深刻になりつつある。

ヒューライツ大阪への期待


 これからは、この地域で国内的にも国際的にも、人権保障体制の確立が課題となっている。そのためには、まず地域全体について、人権の侵害と保障の状況を知り、その知識をひろく共有していくことが必要である。ヒューライツ大阪は、地域における人権状況を国際機関レベル、地域の国家レベル、および各地のNGOレベルで、総合的に情報として集積し、それを国際レベル、各国レベル、市民レベルに公開していくことが、求められている。アジア諸国・諸地域の正確な情報、および国際的基準・制度の正しい情報が、具体的人権侵害を解決していく第1の前提となる。そのうえで、ヒューライツ大阪は、特定課題(たとえば人権教育)について、世界の国際機関、地域の国家、地域の市民と3つのレベルで、地域内の人権保障の協力体制づくりに参加し、情報の発信基地となることができる。ヒューライツ大阪に期待される第3の役割は、国際人権の基準と制度を、大阪を中心としつつも、広く日本国内の市民に向けて、一般人に分かりやすい形で解説、提供することである。同様に、アジア各地で人権保障に取り組む政府機関や市民活動の現状について、日本国内、さらにはアジア各地の市民に向けて、正しい情報を伝える役割が期待されている。また、日本はアジア諸地域の先進的例から多くを学ぶ時代となっており、この点でもヒューライツ大阪のリーダーシップが望まれる。
 最後に一言。情報は、知られない主体には、集まってこない。ヒューライツ大阪の存在自体が、アジア太平洋地域で広く知られなければならない。そのためには、研究員が不断に国際的な人間関係をつくっていくことがなによりも大切である。それに加えて、「国際人権教材アウォード2004」のような試みが重要となる。また、急速に進む情報通信革命との関連で、情報の取得・共有・伝達の方法として、紙媒体に加えて、多様な形の電子媒体を利用することで、ヒューライツ大阪の存在と価値が広く知られることになろう。