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国際人権ひろば No.54(2004年03月発行号)

特集:12万人の人々が「もうひとつの世界」を考えた世界社会フォーラムPart3

世界社会フォーラムで見た発展する途上国の性的少数者の運動

稲場 雅紀 (いなば まさき) アフリカ日本協議会

 2004年1月、インド最大の都市ムンバイで、世界130余の国から10万人近い人々が参加して「世界社会フォーラム」が開催された。
 2001年以降、世界の市民社会が広く集う場として開催されている「世界社会フォーラム」。9.11以後の「対テロ戦争」を基調とする国際情勢に対応して、反戦・反グローバリズムを訴える企画が増えている。一方、ミクロで具体的な社会問題をテーマにした企画も多く、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)などの性的少数者の運動や、地球規模のHIV/AIDS問題をテーマにしたシンポジウムも開催され、先進国・途上国を問わず多くの人々が参加した。

■ 途上国における性的少数者の運動


 「同性愛者の運動は先進国の運動、途上国には関係ない」。日本では、そういった思い込みが存在する。しかし、それは誤りである。同性愛者を始めとする性的少数者は、世界のどの地域にも存在し、欧米の同性愛者運動の影響を受けながらも、それを直輸入することなく、その地域・社会に存在する性的少数者の伝統的なセクシュアル・アイデンティティとの調和をはかりながら展開されている。中南米では、もともと同性愛者・性的少数者の運動は左派の政治潮流とともに形成してきた。東南・南アジアでは、ゲイを中心とする運動が、HIV/AIDS予防啓発運動とともに拡大してきた。サハラ以南アフリカでも、多くの国で、性的少数者の運動が形成されつつある。
 世界社会フォーラムで途上国の性的少数者の対話を試みた企画があった。エクアドルの「LGBT:南と南の対話」(LGBT:South South Dialogue)である。中南米と南アフリカのレズビアンが中心となったこのシンポジウムでは、途上国におけるLGBTの運動の現状と、運動の拡大を可能とする社会・経済的条件について討議された。スリランカの平和運動家で自身レズビアンであるスニラ・アベイセカラ(Sunila Abeysekara)は、2001年に始まったスリランカの和平プロセスが、性的少数者の権利をも公に語れる言説空間を作り出したことを報告、平和定着過程において性的少数者の権利を主張することの重要性を強調した。友情出演したエクアドルの先住民活動家ブランカ・チャンコサ(Branca Chamkosa)は、性的少数者の運動と先住民の運動は、多様な人々が多様なままでかつ平等であるというあり方の実現を目標としている点で共通すると述べ、性的少数者の運動にエールを送った。

■ 伝統的なセクシュアル・アイデンティティの位置づけとセックスワーカーの運動との連帯


 このように、途上国でも性的少数者の運動やそれを支持する市民社会の声は大きくなりつつある。その一方、途上国の社会は、先進国以上に、経済力・ジェンダー・都市と農村などの分断線が引かれており、また、伝統的なセクシュアル・アイデンティティを保持する性的少数者も存在する。当該社会において、性的少数者がどのようなセクシュアル・アイデンティティを持って生活しているかを知ることは、極めて重要である。
 インドの性的少数者の運動は、途上国の性的少数者をめぐる多様な状況を最もよく反映しているといえる。
 バンガロールを中心に活動する性的少数者の人権団体「サンガマ」(SANGAMA)のエラヴァルシ・マノハール(Elavarthi Manohar)は、次のように述べる。「インドでは、欧米的なレズビアン・ゲイというアイデンティティは強くない。伝統的なセクシュアル・アイデンティティをどう運動に位置付けていくかが重要だ」。バンガロール周辺における性的少数者の伝統的なセクシュアル・アイデンティティとして、マノハールは、カースト化された「ヒジュラ」(Hijra:欧米的にいうと、男性から女性へのトランスジェンダーや女性的なゲイ)、カースト化されていない「コティ」(Kothi:女性的なゲイ)、「ダブル・デッカー」(double decker:女性的でないゲイ)、「パンズィ」(Panthi: ヒジュラやコティと主に性行為を持つ男性的なゲイ)を挙げる。
 こうした性的少数者に対して、インド社会では多くの差別や偏見、暴力が存在する。特にヒジュラやコティの人々は、あらゆる職業から排除され、ショービジネスやセックスワークに従事することが多く、警察などからのいやがらせや弾圧も後を絶たない。HIV/AIDSの問題も深刻である。
 こうした課題は、インドのセックスワーカーの直面する問題でもある。そのため、インドの性的少数者の運動は、セックスワーカーの運動と大きく連携している。インドの多くの大都市には、セックスワーカーの大規模な社会組織が存在し、HIV/AIDS予防啓発、警察からのいやがらせや弾圧への抵抗などを行っている。インドの性的少数者は、セックスワーカーの運動と連携しながら、ヒジュラやコティへの人権侵害に対抗している。

■ 刑法反ソドミー条項:インドの同性愛者・性的少数者の課題


 インドの性的少数者が直面するもう一つの問題が、イギリス植民地統治下でイギリスによって持ち込まれた反ソドミー法(刑法377条)である。「自然の秩序に反する形で、肉欲に基づく性行為を行った者」を重刑に処するこの条項は、現在、同性愛者を処罰する法律として機能しており、性的少数者のセックスワーカーが逮捕されたり、男性同性愛者のHIV/AIDS予防啓発に携わるNGOスタッフが逮捕・起訴されるといった事件が起こっている。現在、ソドミー条項の是非が法廷で争われているが、インド政府は、この条項が「児童買春や児童との性行為を取り締まる上で有効である」などと主張している。刑法反ソドミー条項の廃絶は、インドの全ての性的少数者の運動の課題となっている。
 世界社会フォーラムでは、米国に本部を置く性的少数者の人権団体「国際ゲイ・レズビアン人権委員会」(IGLHRC)が世界のソドミー法の廃止運動の連携をめざしてシンポジウムを行った。ソドミー条項を途上国でも撤廃していくために、世界人権宣言や国際人権規約を活用することが必要だという認識が示された。

■ ミリタリズムや原理主義への取り組み


 性的少数者にとって世界社会フォーラムが重要なのは、性的少数者の運動と、政治・経済のグローバル化といった「マクロ」な問題の関係をつかみ、他の市民社会の運動との連携を構想することができることである。先進国主導のグローバリズムの中で、途上国の政府は経済の自由化や公共部門の私有化を強制される一方、「対テロ戦争」の流れの中で軍事化路線が強化されている。また、社会では、宗教的原理主義や排他的ナショナリズムが強まっている。ミリタリズムや原理主義、ナショナリズムの強化は、社会で性的少数者への迫害、弾圧に直結する。
 先に紹介した「サンガマ」が開催したシンポジウム「セクシュアリティ、ナショナリズム、ミリタリズム」は、現状の風潮に対して、性的少数者が生存し活動できる空間をどう確保し拡大していくかの戦略を問うものだった。米国のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの理論家であるロザリンド・ペッチェスキー(Rosalind Petchesky)は、ナショナリズムと帝国主義の同盟に対して、フェミニスト、性的少数者、セックスワーカー、人権活動家が連携を強化し、「性的行動、性的アイデンティティ、性的欲望の同盟」を作り出していくところに道が開ける、と述べた。
 今回の世界社会フォーラムでは、性的少数者の運動とセックスワーカーの運動が連合して、「レインボー・プラネット」(Rainbow Planet)という共闘組織を作り、デモや記者会見でその存在を大きくアピールした。これはペッチェスキーのいう「同盟」を先取りしたものである。性的少数者が多様性を守りながら平等に生きていくことのできる空間が狭められつつある中で、私たちは、世界レベルで、連携と協働に向けた努力を押し進めていく必要を感じている。