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国際人権ひろば No.38(2001年07月発行号)

現代国際人権考

難民白書と日本

川島 慶雄(かわしま よしお)
ヒューライツ大阪所長・帝塚山大学教授

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今年新しい『世界難民白書―人道行動の五〇年史』を刊行した。一九九四年に『世界難民白書―難民保護へのチャレンジ』が刊行されて以降、難民白書は『解決をもとめて』(一九九五年版)、『人道行動の課題』(一九九七―一九九八年版)と発行されてきた。それらを通読すると、この七年間、世界の難民数は減るどころかますます増加しているばかりで、その性格と対応もさらに複雑化していることがうかがえる。

 今回の白書では、日本の対応についての記述も含まれている。そこでは、一九九〇年から九七年の間に難民と認定されたのは庇護申請者の僅か四%にも満たず、これは庇護申請に厳しい時間的制約が設けられており、並外れて高水準の立証が求められるためであるとしている。しかし、一九九八年と一九九九年にはそれ以前一〇年間の総数よりも多くの難民認定が行われ、一九九九年の認定率は七%を超えたと述べている。

 ここでは、日本の難民認定についての若干の問題を指摘したい。

 先ず、第一は、白書が指摘する庇護申請に対する厳しい時間的制約、いわゆる六〇日ルールである。出入国管理及び難民認定法によれば、難民認定の申請は、やむを得ない事情がある場合を除いて、上陸した日から六〇日以内に行わなければならないとしている(第六一条の二)。UNHCR計画執行委員会の結論は、このような期間を遵守しない申請も審査の対象から除外してはならないとしているが、これに従うためには難民認定において「やむを得ない事情」を最大限に活用しなければならない。

 第二は、白書の指摘する並外れた高水準の立証についてである。UNHCRの『難民認定のための手続と基準に関するハンドブック』によれば、立証責任は原則として申請者にあるが、関連するすべての事実を確かめ、評価する義務は申請者と審査官の間で分かち合わなければならないとしている。申請者の立証には自ずから限界があることを考慮すれば、認定者の側でより広範な情報源を活用する努力が必要であろう。

 第三は、白書が別の箇所で述べている迫害の主体の問題である。国家の積極的行為が迫害となることは明らかであるが、迫害が反政府軍やその他の武装集団、あるいは宗教集団や一般住民など国家以外の主体によって行われる場合がますます増加している。迫害の主体の多様化である。国家が自ら迫害を行わなかった場合でも、国家以外の主体による迫害を国家が有効に防止し得ない場合には、国家の不作為による迫害が認められることになる。難民認定においてもこのことが十分認識されなければならない。

 ここでは、日本の難民認定制度にみられる二、三の問題を取り挙げたが、その他にも、申請そのものについての障害とか、認定機関や異議審査機関の問題、不認定の理由の不明確さなど、様々な問題がある。しかし、これらはほとんどが難民認定制度の運用に関わる問題であって、その運用次第で、より庇護申請者の利益に沿った方向に向かうように改めることができるものである。ただ、そのような方向に向かうかどうかは、日本がこれから外国人の受け入れについてどのような全般的政策をとろうとするのかに関わっている。目前に迫る若年労働人口の深刻な不足という事態において、外国人の流入が不可避であるとするならば、難民も含めた外国人との共生社会の構築に向かわなければならないであろう。それを可能にするかどうかは政治的意思にかかっている。