MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.42(2002年03月発行号)
  5. 韓国で学んだNGO学

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.42(2002年03月発行号)

肌で感じたアジア・太平洋

韓国で学んだNGO学

韓 洋春(ハン ヤンチュン)
日本語講師

NGO大学院って何?

 私は一九九九年六月から二〇〇一年四月までの約二年間韓国ソウル市に留学していた。当初は語学力アップのために留学したのだが、二〇〇〇年三月から八月までの半年間、慶煕大学NGO大学院指導者課程でNGO学について学ぶ機会があった。

 NGO大学院と言っても日本ではなかなかなじみがないと思うが、韓国では一九九九年ソウルで開催された「世界NGO大会」をきっかけに、いくつかの大学でNGOを専門に研究する課程や機関が設置された。この慶煕大学も同年九月にNGOの理論と実際を学ぶ機関としてNGO専門の大学院を設置したというわけである。

 同大学院内には修士課程と指導者課程の二つが設置されていた。そのうちの指導者課程は、六ヵ月間の課程で入学対象者をNGO関係者や活動に興味がある者としている。入学に際し試験は実施されず、願書を提出しさえすれば入ることができるのである。しかもNGO専従者や社会人、外国人は授業料の二〇%が割引されるという特典まであった。ちなみに在日韓国人の私も割引対象だということで「まあ、一度どんなもんか入ってみよか」という軽い気持ちで願書を出した。そして、二〇〇〇年三月二日晴れて慶煕大学NGO大学院指導者課程に入学することとなった。

 私が入学した指導者課程の学生はその名の通り、何らかの形でNGOにかかわる人がほとんどであった。学生数は約五〇名で、年齢的には四〇~五〇代、性別では圧倒的に男性が多かった。外国からは私一人だけであった。クラス内の雰囲気は、前述した「世界NGO大会」を機にNGO間の連携を図ろうという気運が盛り上がっている印象を受けた。また、毎週木曜と金曜の夜七時から十時の授業に遠方から飛行機で駆けつける強者も数名いたのには正直驚いた。職業別では様々な分野のNGO専従者や公務員、教員、会社員など多岐に渡っており、中には現職警察官もいた。

激論が展開された授業

 私がこの指導者課程で学んだことは次の三点に集約されるかと思う。まず一つはNGOの経営戦略の重要性である。授業で教授が学生一人ひとりにこう問いかけることから始まった。「あなたのNGOの売れ筋商品は何ですか」と。そして経営者としての視点からNGOを捉えることの重要性をとうとうと説き、経営学の授業に入っていくのである。もちろん営利追求を促しているのではなく、NGOが確固たる基盤を築いて安定した活動を営んでいくためには経営戦略をどのように立てるべきなのか、現在の韓国のNGOに問われているという問題意識からである。NGOを一つのビジネスとして捉え、そのビジネスを成功させるためにはどのような経営戦略を立てるべきかと語る先生の授業に毎回大いに刺激を受けた。

 二つ目には事業運営の方法である。どのNGOもより良い社会をつくるために様々な活動を展開しているのだが、はたしてそれがどのような結果になっているのか、再考を迫られるものであった。韓国では「市民なき市民運動」「ワンマンNGO」「スタンドプレイリーダー」「第五の権力※」といった表現で批判されるNGOの現状がある。しかしなぜそのような批判を受けるようになったのか。単に集会への参加者数や会報の発行部数を誇るのではなく、自分たちが行っている活動が社会にどのようなインパクトを与え、具体的にどのように公益に資したのか、客観的にデータを出して分析する必要があるということを、韓国のNGOの歴史や各国での状況を追いながら学んだ。また、NGO内が民主化された組織であるかどうか、NGO内の教育システムの構築、そして自己評価機能など、示唆に富むものであった。

 三つ目にはNGOにかかわる人々の倫理観である。この大学院では週に一度外部から講師を招き、講演を聞くという授業があったのだが、そこに二〇〇〇年の落選運動でテレビにもよく出演していたある環境保護の運動家が講師として来たことがあった。が、その後彼が強制わいせつ罪で逮捕されるというショッキングな出来事があったのである。

 また、いろんなNGOの専従者が集まっており、「Yes」「No」をはっきり言う文化の韓国であるため、授業中に議論が口論に、そして口論が乱闘へと発展することもあった。その背景には年長者が絶対であるという文化や、徴兵制度の弊害とも思われる上官が絶対だという軍隊式の意識構造があったのであろう。椅子を振り回しながら「おどりゃー、いてもうたろかー、表に出んかい(もちろん韓国語で)」と言って廊下で乱闘騒ぎにまで発展したこともあった。そういった「事件」を糧に、学生同士でディスカッションしたことで自分自身を見つめ直す機会も与えられたと思う。とにかく授業をつぶしてまでも徹底して議論するということは幾度となくあった。

今、日本で思うこと

 私が韓国でNGOについて学びながら感じたことは、日本と非常に共通点があるのではないかということである。社会が抱える問題、NGOが直面している課題など、驚くほど日本と共通するところがあるのである。

 しかし一方で、お互いのノウハウや経験を交流し合う機会というのはまだまだ少ないように感じられた。特に韓国のNGOには、在日の民族団体のルート以外からは日本のNGOの情報があまり入ってこないのが現状である。日本でも韓国のNGOの情報を聞くということはあまりないような気がする。それらの状況を考えると、今後、NGOの世界でももっと大々的に日韓相互のインターンシップなどを進めることも必要であろうと強く感じる。

※第一から第三までの権力は国家の三権で、第四はマスコミだといわれてきた。第五は、それらの次にNGOが強大な権力になってしまったという意味が込められている。