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国際人権ひろば No.43(2002年05月発行号)

国際化と人権

日本の司法における人種主義を問う ゴビンダさん冤罪事件

高橋 徹 (たかはし とおる)
無実のゴビンダさんを支える会

ゴビンダさん冤罪事件-不当逮捕から5年

 1997年3月8日、東京都渋谷区で一人の日本人女性が殺される事件が発生しました。そして3月23日、近くに住んでいたネパール人のゴビンダ・マイナリさんが逮捕されました。逮捕容疑は「入管法違反」でした。しかし実際の取り調べは、強盗殺人事件のことに終始し、殴ったり蹴ったりの暴力的な取り調べも行われました。ゴビンダさんが犯人だとする証拠はなく、また様々な無罪を示す証拠から、一審の判決は無罪となりました。

 それにもかかわらず勾留が続き、2000年12月に高裁で逆転有罪・・・という経過をたどる事となりました。ゴビンダさんは、現在もなお東京拘置所の中で、無実を訴え続けながら、最高裁の無罪判決に唯一の望みを託しています。

 このように、この事件は別件逮捕や取り調べ段階での違法性、また以下に述べるように、無罪判決後の勾留問題など人権を無視した日本の刑事手続の問題点をあらわにしました。また背景にある外国人差別など、多くの問題をはらんでいます。

一審無罪判決の理由

 一審判決では、「検察官が主張する被告人と犯行との結びつきを推認させる各事実は、直ちに被告人の有罪性を明らかに示しているというものではない」「一点の疑念も抱かせることなく被告人の有罪性を明らかにするものでもない」として、「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に従って判断し、無罪判決を言い渡しました。

私がゴビンダさんの無実を確信したわけ

 裁判はともかく、私たち法律の門外漢が、ゴビンダさん事件と出会い、「無実を確信するに至る決定的な要素」がいくつか存在します。その中から以下の点を指摘しておきます。

 殺人事件発生とされる日は1997年3月8日、死体発見は3月19日。この間のゴビンダさんは、殺人現場のアパートに隣接するアパートに、いつものように生活していました。

 一方、ゴビンダさんと殺人事件を結びつける、最も有力な証拠は、現場のトイレの水の中に残置されていたコンドーム内の精液のDNA型が、ゴビンダさんのDNA型と一致したことなのですが。

 仮にゴビンダさん犯人説に立つとすれば、「事件発生(3月8日)から死体発見(3月19日)までの間、自分の生活しているアパートのすぐ隣のビルの一室に、自分の殺した女性の死体がころがっている」という事実と「同じ期間、現場に残した自分の精液のはいったコンドームを処分しに行かなかった」という事実の整合性が取れません。

 さらに、放置されたコンドームが不自然なだけでなく、現場近くにのうのうと生活し続けたこと自体がとっても不自然です。そうして警察がゴビンダさんを捜し始めたとき、わざわざ自ら出頭しました。自分が被疑者の一人にあげられていることを知り、自分が犯人ではないことを警察に説明するために出頭したのです。

 このように、ゴビンダさん犯人説に立つかぎり、ゴビンダさんの事件直後の様々な行動に全く説明がつかず、ゴビンダさんの人物像と行動の整合性が取れなくなっていき、メロメロになってしまうのです。

予定されていたような高裁の逆転有罪判決

 東京高裁刑事第4部は2000年5月、一審無罪判決にもかかわらず勾留を決定しました。日本の司法は、ここでも違法な手続きの上塗りを犯したことになります。

 二審高裁は、さらにゴビンダさんを「無罪勾留」の状態に置きながら、同年8月18日、控訴審を開始しました。控訴審では弁護側の重要な証拠申請を却下し、一審判決で指摘された疑問点や無罪証拠に対して論理的な反証もせず、同年12月22日、4ヶ月間という短期間の間に、求刑どおり無期懲役という逆転有罪判決を言い渡しました。

 二審逆転判決に至る経過や、高裁での審理の粗雑さを考えると、ゴビンダさんの冤罪はさらに明白といわねばなりません。

無罪勾留は外国人差別

 通常の日本人であれば、一審で無罪判決が出たなら、さらに勾留が続くことはあり得ません。この前代未聞の「無罪勾留」は、様々な波紋を呼びました。

 東澤靖弁護士は「東電OL殺人事件被告再勾留」(『世界』の2000年7月号記事)のなかで次のように述べています。「勾留の必要性について、東京高裁刑事第4部は、『東京入国管理局庁舎に収容されていたもので、住居不定であることは明らかであり』、『退去強制が行われた場合(中略)審理手続を回避する結果となる』から逃亡のおそれがあるとする。しかしこれでは、入国管理局が違反者に全件収容、強制退去という政策をとっているもとで、すべての入管法違反の外国人に、勾留の必要性が自動的に認められることになってしまう」。

 「この問題はオーバーステイの外国人に限られる話ではない。たとえ在留資格をもって滞在する外国人であっても、いったん勾留されてしまえば拘置所の中から在留資格の更新手続きを行うことは認められていない。勾留中に切れてしまう在留資格を更新できない以上、永住者以外の外国人は、結果的に『不法残留』になったものとして、状況は同じになる。勾留の必要性がこれだけで認められるなら、外国人にはもはや逃れるすべはない」。

世界に広がる支援の取り組み

 ゴビンダさんへの面会差し入れ、家族との連絡などの支援は、逮捕当初から友人達によって担われていました。当初は特に「日本ネパール協会」の心ある人たちや、「在日ネパール人会」の有志によって取り組まれてきました。また拘置所訪問をボランティアで行っている「ゆうの会」や「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」等の市民団体でも支援を開始し、2001年3月「無実のゴビンダさんを支える会」の結成に至りました。

 「支える会」では主として「手紙・面会・差し入れ等を通じての精神的な支援」「本国家族との連絡や日本への招聘」「ホームページ、学習会、集会、出版、ビデオ作成などを通じての情報宣伝」「ハガキや上申書などを通じての最高裁への働きかけ」に取り組んでいます。支援の輪は、日本はもとより、ゴビンダさんの本国のネパールや、アメリカ合衆国にも広がってきています。

 最高裁での高裁判決破棄、無罪を勝ち取るためには、本事件を一人でも多くの人に知ってもらい、世論を背景に、最高裁判所への働きかけをしていかねばなりません。一人でも多くの皆さんが、この事件に関心を寄せてくださり、ご支援いただければうれしいです。

参考書籍:『神様、わたし やっていない!~ゴビンダさん冤罪事件』(無実のゴビンダさんを支える会編、現代人文社)

同会の連絡先:現代人文社気付、Eメール:oryzias@anet.ne.jp 、留守電・FAX:0426-37-8566、 http://www.jca.apc.org/~grillo/