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国際人権ひろば No.37(2001年05月発行号)

肌で感じたアジア・太平洋

カースト差別に反対するニューデリー会議から

石川 結加(いしかわ ゆか)

 今年三月一日から四日にかけて、インドのニューデリーで「人種主義とカーストに基づく差別に反対するグローバル会議~職業と世系に基づくダリット差別」と題する歴史的に記念すべき会議が開催された。ダリット(被差別カースト)とは、「不可触である」と見なされている人々のことで、ヒンドゥ教のカースト制度に由来しているといわれている。

 ダリットは、インドで一億六千万人、その他の南アジアを合わせると2億四千万人いるといわれている。そのほか、日本、西アフリカにもダリットと同様の世系(門地)に基づく差別が存在する。今回の会議には、インド前首相をはじめとして、国連人権小委員会の特別報告者(門地問題ワーキングペーパー作成者)、国連人種差別撤廃委員会委員、南アフリカ人権委員会委員長、インドの被差別カースト関連団体、弁護士、メディア、NGOなど南アジア、ヨーロッパ、米州、東アジアの十三カ国から約二〇〇名が集まった。開会式では、多くのマスコミが取材に訪れ、翌日の新聞で今回の会議を大きくとりあげた。なかには、「日本にもカースト差別」という内容で、部落差別を紹介するものもあった。この会議 は、今年八月末から南アフリカのダーバンにおいて開催される「国連反人種主義・差別撤廃世界会議」のための地域・テーマ別の準備会議として、インド全国ダリット人権キャンペーンの主催で開催された。ヒューライツ大阪は後援団体の一つとして協力している。

 この会議は、世界会議の地域準備会議としてイランのテヘランで開催されたアジア準備会議からわずか一〇日後に開催されたので、テヘラン会議でかわされた議論が今回の会議をさらに活発にさせた。しかし、世界会議の議題や宣言および行動計画案にはこれまでのところカースト問題は含まれていない。それには、インド政府がカーストに基づく差別は人種差別には含まれないという立場をとり、世界会議の議題からはずさせようと働きかけていることがその要因の一つといえるだろう。従って、なんとしてでもカーストに基づく差別が世界会議でとりあげられるよう国連や国際社会に働きかけるという課題をNGOはかかえていたが、テヘラン会議においてはその点は発展を見なかった。そこで、ニューデリー会議の開催の意義がますます重要性を帯びることになったのである。

 「カーストに基づく差別は、人種主義である」。これが、今回の会議の大きな論点の一つだった。この点については、多くの意見がだされた。

 人種主義とは、種族や民族の違いに基づく差別とみなされてきた。一方で、カーストに基づく差別は、種族や民族の違いにかかわらず、職種や出身で差別を受けるという社会的、文化的、心理的、歴史的要素を強く含んでいる。人種主義の定義には含まれない要素をカースト差別は含んでいるために、長い間国際社会はその解決にむけた議論を野放しにしてきたという反発がある。だからこそ、「今こそ、カーストに基づく差別を広く訴えねば」と草の根の国際連帯を呼びかける声に説得力があった。

 そして、「ダリット女性に人間性の回復を」が二つ目の大きなテーマだった。ダリット女性は、ダリットであることと同時に女性であるがゆえに、複合的に差別の犠牲となっている。例えば、非識字、貧困、暴力、性暴力など非人間的な生活を余儀なくされている。さらに貧困であるがゆえに、性産業に関連した人身売買を強要されるなど経済のグローバル化の大きな犠牲ともなっている。言葉は現地語だったので理解できなかったが、犠牲者の証言の一言一言に重みがあり、犠牲者の思いが痛いほど伝わってきた。

 「国際的・国家的戦略を」が主催者代表から発せられた三つ目の主張である。今回の主催者代表であるマーティン・マクワン(Martin Macwan)さんにインタビューをした。被差別カーストの問題に取り組んで二〇年という彼は、幼い頃、児童労働の経験を持つ。将来、社会正義のために何かしなければと考えたとき、ダリットに対する差別の問題を避けて通ることができなかったという。彼がダリットのある村を視察、調査していたとき、ある日たまたま体調をこわし早く切り上げて滞在先にもどり、翌日その村を訪れた。信じられないことに、一晩で村に住む住民全員が虐殺されていたという。 今もなおインドでは、ダリット問題に取り組むことは命をかけた闘いである。彼は、カースト差別と闘う際、我々だけでは目的を達成することはできないと述べる。今回の会議の参加者の中には、国連を巻き込んだ国際的戦略に否定的な人、政府に対してあきらめている人など様々いた。しかし、マーティンさんは、我々は政府や国連を動かさなければ社会や人間を変革させることはできないと参加者に理解を呼びかけた。

 ようやく国連人種差別撤廃委員会が日本政府とバングラデシュ政府に対し、カースト差別や部落差別を従来の人種主義の定義とは区別するとしつつも、この条約の範囲に含むとする勧告を発表した。この成果をうけて、なんとしてでもカースト差別を世界会議の討議事項としてとりあげるよう国連や関係国に働きかけ、人権保障の枠組みを、現実の差別を解決していくためにどのように有効に活用していくべきかを、当事者やこの問題に関わる人々で議論し、決定し、実行させていくという課題がでてくる。と同時に、ダリットとして生まれたことを運命としてただ受け入れることしかできないでいる人々がいることも忘れてはならない。このような人々が自分たちに人間性を取り戻したい、人間的に生きる権利を取り戻したいと立ち上がれるにはどうすればいいのか、これがむしろ最大の課題であるように私は考える。

 詳細に関する問い合わせ先:Martin Macwan, NAVSARJAN, 2,Ruchit Apartments, B/H Dharnidhar Derasar, Opp. Suraj Party Plot, Vasna, Ahmedabad-380007, Gujarat,India; E-mail: navsarjan@icenet.net

(石川結加さんは二〇〇一年三月末まで、ヒューライツ大阪のスタッフでした。四月からアメリカに住んでいます。)