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国際人権ひろば No.54(2004年03月発行号)

特集:12万人の人々が「もうひとつの世界」を考えた世界社会フォーラムPart2

子どもたちが新しい子ども時代を可能にする~世界社会フォーラム

中山 実生 (なかやま みおい) 子どもの権利活動家

 新しい子ども時代を可能にするのは子どもたち自身だ。そんなメッセージを受け取ったのはムンバイで開催された世界社会フォーラム(以下、WSF)であった。第4回のWSFにして初めて、"子ども"を取り巻く諸問題が一つの重要な課題となった。「グローバル化する世界における子どもの権利グループ(The Group on Children's Rights in a Globalizing World;CR4WSFと呼ばれる。以下、CR4WSF)」という作業グループが中心となり、本会議におけるプログラムを企画、実行した。ムンバイに拠点を置くYUVA(Youth for Unity and Voluntary Action)というNGOがインド国内外のNGOに呼びかけ、2回の準備会合を経てネットワークを60団体に拡げた。
 "子ども"に関する議論の柱は4つあった。(1)「すべての子どもにすべての権利が保障されて初めて、新しい別の世界が可能となる」という子どもの権利の認識と行使の重要性、(2) グローバル化する世界と子どもを取り巻く諸問題の関係性、(3) 教育の必需性、(4) 子どもに保障されるべき"自由"である。特に奴隷状態からの一刻も早い解放、表現の自由、自由に生きる権利などに関する"自由"がテーマであった。

■ グローバル化世界を生きる子どもたち


 グローバリゼーションが子どもたちに一体どのような影響を与えているのか。1990年代初期からインド政府は自由化と民営化政策を含む経済改革をおこなった。その結果、
 (1) 貧困層の暮らしに変化が現れた。インドはグローバル化時代の中で年間6.5%の経済成長率を見せているが、絶対的貧困層の数は拡大している。この不平等を最も被っているのが女性と子どもたちであり、彼らの73%は貧困ライン1以下 で暮らしている。インド人口の60%以上は農業が生業であるにもかかわらず、政府の予算比率は80年代ではGDP(国内総生産)の11.6%から90年代の9.1%に減っている。農産物の価格下落により、多くの小作農やダリット農民2 たちが土地なしとなり、地主や上級カースト層が土地をさらに手に入れている。化学肥料、殺虫剤、種子などの農業に必要なもののコストが上昇し、小作農たちによる農業を不可能にさせている。
 (2) 食糧確保においても影響が出ている。90年代に食糧価格が上昇、基本的に必要な食糧の購買力が低下した。独立以来飢餓が要因で毎年死者が出ている一方、前例を見ないほどの穀物およそ6,000万トンが余っている。また、カルナタカ州やマハラシュトラ州などの農民が自殺をしている現象も見られる。その理由は、グローバル化により安い穀物が海外から輸入され、インドの穀物価格が下がったり、雨が降らず収穫が十分でないため、投資しただけ稼ぐことができず借金を負ってしまい、先行きに絶望したりするからである。父親の自殺により一家の稼ぎ手は子どもに移り、子どもは学校を辞めて働くようになる。
 (3) 医療サービスの民営化も影響を与えている。政府が運営する国立病院が減り、個人が経営する病院が増えている。それに伴い、サービスもより民営化されている。医療費に占める個人の負担額は4分の3を占め、政府による負担はわずか4分の1だ。入院費用の40%は個人の財産を売る、あるいはローンを組んで支払われたりする。その結果、貧しい家庭の子どもたちはこの医療サービスが受けられないことになる。
 (4) 教育の非無償化および民営化も影響を与えている。国会や中央政府によって設立された様ざまな委員会から教育予算はGDPの6%であるべきと勧告されているにもかかわらず、現在4.02%に留まっている。社会部門に一人当たり1USドルしか費やされない一方で、防衛と債務返済に170USドルが費やされている。グローバリゼーションによる間接的影響として、民族やカーストに基づく差別、宗教原理主義、紛争と暴力、文化的同質化(MTVが地元文化を壊していく)、食パターンの変化(ファースト・フード、ソフトドリンクなど体に悪いといわれる食べ物の流行)などが挙げられる。

■ 世界の子どもたちの声を集約して


 WSFでは"子ども"をテーマとしてワークショップやパネルディスカション、劇、デモなどが活発に展開された。ここでは、会場からの印象的だった声を届けたい。
 子どもたちがスピーカーとしてステージに立ち、自分達の国の現状、子どもの権利などを訴えた。パキスタンから来た少女は疑問を会場に投げかけた。「私たち子どもは十分な資源を手に入れることができているでしょうか。資源とは、健康管理であり、学校であり、全ての資源が子どもたちに用意されていなければなりません」。
 フィリピンから来た少年も「フィリピンではなんらかの事情で子どもたちが家族から離れて路上に出ています。子どもたちは、危険な目に遭ったり、性的いやがらせを受けたり、犯罪に巻き込まれています。ぼくたち子どもは少年司法がどういう制度なのかきちんと知りたいです。子どもの権利とは何か、ぼくたちは正確に知りたいのです」と訴えた。
 コロンビアの少年が自国の子どもの人身売買について触れ、子どもの役割について語った。「子どもたちが人身売買のわなに陥っています。子どもたちが誰からも守られていない状況があるからこそ、自分がここにいて声を上げたいです。子どもたちが声を一つにして上げることで、子どもたちが生き延びることができるようにしたいです。ぼくたちには自由に表現をする権利、遊ぶ権利、決定する権利があります」。
 マグサイサイ賞(アジア版ノーベル平和賞)を受賞した、Dr.シャンタ・シナ3からは児童労働反対を訴える力強いメッセージが送られた。「子どもたちはどんな国の子どもでも、どんな状況においても、どんな仕事であっても、働いてはいけないと明言することが大切です。政府はお金を持っています。ロケットを作るお金、戦争をするお金があります。しかし、それらのお金は教育に投資されなければいけません。フルタイムの正規教育を子どもたちは受ける必要があります。社会規範の中に『子どもは働くべきではない』というのがあるべきです」と述べた。
 劇では、"スパルタクス・リターンズ(Spartacus Returns)"を紹介しよう。苦しみの中にある子どもたちの解放をテーマとした劇で、役者70%は全カルナタカ州から集まった元債務奴隷者(子どもを含む)であった。その他、路上で暮らしていたり働いていた子どもたち、ドラッグ中毒から抜け出した子どもたちなど様ざまな背景を抱えた人たち150名が舞台の上に立った。この劇は、WSFのテーマと深く関連している。グローバル経済の象徴地であるマンハッタンを子どもたちが築いたり、KoKo Kolaマンが登場し、子どもたちに「Kolaを飲もう!」と誘惑する場面がある。その後、アンクル・サム(アメリカの象徴)が登場してきて、子どもたちにドル札をばら撒くシーンが展開する。監督ジョン・デバラジは公演後以下のように語っている。「スパルタクス・リターンズとは、自分の中に閉ざされている『子ども』を取り戻すものであり、自分の中にある『縛り』を解くものです。スパルタクス・リターンズを行う過程の中で私たちは自由になっていくのです」。
 CR4WSFのコーディネーターであるヴォラさんは、「子どもたちがパネルにスピーカーとして参加したことで知的レベルにおいて子どもの存在がありました。また、子どもたちがパフォーマンスをしたことでも文化的に彼らは存在していました。子どもたち自身が問題を広げ意識啓発活動を展開していたことはとても素晴らしいことです」とWSF後のインタビューに応えた。

■ 新しい子ども時代は子どもたちの手で


 新しい子ども時代は可能か。WSFでも子どもたちが主体となりメディアに訴えたり、スピーカーとなったように、子どもたちがイニシアチブをとって子どもの問題を社会に意識啓発することで新しい流れを生み出すことができるのではないだろうか。その流れとは、子どもたちが権利を伝えたり、労働現場から助けたりして他の子どもたちに新しい子ども時代を与える役割を果たすことである。子どもたちが自分たちに関わる問題について認識でき、訴える政治の場を得られることはとても重要だ。子どもたちが"団体(グループ)"として活動し、子どもたち自身が、幾つもの子どもたちの声を一つにまとめ、社会に訴えることを通して現状を変えていくことで、新しい子ども時代を彼ら自身が築いていけるのではないだろうか。
  1. 貧困ラインとは、1日1米ドル以下で暮らす状態をいう。インド全体では、44%に及ぶ(参考;ユニセフ『世界子供白書2003』、統計 表6経済指標、105ページ)。
  2. ダリットとは、いわゆるカースト制度の外で、社会の最底辺に位置づけられている「不可触民(アンタッチャブル)」と呼ばれる人々。
  3. シャンタ・シナ氏はM.Venkatarangaiya Foundationの事務局長。E-mail; mvfindia@mvfindia.com。主に、アンドラ・プラデーシュ州で児童労働を廃絶を目指し、すべての子どもたちを学校へ送り出す活動をしており、その功績が評価され同賞受賞に至った。(参照;Deccan Heraldの記事"Shantha Sinha, Lyngdoh get Magsaysay Awards"より, 31/07/2003)
著者紹介:南インドのバンガロールを拠点に、インドの児童労働、ストリートチルドレン、子ども買春、子どものエンパワメントに焦点を当てて取材活動を行っている。また、フォトエキシビション「働く子どもの『遺産と伝説』キャンペーン」のコーディネーターを務める。子どもたちが写真を撮ることで、子どもたち自身が子どもの歴史を記録していく試み。詳しくは、同キャンペーン実行委員会事務局まで。