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国際人権ひろば No.56(2004年07月発行号)

国際化と人権

障害者の権利条約に関する第3回特別委員会を終えて

川島 聡 (かわしま さとし) 新潟大学大学院博士課程在籍

背景


 2001年12月に採択された国連総会決議56/168に基づき、障害者の権利条約に関する諸提案を検討する特別委員会(Ad Hoc Committee)が設けられた。第1回特別委員会(2002年6~7月)では、条約が障害者の人権保障に貢献し得ることが認められた。第2回特別委員会(2003年6月)では、条約を作成するとの合意が広範に得られ、条約草案テキストを作成する作業部会(Working Group)の設置が決定された。そして今年2004年1月に開催された作業部会では、前文と本文25条から成る作業部会草案が作成された1
 この草案に基づいて、このたび開催された第3回特別委員会では、条約草案交渉が始まった。委員会は、2004年5月24日から6月4日まで開催され、土日月の三連休を除く、実質9日間の会合をもった。以下において、第3回特別委員会における条約草案交渉(審議)の概要をごく簡単に述べる。

第3回特別委員会の模様


 計9日間に及んだ第3回特別委員会では、国連加盟国(政府代表)とオブザーバー(障害者団体等のNGO、地域委員会、国内人権機関、専門機関等)とが一堂に会する本会合(公開会合)が、午前10時からと午後3時から、それぞれ約3時間ずつ開催された。
 この本会合では、各条文につき、政府代表の発言が一通り終わった後に、オブザーバーが発言するという流れで逐条審議が進められた(なお、オブザーバーの発言の後にも、政府代表が追加的に発言することもあった)。これらの発言のうち政府代表の修正提案のみが、会議場正面の両側に設けられた2台の巨大スクリーンに映し出された作業部会草案に書き加えられていった。このようにして第3回特別委員会では、作業部会草案第1~24条、前文、国際協力についての審議が行われたものの、この草案の第一読はすべて終了することはなく、第3条(定義)や第25条(監視)、タイトルなどの審議は第4回特別委員会に持ち越された。
 各国政府による発言(修正提案)は、多種多様で膨大な数となり、その論点も多岐にわたる。その僅かな例を挙げてみると、EU代表は、障害の定義等を定めた草案第3条を不要と見なして、草案第4条、5条、7条の要素をまとめた、「非差別」と題する新第3条案を提案した。また、「障害のある特定集団」に関する個別条文を設けることは必要か否かという論点について、「障害のある子ども」と題する草案第16条をより充実させようとする立場や、「障害のある女性」と題する新条文案を提案する立場が見られた一方、そのような「障害のある特定集団」は前文等で言及すべきであるとの主張もあった。
 これらを含む数多の政府修正提案は、第3回特別委員会の最終日に採択された報告の付属書IIに収められている2。しかし、この付属書IIは、あまりにも多くの修正提案が書き込まれているため、読みづらく煩雑である。また、この付属書IIは、会議場のスクリーンに記録された政府代表の修正提案のみが掲載され、オブザーバーの提案は反映されていない。
 したがって、本会合の審議状況を把握するためには、政府とオブザーバーの発言がともに記載されている、ランドマイン・サバイバーズ・ネットワークのデイリーサマリー(LSN日報)と、付属書IIとを照らし合わせることが不可欠である。ただし、このLSN日報も、政府やオブザーバーの発言をすべて網羅的に反映してはおらず、付属書IIの内容と一致していない箇所も見られる。そこで、本会合の審議状況をより深く理解するためには、付属書IIやLSN日報に加えて、国連のウェブサイトに掲載されている、政府や専門機関、国内人権機関、障害者団体等による修正提案3などを適宜参照することも必要となる。
 さらに、第3回特別委員会の模様に関して、日本語で読める資料としては、「全国障害者問題研究会」4と「きょうされん」5の各ウェブサイトが貴重である。前者は会期前半について、後者は会期後半について、それぞれ本会合のみならず障害者団体会議(コーカス)やサイドイベントなどの動向もあわせて報告している。本稿では十分に述べていない、日本政府代表団の発言に焦点を合わせた日報としては、「障害者インターナショナル日本会議」のウェブサイトが優れている6。加えて、LSN日報の一部の邦訳は、「日本障害者リハビリテーション協会」のウェブサイトに掲載されている7

第4回特別委員会に向けて


 さまざまな修正提案が出された第3回特別委員会の状況から考えてみても、今後の条約交渉がどのように展開し、いつになったら条約草案の内容が収斂して確定されるのかは、現時点では予測できない。ちなみに、特別委員会議長ルイス・ガレゴスは、2005年中に特別委員会を2度開催して、同年9月には条約を署名する準備に取り掛かりたいと考えているようである8。だが、このような考えは、国連の決議の上で確定された事項ではない。現時点で明らかなのは、第4回特別委員会が、今年2004年8月23日から9月3日まで開催されることである。
 よって、当面の課題となるのは、来年以降の動向も見据えつつも、第4回特別委員会に向けて周到な準備をすることであろう。その際、「我らのことは、我らを抜きにして決められてはならない」との障害者参加の基本路線に常に立ち返ることが必要である。もとより第4回特別委員会の条約交渉がどのように進められるのかは本稿執筆時点で明らかではないが、障害者の主張を条約交渉に反映させるとの姿勢は、これまでと同じく強調されなければならない。
 かかる観点から見ると、第4回特別委員会に向けて、さしあたり次の諸点に留意すべきである。まず、(1)特別委員会では、障害者団体(NGO)はオブザーバーとして「公開会合」に出席して意見を表明することが許されているため、障害者団体を排除する「非公開会合」などを開くべきではない(第3回特別委員会では、そのような「非公開会合」はもたれなかった)。また、(2)特別委員会では、毎会期、本会合の合間を縫って障害者団体コーカスが毎日開催されているが、このような障害者団体間の連携調整・戦略形成(効果的なロビー活動の戦略を含む)を一層効果的なものにすることが重要となる。さらに、(3)この条約起草過程には、一部の障害者の主張のみならず、できるだけ多くの障害者の主張を反映させる工夫も一層必要となる。とりわけ途上国の障害者自身の主張は届きにくいため、国連の任意基金等を活用して、その主張を条約論議に反映させる回路を探るべきである。そして、(4)途上国か先進国かを問わず、障害者のさまざまな主張を「下から」インプットする道を切り開くことが大切である。そのためには、国内レベルにおいて条約起草化の現況を周知させ、活発な意見交換を行う場を設けるなどして、国際レベルと国内レベルとの空隙を埋める努力をすることが求められる。
 以上に加えて、とりわけ日本との関連において付言すれば、(5)日本障害フォーラム準備会と日本政府との間で意見交換会がこれまで何度となく設けられ、第3回特別委員会には、日本政府代表団の顧問に東俊裕氏、同オブザーバーに金政玉氏が障害者団体からそれぞれ迎えられるなど、日本政府と障害者団体との意思疎通の土台が着実に築かれてきている。そのような土台を第4回特別委員会においても維持・発展させるべきである。また、(6)第3回特別委員会のサイドイベントとして、日本障害フォーラム準備会は、国連日本政府代表部及び国連アジア太平洋経済社会委員会と協力して、「合理的配慮(reasonable accommodation)」9をテーマとするセミナーを開催して一定の評価を得た。これと類似のセミナーを第4回特別委員会でも開催すべきであろう。
_____

1. これまでの経緯は、アジア・太平洋人権情報センター『国際人権ひろば』44号(2002年)、同『障害者の権利 アジア太平洋人権レビュー2003』(現代人文社、2003年)、長瀬修・川島聡『障害者の権利条約-国連作業部会草案』(明石書店、2004年)等参照。最後の『障害者の権利条約』に収められている作業部会草案の邦訳は、「日本障害者リハビリテーション協会」のウェブサイトに掲載されている。
2. U.N.Doc. A/AC.265/2004/5, Annex II, 9 June 2004 (Advance unedited text)
3. http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc3daily.htm
4. http://www.nginet.or.jp/box/UN/UN.html
5. http://www.kyosaren.or.jp/
6. http://www.dpi-japan.org/
7. http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/
8. U.N. Press Release of 4 June 2004; U.N. Press Briefing of 24 May 2004
9. 合理的配慮(合理的便宜)は、作業部会草案の第3条(定義)、7条(平等と非差別)、17条(教育)、22条(労働の権利)において規定されている。この草案第7条4項によれば、合理的配慮は、「障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される」。合理的配慮は、米国障害者法(ADA)やEC指令(2000/78/EC)、社会権規約委員会一般的意見5号などに明記されている概念であり、英国障害者法(DDA)では「合理的調整(reasonable adjustment)」と言われている。